第84話 怖くないですにゃ

 ジェラルドの街を飛び立った大型輸送パンツ鳥はものの30分でエッサシ村に着陸した。

 元々の村の集落から街道沿いに伸びるように新設された家や入浴施設、その新設区画の脇に広がる草原に着陸し、パンツを圭がすぐに収納する。


「よーしみんな、ここが今日から住んでもらうエッサシ村だ。

俺はちょっと村長さんと話しをしてくるから、ここでおとなしく待っててくれ。

リーゼとミミルは子供達を見ててね」


「うん」


「わかりましたにゃー」


 圭が村長の家に向けて走り去ったあと、リーゼが笑顔でミミルの両肩をがっしり掴んだ。


「ねえミミル、ちょと聞いてみるんだけどさ」


「なんですかにゃ?」


「ちょっと空飛んでみたくない?」


「パンツでですかにゃ?」


「パンツじゃなくて私の魔法で。

さっき風魔法でテーブル飛ばして思ったんだよね『あ、これなら人も飛ばせるかも』って。

魔法で飛んでみたくない?」


「飛ぶ! 飛ぶにゃ!」


「むふふ、そう言うと思ったよ、それじゃまずはー、風で硬い床を作るからそれに乗ってみて」


 リーゼが手をかざし、その先の地面の上に風の丸い円盤のようなものが出来上がる。

 実際は風ではなく空気を圧縮したものなのだが、リーゼはまだ圧縮空気の概念が理解できず風圧の延長と捉えている。

 そこにミミルがためらいもなくピョンと乗っかる。


「乗れたにゃー、リーゼは凄いにゃ」


「それじゃ風で浮かすよ~」


 円盤の下に風が渦を巻くように集まり円盤を押し上げる。

 ミミルが浮き上がる様を見て子供達から歓声が上がる。


「おおすげー」「浮いてる!」「嘘だろ? こんな風魔法があるのかよ!」


 キラキラした目で子供達がミミルを視線で追いかける。

 上昇したミミルは10mくらいの高さで止まった。


「ねえミミル、怖くないー?」


「怖くないですにゃー、楽しいですにゃ!」


「うーん、私もちょっとだけ飛んでみようかな……」


 少しの間を空け意を決したリーゼが風魔法で地面から離れる。

 ゆっくりと上昇しミミルの横に並ぶリーゼがへっぴり腰でミミルの手を握る。


「うう~、自分の魔法だから安心できるけど、やっぱり怖いなこれ、ミミルはよく平気だね」


「パンツで飛ぶときはもっと高くて速いですにゃ」


「そりゃそうだけどさ」


「怖がるより楽しんだほうがいいですにゃ!」


「まあ、慣れれば私も大丈夫になるのかな」


「リーゼ、高い所に慣れる簡単な方法があるにゃ」


「そんなのがあるの?」


「まずはこの高さをよーく見ておくにゃ」


「うん」


「それで半分の高さまで降りるにゃ」


「わかった、すこし下げるね」


 二人が半分の5mくらいまで降下する。


「どうにゃ? さっきの高さよりも怖くないはずだにゃ」


「そう言われればそうかも、全然怖くないみたい」


「次はさっきよりもうんと高く飛ぶにゃ」


「マジですかミミルさん」


「マジですにゃ!」


「わかった、一瞬だけね」


「一瞬じゃダメにゃ、ちゃんと怖さに慣れるまでいないと意味ないにゃ」


「うう~、怖いけど行ってみようか、ちゃんと手繋いでてよ!」


 そして二人がまた上昇する、体感的に50mくらい昇ったように思えても、実際のところはさっきの倍の20m程度だったりする。


「ここここわっ! なにこの高さ!」


「全然高くないにゃ、ここですこし慣れてからまた半分の高さまで降りるにゃ」


「膝が震える~」


「どうですかにゃ? 慣れましたかにゃ?」


「慣れるわけないでしょ! もう無理降りるっ!」


「ダメですにゃ、もう少しですにゃ」


「ミミルのいじわる~」


「リーゼは凄いですにゃ、風で空を飛べるなんてご主人様が知ったら絶対褒めてくれるにゃ。

ミミルも褒められたいですにゃ、そしてご褒美にグリグリをしてほしいにゃ!」


「それに関しては私も同意するけど、そうかー、ブルーレットが喜ぶか。

