第87話 新しい服を配る

 リーゼとミミルを連れて圭は陽が昇ったばかりの村を歩いていた。

 新築区画を出て元々あった古い井戸の広場までやってきた。

 まだ各家は寝静まっており、村人は誰も出歩いていない。


「ねえ、どうしたの、こんなに朝早くに」


「ふあ~、まだ眠いですにゃ~」


 いつもより早い朝からの散歩に二人がそれぞれの言葉をこぼす。

 それを聞いた圭が魔族よろしくな凶悪な顔でニヤリと笑みを浮かべる。

 実際のところ圭の顔に慣れている二人だからどうとも思わないが、端からみたらおぞましい悪魔の笑みなのだ。


「ふふふのふ、ついに手に入れたのだよ、イロモノ系じゃない真っ当な服を!

これでパジャマ以外のまともな服も作れるようになった。

リーゼ、お父さんは頑張ったんだよ、宇宙人相手にそれはそれは頑張ったんだ。

褒めてもいいんだぞ」


「だから誰がお父さんやねん。

それで、どんな服が作れるようになったの?」


「ジャージだ」


 一応、パジャマとジャージもまともっぽいけど、玄人の手にかかればイロモノ系らしいという無駄な知識は伏せておいた。


「ジャージ? なにそれ」


「美味しそうな名前ですにゃ」


「うん、ジャージは食べ物じゃないからね。

いや、玄人的思考ならジャージも食べ物になるのか?

美味しくいただけるって意味なら……或いは……。

おっと、危ない領域に足を踏み入れるところだった。

ミミル、ジャージは服だから食べるなよ」


「わかったですにゃ」


「わかんないから出してみてよ、そのジャージ? って服」


「ああ、ちょっと待ってな。

一応出す前にスキルの確認してみるか」


 開いたステータスからマイク〇ソフト社製のマウスポインタを動かし、目当てのスキルを開いてみる。




■生成3■

【女性用全身服を以下の条件に従い生成できる】

条件1・生成に必要な魔力量は中。

条件2・生成される服のサイズはS・M・L等、もしくは10cm単位の身長サイズから選べる

条件3・靴も同時にデザインに合わせたものが生成される。

条件4・触れている女性に直接着せることも可能。

条件5・条件4の場合着用していた衣類は自動的に収納される(女性用衣類のみ)

条件6・色固定の服以外は色を選べる。

条件7・デザインは以下から選べる、セーラー服(夏・冬)・体操着(ブルマ)・ナース・チアガール・スチュワーデス・

OL・巫女・ミニスカメイド・ベビードール・パジャマ(夏・冬)・ジャージ。




「おお~、ちゃんとジャージが追加になってる。

しかも身長サイズからも選べるみたいだ。

そういえば子供服って身長サイズが基本だったよな、これは生成するのに助かる。

……あー! 条件3! 靴も作れるじゃん!

昨日パジャマ作る時すっかり忘れてたよぉぅ~。

スリッパをイメージすんの忘れてたよ俺。

勿体ないことしたな、ぐぬぬ。

でも靴も出せるならジャージには運動靴だよな、これはいいぞ、普段履きの靴にはもってこいだ。

よしリーゼ、手握るぞ、ジャージ出すからな」


「うん、お願いね」


 リーゼの手を取った圭は魔力を消費し服生成のスキルを発動する。

 ほんの一瞬でリーゼが着ていた旅服が収納され、代わりにジャージ姿のリーゼが目の前に現れた。

 小豆色の生地に白いラインが腕と足の側面に2本引かれたスタンダードなジャージ、そして足元には白をベースにした青いラインの入ったスニーカー。

 それはどこからどう見ても運動部少女そのものだった。


「おお、イメージした通りだな、ちゃんとスニーカーも履いてるし」


「これがジャージなの? なんか見たことない変わった服だね」


「ジャージは運動着だからな、外で遊ぶのも、家でゴロゴロするのも、ちょっとお買い物に出るのも、オールラウンドバチコイな万能タイプの服なんだよ。

泥だらけにしたってかまわない、まさに子供の普段着にはうってつけの服ってワケだ。

どうだ、動きやすそうな服だろ?」


「うん、軽くて動きやすそうだね、靴も軽くて不思議と足に馴染むよ」


「ミミルも欲しいですにゃ!」


「わかった、出してやるよ、ほら、手握るぞ」


 ミミルに出したのは緑色のジャージ、身長から言うとSサイズでも良かったのだが、2つのメロンを抱えているミミルには、Mサイズで出してみたのだがそれでも窮屈なメロンの主張が激しく見える。

