ひと月をちてくべき月讀つくよみのひと夜のうちにけてつ見ゆ



宵のうちに月けてくと言へどなほ緋黑あかぐろずて照るかも



◇短歌


 今宵こよひ望月もちづき一夜ひとよのうちにけてつ。

 あまことはり稀事まれごとにて、かねて見がほしく思へりしかば、薄雲の掛れゝどもれて月影を望み得つるは、ず嬉しとぞ思はるゝ。

 しかるに、いにしへの人は、くの如くけてなほ緋黑あかぐろき月を、或いは八岐大蛇やまたのをろち赤酸漿あかゝゞちなす目を見るが如く、さても禍〻まが〳〵しきものとぢつゝや眺めてけむ。

 世の進みてかゝるうれひの失せつるはまことよろしかるべけれど、うれひの消ゆるむたよろづの事どもに、ゆかしき情趣おもむきいたうしなはるゝもあめりと思はるゝこそ寂しけれ。



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