うん、そうだよね、何か出来るようになってそれが恩返しになるなら、絶対頑張る。

怖いなんて言ってらんないよね!」


「そうですにゃ!」


「なんか、気が楽になったかも、そろそろ下げてみるね」


 そして最初の10mまで降下すると、リーゼが笑顔で下を見下ろしていた。


「ミミルの言う通りだね、さっきの高さから比べたら全然怖くないよ!」


「リーゼもパンツの上に乗って一緒に飛ぶにゃ」


「それはさすがにムリ~」


 ミミルに抱き付いてじゃれつくリーゼ。

 10mの高度でもミミルにじゃれつきながら。風魔法を安定して使い続ける余裕まで生まれている。

 ミミルが実践して見せた相対的ショック療法はわりと日常でも役に立つ。

 より大変な状況に立たせてから、若干緩い状況に立たせると相対的な感情の高ぶりなどが和らぐという、心理効果を利用した療法だ。

 それをミミルは自分の経験からリーゼに教えたのだ。


「そろそろ降りるにゃ?」


「うん、そうだね、子供達がずっと見上げてると首が疲れちゃうし」


 地面に降り立つ二人を子供達が取り囲んでワイワイと盛り上がった。



 一方、その頃圭は。

 村長の家に入り、事の顛末を説明していた。


「わかりました、しかし驚きましたな、200人も子供を連れてくるとは。

この村も一気ににぎやかになりますね」


「それで細かいところの相談に移るんだけど。

先ず、子供達の食事だ。

大人がいる家なら食事も作れるし、各家庭で取ることもできると思うけど。

さすがに子供200人だと、それも難しいよね」


「それはそうですね、全員で食べられる食堂を作りましょうか」


「でも200人となるとさ、かなり大きな建物になるよね。

それと孤児がまだ35人追加でくることになってるし。

そう考えると一気に食べれなくても100人ずつ食べれるくらいの食堂にして、何度かに分けて食事を食べさせれば問題ないかなって」


「それもそうですな、それでいつ作りますか?」


「いつって今日の夕食までに」


「っ! ……やはりブルーレットさんは安定のブルーレットさんですね。

いちいち驚いていたら身がもちません」


「変態領主だからね、そこはあきらめてくれよ。

それと必要な物の確認なんだけどさ。

先ず食料ね、これは俺が責任をもってなんとかするから、遠慮なく子供達に食べさせてほしい。

すぐには用意できないけど、必ずかき集めて持ってくるから、とりあえずは今ある備蓄で回してね」


「わかりました、すると料理のほうは村の女衆から当番を選び作らせましょう。

そうなると食堂に炊事場やパン窯も必要になりますね」


「うん、それも併せて今日中に作らなきゃいけない」


「忙しくなりますね」


「それともう一つ、身の回りの物、先だっては衣類だね。

今着てる服はもうボロボロで使えなくはないけど、新しい村の生活に慣れてもらうにはさ、着る物から清潔にしてもらいたいんだよね。

俺の能力で出せるタイプの服は出し惜しみなく出すから。

あと靴や普段着とかも今街でかき集めてる。

当面のあいだ、子供達が村の生活になれるまで、今の住人に面倒をみてもらう事になると思う。

とりあえず今晩なんだけど、全員大浴場に入れて使い方を覚えさせるのと、体をピカピカにきれいにしてもらいたい。

そのあと新しい服に着替えさせて、各家への割り振り、就寝までの面倒をお願いしたい」


「わかりました、それではまず、魔力を使う希望者を募って来ますので、例の儀式をお願いします」


 村長の言う儀式とは当然パンツグリグリである。

 すぐさま村長がサトウとヨシダ、そしてササキに事情を説明し魔力希望者を集める。

 今回の魔力付与の希望者は15名。

 付与儀式のトップバッターがヘンリーお婆ちゃんだったのは言うまでもない。

 夕刻までに食堂の建設をしなければならない。

 それぞれがそれぞれの役を担い、村のために動き出した。

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