第77話 こんな最終回はイヤだ


「魔王軍四天王を倒し、よくぞここまでたどり着いた。

ひとまずはほめてやろう。

我が名は闇の帝王よしこ、この世の魔族を統べる帝王の中の帝王である」


 魔王城の最上部、帝王の間にいたのは仰々しい台詞の幼女だった。

 但し、台詞は仰々しくも、口調はたどたどしい幼女のまんまである。

 よしこと名乗った闇の帝王が圭達を前に王の威厳を出そうとするが、その姿は幼女。

 とても可愛らしく、そして魔王には見えなかった。


「おい、これは何かの冗談か?

ここにたどり着くまですんげー苦労したのに」


 長かった、確かに長い旅路だった。


 フレデリック王国を出た圭は、リーゼ、ミミルと共に各国を回り、様々な経験を積み、リスタット王国へとたどり着いた。

 魔獣や魔族に攻められ、陥落寸前まで追い込まれていた王都を奪還。

 華麗な逆転劇を見せ、圭はついにプラチナランクへと上り詰めた。

 そして開放されるプラチナランクスキル、その数48。

 その48のスキルを習得するには、ポイントではなくミッションをこなさなければならなかった。

 

 その都度シエルからの手紙で伝えられるクエスト。

 その内容は……。

 触手スライムから女騎士を助けたり。

 RPGにあるような、いじわるクエストをこなしたり。

 村のおじいちゃんのどうでもいいお使いをこなしたり。

 盗賊を壊滅させたり。

 オークから女騎士を助けたり。

 ドラゴンを嫁にしたり。

 謎の玉を7つ集めたり。

 なんかよくわからない魔獣から女騎士を助けたり。

 てか女騎士捕まりすぎだろ。


 その間3クールにも及ぶ話数を消化し。

 全てのスキルを手に入れた圭は。

 魔王軍四天王を倒し、さらに仲間も増やし、魔王との対峙を果たした。

 リーゼ、ミミル。

 そして現在設定考え中の仲間数人。

 パンツという名の絆で固く結ばれた精鋭中の精鋭が、圭を筆頭に今。

 まさに魔王と呼ばれし闇の帝王よしこと対峙していたのだ。


「てゆーか、魔王なのになぜ魔族じゃなくて人間の幼女なんだ。

倒すにしても後味が悪すぎるんだけど」


「ふははははは、我にとって姿形などどうでもよい些末な事よ。

見た目でしか判断できず、本質を見抜けぬとは愚かの極み。

この人間は我の依り代になっているにすぎぬ。

この人間ごと我を切る覚悟があるなら、全力を持って相手をしようぞ」


「くそっ、ほんわかストーリーじゃなかったのかよ。

依り代ってことは乗っ取られてるのか、うかつに手をだせないな」


「何も人質はこの幼女だけではないぞ」


 よしこがその小さな手で指をパチンと鳴らそうとしたが……鳴らなかった。


「パチン!」


「おい、あの闇の帝王、自分の声で指の擬音表現したぞ」


「うるしゃい、うるしゃいのだ!

クククク……これを見てもまだ強がっていられるかな?」


「女騎士!!

ちょ、おま、何回捕まったら気が済むんだよ!

趣味か? 趣味なの? ねえもういい加減にしてほしいんだけど」


 屈強な魔族に両脇を固められ、ボロボロの姿でよしこの横に連れて来られたのは女騎士だった。


「ラスボスシーンまで絡んでくるとか、どんだけオイシイ役なんだよ!

ていうかさ、48のクエストのうち18回はお前の救出だったんだけど。

打率で言ったら3割超えてるんだよ?

マジで家から出るなよこのへっぽこ騎士が!」


「くっ、たとえどんな辱めを受けても、騎士の誇りだけは汚すことはできない!

このままおめおめと人質に成り下がるくらいなら騎士道に殉じる覚悟だ! 殺せ!」


「おまえ毎回その台詞言ってるよね、それ聞くの19回目だよ。

もう助けるのがばからしくなってくるんだけど」


「くっころーーーー!」


「おまえそれが言いたいだけだろっ!!

