第83話 その者、白き衣をまといて
バーナントとロッカ、そしてもう一人隊員の計三人が、御者台にギュウギュウに乗っかった状態のまま庭の石畳の上で停止する。
「お疲れ様、食べ物は無事に買えた?」
「はい、滞りなく」
圭とバーナントが会話をする傍ら馬車の客室から2名の隊員が降りてくる。
「はぁ~死ぬかと思った」
死ぬほどの何があるのかと思った圭は客室をのぞき込むと、その中にはびっしりの木箱や布袋とでかい寸胴が山積みで入っていた。
「こりゃ凄いな」
ニヤリと笑みを浮かべた圭は着席し待ち構える子供達に話しかける。
「よーしみんな、待望の食料が届いたぞー!
いいか、よーく聞けよ、腹減ってるのはわかるけど、いきなりがっつくなよ!
無理にかきこんだら腹壊すからな!
ちゃんとみんなの分あるから、ゆっくり味わって食えよ~。
それと大きい子はちゃんと小さい子が食べれるように面倒みろよ!」
圭の掛け声とともに総動員で配膳していく、木箱の中にはトレイが段重ねで入っていて串焼きをはじめとした焼き物や炒め物系の料理。
布袋の中には大量のパン、寸胴は野菜スープや飲み物。
それらがテーブルに並べられていく。
「いいか、ケンカせずに仲良く食えよ~」
圭の掛け声とともに子供達が食べ始める。
空いたテーブルに圭をはじめとした面々が座り、子供達を眺めながら一緒に食事をとり始める。
やはりというかがっつく子供もいて咽ては水を喉に流し込んでいる。
かと思うとじっくりと噛みしめながら「おいしいおいいしよ」と泣きながら食べる子供もいる。
「青空の下で食べる食事というのも、たまにはいいですなぁ」
ロッカののんびりとした発言に皆が笑顔で同意する。
食事が進んでいき、そろそろ食べ終わるかなという頃に、一台の馬車が庭に乗り入れる。
馬車から出てきたのは商会主のフェルミと、それを呼びに行ったメイドのケニーだ。
「フェルミさん! ごめんねいきなり呼び出しちゃって」
圭が迎え入れるがフェルミは庭の状況をみて驚きを口にする。
「ブルーレットさん、これは一体」
「ああ、街中の孤児を保護することになってね、今食事をしてもらったところだ」
「保護……これだけの数をですか!」
「うん、それでちょいと相談があるんだけどね。
これからエッサシ村に移動して暮らしてもらうんだけどさ。
この子達が生活に必要な物を用意してもらいたいんだ、取り急ぎ欲しいのは衣類と靴。
中古でも新品でもいい、靴はサンダルみたいなのでもいいし、とりあえず裸足じゃなかったらOKだ」
「いつも唐突ですが、これは想定外のオーダーですね。
ちなみにいつまでにご用意すればよろしいですか?」
「今日」
「ききき今日!?」
「いやー、無茶振りは承知だよ、俺も今日の今日でいきなりこんな事になるなんて思ってなかったよ。
でもさ、もう集めちゃったんだもん、もう止まらないとこまで来ちゃったんだもん。
俺も諦めたから、フェルミさんも諦めて、そして協力して。
領主からの、オ・ネ・ガ・イ♪」
「私も長いこと商人をしていますが、こんなオーダーは初めてですよ。
しかも今日中って……」
「なんとかかき集められない? ほら、商人同士の横の繋がりとかあるでしょ?」
「任せてください、なんとかいたしましょう」
「おおー、頼もしいね!
それじゃ頼んだよ、取り急ぎは靴だ、子供用の靴を200足以上。
服は俺のほうでもなんとかできるけど、集められるならあったほうがいい。
それと高級なのはいらないから、村の子供が着るような安いやつで十分だからね」
「委細承知致しました、それでご用意した物はこちらにお持ちすれば宜しいですか?」
「いや、準備が出来たら取に行くからフェルミ商会に集めておいてくれる?」
「わかりました、それではすぐにでも戻らなければならないので、これで失礼いたします」
「うん、頼んだよ~」
急ぎ足でフェルミが馬車に乗ると、その馬車があっという間に庭から出て行った。
「バーナントさん」
「ここに」
「これから子供達を村に移動させるから、食事のあとを片付けておいてね。
食器は洗って保管で、テーブルと椅子はそのままでいいから」
「かしこまりました」
「さてと、それじゃぁ~~~出しますかね、アレを」
収納から取り出したるは一枚の大きな布。
何を隠そう前を隠そうザ・パンツである。
いつもの10mサイズのパンツ鳥にさらに変形の魔法をかけ倍以上の大きさにする。
「これは!」
パンツが何であるか知っている大人サイドは非常識な大きさに絶句する。
わからないのは子供達だけである。
「わー、なにこれ! すごく大きいー!」
子供達が興味津々にパンツに群がる、使役の魔法をかけるとパンツの中には巨大な空洞が出来、さらに歓声が大きくなる。
ドン引きしてるのは大人達ばかり、さすがのバーナントも口をぽっかり空けていた。
アリアに至っては顔を両手で覆いイヤイヤと左右に振っている。
しかし彼等はまだ知らない。この直後に起こるもっと非常識な出来事を。
領主が自分のことを事あるごとに『変態だ』と言っている本当の意味を、その視覚を以って知ることになる。
「よーしみんな、この中に入れー!」
お腹いっぱい食べた子供達は、心に余裕が出来たのか、怖がる事なくパンツの中に殺到した。
「パンツに……子供が入った……」
メイドさん達がさらにドン引きである。
「ミミル、リーゼ、二人も来い、村に飛ぶぞ」
「うにゃー、乗るですにゃー!」
「あっ、待って~」
駆け足でパンツの上に飛び乗るミミル、いつも通り中ではなく上のお気に入り特等席だ。
リーゼは勿論子供達と一緒に中に収まる。
「それじゃ子供達降ろしたらまた戻ってくるから~、あとよろしくね~」
圭がそれだけ言葉を残すと、パンツの胴穴と足穴が閉まり、羽ばたいたパンツはあっという間に空高く消えていった。
「私は夢でもみているのでしょうか」
やっとの思いで言葉を絞り出したバーナントの独り言に、その場にいた全員が口を開くことはなかった。
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