第80話 神父さんと変態王

会議を終え、食堂から解散する各々、その中からバーナントに声をかける圭。


「あ、バーナントさん」


「はい、何でしょうか?」


「さっきの話にもチラっと出たけど、保護した孤児とかを一旦この屋敷に集めるように指示してあるから、その対応もお願いするよ」


「かしこまりました。対応はお任せください」


「うん。頼んだよ。それじゃ俺は一旦街の様子見てくるから」


「お気を付けていってらっしゃいませ」



 屋敷を出た圭はパンツ鳥を何枚か飛ばし、リーゼ達の居場所を探した。

 すぐに見つかるかと思ったけど、それなりに広いこの街で見つけるのに30分くらい要した。

 居たのは教会に隣接している大き目の古い建物で、建物の周りに子供が沢山いる場所だった。

 パンツ鳥に乗りすぐ駆けつけた圭はリーゼ、ミミルと合流する。

 圭の登場の際に子供達が巨大なパンツ鳥を前に口ポカーン状態だったのは言うまでもない。


「ご主人様っ!」


 尻尾フリフリ状態で圭に飛びつくミミル、この子は犬じゃなくて猫だよね?

 収納で巨大パンツをしまい、リーゼに向き直る。


「ブルーレット、用事は済んだの?」


「ああ、とりあえずはね、そういえばロッカは?」


「ロッカさんは別行動だよ、貧民街で見つけた孤児を屋敷に連れて行ってる」


「そうか、それでここは」


「教会の孤児院だよ」


 圭の登場に子供達が遠巻きに様子を見ている。

 いきなり現れた謎の人外生物、頭には角が生え、口からは牙が飛び出している。

 旅服を着ているとはいえ頭部だけ見るにおぞましい面構えだ。

 子供が怯えるには十分な理由である。


「なるほど、ここが孤児院か、となるとここの責任者は教会の神父さんになるのかな」


「神父さんだね」


「あー、なんかちょっと会うのが気まずいな……」


「ん?」


「いやあ、その、ミミルを助ける時とかに、パンツ被ってご神体になるぞとか脅してロハにさせたから」


「えー、ドン引きなんですけど」


「若気の至りだ、素直に謝って水に流してもらおう、テンションって怖いよねホント」


「でもほら、今回は違うんでしょ」


「そうだな、子供達をちゃんと保護するって目的は教会と一緒だからね。

平和的な話し合いができると思うよ」



 そして場所は変わり教会内応接室。


「領主様、孤児院についてお話をされたいとの事ですが、此度は一体どのようなご用件で」


 若干怯え気味の神父が座るソファーの対面に座るのは圭とリーゼ。

 ミミルは子供達の中に飛び込んで外で遊んでいる。


「とりあえずその領主様ってのはやめてくれないか。

ブルーレットでいいよ、領民皆にそう呼ぶようにしてもらってるから、あと様付けも禁止で」


「いやはや、警備隊のお触れ通りのお方ですね、侯爵位をお持ちになられながらなぜか謙譲を嫌う節があると」


「ブルーレットは魔族だからね、変態魔族って呼んでもいいよ神父さん」


「おいこらリーゼ、変な事教えるな、それじゃまるで俺が変態みたいじゃないか」


「変態王じゃん」


「すいません、変態王です、ちょっと格好付けたかっただけです、ぱんつ被ってすいません」


「あの、そういえば最初お会いした時もパンツと仰られましたけど、パンツとは」


「これがパンツだよ」


 パンツを知らなそうな神父に対し手の平にパンツを出して見せる圭。


「これを穴という穴にねじ込むのですか、なんと恐ろしい」


「あ、いや、あの時はホントにごめん! 穴にねじ込むとか冗談だから。

パンツは新しい女性用の下着だよ、決して拷問道具とかじゃないからね」


「え?」


「だからパンツは下着だから、って何の話してるんだ俺」


「孤児院の話でしょ、この変態王が」


「あ、そうだった孤児院だ。

えーとかいつまんでと言うか簡潔に話すとね。

領主交代って事でさ、新しい政策の一環としてね、口減らしに係る問題の解決をしてみようかなと。

孤児の各村への返還、もしくは保護を領主側で行うことが決まってさ。

まあ、現状としての今年の孤児の流れと、孤児院の運営状況なんかも把握しておこうと思って。

色々と実情を教えてもらいたい」


 両手を顔の前で組んで目を輝かせる神父。


「おお、我が神よ! なんと素晴らしいお導きでしょうか!

あなたは魔族でありながら敬虔なる神の信徒であり使徒だったのですね!」


「いやいや、それはないから、俺、どっちかって言うと無神論者だし」


「……チッ、そうですか」


「えぇぇ、今舌打ちしたよね!?」


「いえいえ、そんなことはありませんよ」


「まあいいや、えっと、話戻すけど、孤児院の運営状況はどんな感じかな?」


「一言で言いますと、非常に厳しいですね。

領主様が先代からお代わりになられてからのこの10年、年を追うごとに孤児は増え続けておりまして。

さらに先代様の時は寄付を頂いておりましたのですが、フィッツ様になられてから寄付もなくなりまして」


「今現在は何人くらいいるの?」


「35人です、本当はもっと救いたい子供達が沢山いるのに、施設の容量的に35名が限界なのです。

あぶれた子供は貧民街のほうで暮らしていると聞いております」


「なるほど、だいたいわかった。

それでこの施設では神父さん一人で子供達の面倒見てるの?」


「いえ、さすがに私一人では無理ですよ。

孤児院を長くやっておりますと、大きくなった子供の中から、孤児院に恩返しがしたいという子が必ず出てくるのです。

この施設ではそういった子達に面倒のほうは任せております。

今は世話役が3人ですね」


「孤児院ってそういうシステムだったのか。

よし、とりあえずだけど、子供達全員、こちらで引き取ろうと思う」


「え!? 全員ですか!」


「うん、全員だ。もちろん本人達の希望も聞いて、ここに残りたいって子供がいたらそれも有りで考えてるけど。

条件的には移住先のほうが良くなることは保証するよ。

住む場所の質、衣類や食料とかも心配ない、そしていつでもお風呂に入れる清潔な環境。

さらに言えば将来的に働き手として職にあぶれることもない」


「そんな事が可能なのですか!」


「モチのロンだ、ちゃんと用意できるからこそ、こうして話しに来てるんだよ」


「おお、なんと素晴らしいお話でしょうか。

そこまで面倒を見て頂けるのであれば安心して送り出すことが出来ます。

この施設から子供達がいなくなるのは少し寂しくなりますが、そもそも孤児院に子供がいること自体、神の意志に乖離する事象と考えることもできます。

不幸な子供はより良き環境で救いの手を差し伸べるべきです、教会の者として是非もなく協力させていただきます」


 こうして大人サイドでの話がまとまり、子供達への説明と説得は神父が請け負うことになった。

 具体的な移住のスケジュールはエッサシ村とのすり合わせの後に決める運びである。


 そしてリーゼとミミルと共に屋敷に戻った圭は、屋敷の光景を見て悲鳴を上げるのだった。


「なんじゃこりゃ!」


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