 生地的には多少の伸縮性があるのでなんとか収まっている感じだ。


「うにゃー!」


 走り出したミミルは軽々と木に登り、ジャンプして屋根の上を走り、ジャージの着心地を堪能する。


「朝っぱらからどこにあんな元気があるんだあいつは。

まあ、これで普段着と靴が大量に生成できるわけだ。

あとはそうだな、やっぱり冬用の暖かい服というかジャージが出せないもんかねぇ。

スタンダードなジャージは生地がそんなに厚くないからな~。

リーゼ、ちょっと試しに別のジャージ作ってみるよ」


「わかった」


 もう一度リーゼの手を握った圭は、ジャージのデザインを指定し生地も選べないか試してみる。


「お、出来た!」


「あっ、これモコモコパジャマと一緒のやつだ、暖かいよ!」


「裏起毛タイプのジャージだ、これなら冬でも外で着れるだろうな」


「うん」


「ただいまですにゃー」


 走り回っていたミミルが戻ってきたところで、数人の女性が家から出てきた。


「ブルーレットさん、おはようございます」


「おはようございます、ずいぶん早いね、まだ陽が昇ったばかりなのに」


「これから皆でパンの仕込みをするので」


「ああー、人数が人数だもんね、それは確かに時間かかるわな」


「それであの、ブルーレットさんにお願いがありまして」


「お願い?」


「大量のパン生地をこねるのは力仕事なので、例の儀式をしていただけないかと」


「なるほど、わかった、単純な力の付与だね。それとパンを焼くなら火魔法もあったほうが便利じゃない?

薪を使うのも勿体ないし」


「そうですね、魔力ももらえたら助かります」


「わかった、それじゃパンツ被るかな」


 手に出したのはミミルお気に入りのバックプリントパンツ、猫バージョン。


「ご主人様、それはミミルのパンツですにゃ!」


「うん、今日はミミルパンツだ、そんな気分だ」


 当たり前のようにパンツを頭に被り人間へと姿を変える圭に、その場にいた女性陣はドン引きするワケでもなく淡々とスカートをたくし上げる。

 本当に慣れとは怖いものだ、頭にパンツを被った男と、自分のパンツを触らせようとする女性。

 その流れが当たり前になっていて何ら違和感がない。


「それじゃパンツ触るね」


「はい、お願いします、私は魔力で」


 希望を聞きながら魔力と力に分けて付与していく。

 流れるように付与作業を終えた女性陣は食堂の炊事場へ向かって行った。


「なんかさ、自分でやっておいてなんだけど、この村の人慣れすぎじゃない?」


「そう? 慣れればこんなものじゃない?」


「ミミルもグリグリして欲しいですにゃ!」


「また今度な、今日は特に使う予定ないだろ」


「うう~、ひどいですにゃ」


 その後、子供達が起きるまで少しばかりの時間を潰した圭達は、パジャマ姿の子供達を全員食堂横の広場に集めた。


「さてと、みんなおはよう。

今みんなが着てるパジャマは寝る時に着る服だから、家の外で着るのはダメだ。

それで今から全員に外で着る用の服をあげるから、貰った人からそれに着替えていってくれ。

見本で何種類か違う色の物を出すから、好きな色を選んでいいぞ。

今日は1人1着、そんで明日の朝もまたここに全員集まって、着替え用にもう1着渡す。

さらに次の日には冬用の暖かい服を1着出すから、今日から3日間で3着だ。

あと服と合わせてパンツも1人1枚渡していくから大事に使ってくれよ」


 説明を終えた圭は地面に色違いのジャージを生成して並べていく。

 黒、白、グレー、赤、青、水色、ピンク、緑、橙、紫の10色だ。

 次々に手からジャージを出していく圭を子供達はキラキラした目で食いつくように見る。


「それとみんな約束してね、俺が魔法で服を造れるのはこの村だけの秘密だ、村以外の人に話しちゃダメだからね」


 目の前で見せられた服を生成するという、ありえない事象にとまどいながらも驚く子供達に、圭は秘密にしてほしいと念を押した。


 一度に2着や3着を渡せないかとも思ったが、圭の魔力は消費【小】のパンツが800枚相当だ。

 つまり【小】を1としたらMP800とも言える。

 昨日はパンツ200と予備で数十枚に加え、魔力消費【中】のパジャマを同数、この【中】が3だったらパンツとパジャマで800を超え、魔力切れになっていたに違いない。

 しかし魔力切れを起こさなかったということは、おそらく3ではく2ぐらいなのではないかと圭は睨んでいる。

 昨日と同数の物を出すだけなら600強程度で済む計算だ。

 突発で何に魔力を使うか分からない手前、多少の魔力は残しておいたほうがいい。そんな理由で圭は1日1着と決めたのだった。


 全員に服を渡す作業はそれなりに時間がかかり、手待ちの子供達は朝食兼昼食をはさみながらジャージに着替えていった。

 午前中めいっぱい使い服を渡し終えた圭は、再び着替え終わった子供達を広場に集める。


「さてと、みんな飯も食って着替えたな、それじゃ今から一旦全員で街に戻るぞ。

昨日はなんの準備も無しの移動だったからな。

引っ越しの挨拶をしたい人や、自分の持ち物をここに持ってきたい人とかもいるだろ?

それぞれの用事が済んだらまたここに戻ってくるからな」


「またあの大きいパンツに乗るの?」


「ああ、みんなで乗るぞ、空だって飛んじゃうぞ!」


「やったー!」


 喜ぶ子供もいれば、若干怖がる子供もいたり、それぞれの思惑を乗せたパンツ鳥がジェラルドの街に降り立ったのはそれから30分後だった。

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