いや、もうそれはいいとしてだ。

今回は過去最高に意味不明な辱めだよな」


「くっ! こっちを見るな!」


「見るなと言われても、視界にガッツリ入っちゃうんだから無理だよ。

なんなんだよその頭、東〇ハンズで買ったの?

ドンキには売ってないよね多分。

いや、やっぱりハンズだよね、ハンズにしか売ってないよねそれ。

この世界にハンズは無かったんじゃないの?

最終回だからってやりたい放題すぎるでしょ!」


 女騎士の頭、そこに乗せられていたのはチョンマゲの殿様カツラだった。


「見るな……頼むから見ないでくれ……ううっ」


「いや、泣き落としでシリアスに持っていこうとしてるけど、存在自体がギャグでしかないから。

それにその肩から下げてる『忘年会幹事』ってタスキ、完全にギャグだろ。

ハンズで買ったんだよな! 幾らしたんだそれ!」


 圭が叫ぶと同時に、女騎士の両脇を固めていた魔族が地面に崩れ落ちる。

 その後ろから現れたのはミミルだった。


「やったですにゃ、ご主人様!」


「よくやったミミル」


 プラチナランクスキル、48技がひとつ【トリプルバースト】。

 それは付加魔法の最高位、力、早さ、防御の3属性を一度に受けられる魔法。

 発動条件は履いた状態のパンツの股間を1時間ペロペロする、という変態最高位の条件だった。


「ご主人様の舌技は世界一ですにゃ!」


「うん、それはここで言わなくていいからね、色々と誤解を招くから」


「なにをゴチャゴチャと小癪な真似を。

小物2体を倒したぐらいで粋がるなよ小僧。

まずはその小娘から地獄に送ってやる!

死ねぇぇぇええええええええ!」


 幼女の手からあふれ出した漆黒のオーラが、幾重にも重なった細い線となりリーゼに襲いかかる。


「リーゼッ!」


「ひっ!」


 飛び出しリーゼを庇おうとする圭だが、このままでは間に合わない。

 攻撃の速さが尋常ではなかったのだ。

 黒く鋭い線がリーゼに届こうとした刹那。


 バキン!


「な!」


 驚きの声を上げる圭。


「おまたせ、どうやら間に合ったようね」


 リーゼの前に立ちはだかったのは、スキンヘッドのオカマことササキだった。


「ササキさんっ!」


 スキンヘッドの男が水玉のパンツと水玉のスポブラを付けていた。


 プラチナランクスキル、48技がひとつ【エクスチェンジエレメント】。

 それは対男性用の付加魔法。

 女性用のパンツを男性に履かせた状態で股間を圭が10分まさぐる。

 そするとそのパンツはこの世界でもっとも硬い物質へと変化し。あらゆる攻撃を無効化するのだ。

 ちなみにスポブラは特に意味はない、ササキ本人の趣味で着けているだけである。


 その無敵化したパンツが幼女の攻撃をはじいたのだ。

 カラフルな水玉パンツには傷一つついていなかった。


「リーゼちゃん、怪我はないかしら?」


「はいっ」


「約束したわよね、結婚式には呼んでねって。

その約束を果たすまでは死んじゃだめよ」


 なんてイケメンなんだこのオカマは。

 身に着けているものがパンツとスポブラって、そこだけ見たら世界に名を残す変態だけど。


「ササキさん、助かったよありがとう」


「お礼を言うのはまだ早いわよ、それで、あの子が魔王なのね」


「ああ、そうだ、でもあれは魔王に体を乗っ取られている子供なんだ。

なんとかして助けないと」


「ブルーレット、私やってみる!」


 固い意志を込めた目で幼女を見据え、一歩前に出たのはリーゼだった。


「お願い、ブルーレット、私にキスして」


「リーゼ、本気か? この魔法は一度使ったら二度と……」


「いいの、今ここで使わなかったら私絶対後悔することになる。

だからお願い」


「わかった、この世界の運命、リーゼに預けるよ」


 プラチナランクスキル、48技がひとつ【エターナルパンツ】。

 術者がキスをした女性が履いていたパンツに魔力の全てを乗せる。

 そしてそのパンツを相手にかぶせると、あらゆる魔を滅することができる。

 ただし、キスされた女性は二度と術者が生成した衣類を身に着けられなくなる。

 それは、圭が出す全てのスキルの恩恵を受けられなくなることを意味していた。

  

