東風

東風こち吹かに東風詠む人の多くとも飛び立ちかねつ梅にありとも



◇短歌



 春立ちて幾日いくかをかかぞふる。

 今日はなりはひに出でしかど、朝より冷たき雨のうち降れば、上ののたまはく、こののち愈〻いよゝ雪ともなるべし、定時さだめのときにうち出でむはけだし甚だこうずべくもあらし、とくぬべしと。

 肚の底にはあな嬉しと思へどさるを色には表さず、殊勝なる顏を作りて日の半ばなるを早〻にして戻りつ。

 さて、昨日一昨日も、今日ほどにはあらねど、さして風温みたりとも思はれぬを、「東風」を用ゐて發句を作れる人すくなからず。

 かゝる風など何處いづくにか吹ける、ひむかしとは背面そともをかふ、あるは、さる風は肌膚きふとゞかで、頭蓋の裡にこそ通ふらめなどと思ふは、吾ながすこぶ心惡こゝろあしわざ

 いかにもたはぶれに詠める歌也。

 こひねがはくは、知命と耳順のあはひに住まひせる豎子を、諸賢のおほどかにゆるし給はむ事を。


 言はでもと思へど、本歌は菅家くわんけと 山上臣による次の二首。


  東風吹かば匂ひおこせよ梅の花主なしとて春な忘れそ

 

  世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば






 

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