 圭がパンツを頭に被り人間に変身する。

 そしてリーゼは履いていたパンツをスカートの下から脱ぎ、その手に握る。

 そのリーゼの細い体を抱き寄せる。

 リーゼがパンツを握る手の上に、圭が手を重ねる。

 見つめあう2人の唇が優しく重なる。

 閉じたリーゼの目から一筋の涙がこぼれる。


 握られていたパンツが閃光を放ち、その場にいた全員が白い光に包まれる。


 魔王を含めた全ての者が白い空間の中で、その眩しさに目をふさいでいる。


 音もなく光に満たされた世界で、リーゼだけが目を開けることができた。


 圭から唇を離し、魔王のもとへと歩いていく。


 そしてその魔王の頭に魔力がこもったパンツを被せる。


「ぐわああああああああっ!」


 長く、そして重い断末魔が空間に響き渡る。

 幼女の体からいくつもの黒い煙が出ていき霧散していく。


 どれだけの時間が過ぎたか。

 黒い煙の出なくなった幼女はその体が地面に倒れ、そして別の女性の姿になった。


 頭に被せたパンツは朽ちて無くなり、空間に満ちていた光も同時に消える。


「うっ、リーゼ! 無事なのか!」


 圭がいち早くリーゼの元へ駆け寄りその体を抱きしめる。

 持てる全ての魔力を使い果たした圭の眠気は限界に来ていたが、気力で持ちこたえていた。

 今、寝ている場合ではない。

 エターナルパンツを使うことによって、リーゼが身に着けていた服の全てが朽ちて地面に散っていく。

 魔族の姿へと戻った圭は、羽織っていたいつもの旅服をリーゼに被せた。


「ブルーレット、私、やったよ。

もう、ブルーレットの出す、服が着れなく、なっちゃった、けど。

ブルーレットの、願い、叶えたよ。

パンツも、ブラも、着けられなく、なったけど。

これで、ブルーレット、人間に、なれるんだよね」


 涙声で、つかえながら思い言葉にするリーゼ。


「うん、ありがとうリーゼ……」


 それ以上は言葉にならなかった。

 強く、強くその体を抱きしめる。

 ミミルやササキ、そのたの全員がそんな2人を見守る。




 その時、地面に倒れていた女性が上半身を起こし、圭を睨みつけた。


「奥田圭、やっと会えたわ!」


 その女性は、しっかりと圭のフルネームを口にした。


 知らない、見たこともないその女性、ぱっと見の年齢は圭と同じくらいの20代半ば。


「あなたの、あなたのせいで私はっ!」


「ちょっとまって、俺、君のこと知らないんだけど、どうして俺のフルネームを」


「知らないですって! 私は………………」


 その女性の言葉を聞き終わる前に景色は反転し、意識は別の場所へと飛ばされる。


 圭の視界に飛び込んできたのは、見慣れた温泉宿の天井だった。

 右腕にはミミルが抱き付いて、左腕はリーゼに枕にされてる。


「夢か、なんて夢を見たんだ、危うく最終回になるところだったじゃないか。

これが小説だったら読者が激怒するところだぞ。

夢オチなんてきょうび流行らないっての。

いや、それにしてもリアルな夢だったな、まさかと思うけどシエルが見せた夢とかか?

だとしたら悪趣味だよな、あの内容は無いって。

でも内容が内容だけにシエルが絡んでるとしか思えないんだよな」


 思い出すだけでおぞましい、ササキの下着姿にエクスチェンジエレメントとかいう謎のBLスキル。


「どうか、正夢になりませんように」


 圭の願いは果たして届くのだろうか。


 圭達の旅は、まだ始まったばかりだ!




◆これまでご愛読ありがとうございました、次回作品にご期待ください◆


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