第76話 領地会議2


「とりあえず、屋敷の取り決めはこのぐらいでいいかな。

次は本格的な領地運営の話だけど。

バーナントさん、徴税が終わってしばらく経つけど。

この領地の財政ってどうなってるの?」


「はい、今年の徴税で得られた金額は麦や特産の加工品など含めて金貨1000枚相当です」


「1000枚相当か」


 頭の中で計算する、1000枚掛ける30万円、それはつまり日本円で3億円の税収だった。

 なかなかに太い金額だ、エッサシ村で徴税された金貨3枚がはした金に思える。


「今まではこの税収で何を賄っていたの?」


「はい、主には王都への納税が1割、官憲や兵士の維持費が3割、為政に掛かる経費が1割。

そして残りの5割がノイマン家の収入に割り当てられます」


「なるほどね、為政に掛かる経費の内訳はどんな感じ?」


「臨時で雇う徴税官の給金ですね、各村や領地内の検地、人口の把握、徴税の決定なども徴税官の仕事です。

それ以外の支出は街の整備などに使われます」


「そういうことだったのか、だいたい見えてきたよ。

それじゃまずは税政改革から始めようかね。

エッサシ村からの徴税は例年5割、今年は上乗せされて6割だったけど。

一般的には何割なの?」


「6割ですか! そんなはずはありません、4割と決まっております」


「まあ、そんなことだろうと思ったよ」


「来年からの徴税官は全て入れ替える。

高い税金吹っ掛けて、ピンハネしてる輩がいるからだ。

あと今までの税率も撤廃する、2割5分、来年からはこれでいく」


「2割5分ですか? いくらなんでも減らしすぎでは」


「減らした分はこの屋敷の収入が減るだけだ、税収の5割、つまり金貨500枚。

これからのこの屋敷にはそんな大金必要ない。

使用人含めたって20人いないんだ、贅沢しなきゃ金貨100枚で収まる生活ができる。

とにかくこの領地を支えているのは各村の一次産業だ。

それが疲弊していったらこの領地に未来はない。

産めよ増やせよで拡大してなんぼなんだよ。

俺が考えた取り決めはこうだ。

税率は2割5分。

そして来年から農地の拡大を各村で行う。

さらにもう一つルールを決める。

その年に拡大した農地は徴税の対象にならない、翌年以降の対象となる」


「なぜそんなことを」


「簡単だ、領民は少しでも税を払いたくないんだよ。

免除になるなら農地増やしたほうが得になる、だったら喜んで増やすだろう。

それでも2割5分だ、人口を増やしていったほうがより豊かになる。

各村の村長にはそう伝えてくれ。

すぐのすぐには結果は出ないけど5年10年経ったら今の倍以上の税収が見込めるはずだ」


「なるほど、そこまで深いお考えだったとは」


「あともう一つ訊きたいんだけど、徴税した麦とかはどうやって使ってるの?」


「街の各商会や小売店に適正価格で卸して、買い取ってもらっています。

余ったぶんは外交商人から領外へと売っております。

ただ、今回の件で色々と調べたのですが。

ノイマン領お抱えの外交商がどうやら前領主とともに麦の横領を行っていたようで。

エリック・トーピーという外交商です。

売った麦の一部も奴隷に替えてこの屋敷に仕入れていたようです」


「そうだったのか、これでフィッツ、エレン、エリック、3大悪人が揃ったわけだ。

とりあえずそのエリックには領内での商業活動を禁止にさせて。

横領の罪が発覚したってことで、各商会に通達しといて、エリックとの取引の一切を禁止するってさ」


「わかりました、信用を失った商人の末路は悲惨なものですからね」


「あとは来年以降の徴税にかかる検地と人口の把握は、しっかりと信頼できる人間に任せたい。

シシルさん、やってくれるかな、検地のまとめと徴税の立ち合い」


「はい、領民のため不正のないよう努めます」


「監修はイレーヌさんがやってね」


「わかりました」


「さてと、税政に関する取り決めはこのぐらいかな。

ほかになにか意見や質問のある人はいる?」


 圭の問いかけに意見を言う者はひとりもいなかった。

 あまりにも突飛な改革に全員がただ聞く側に徹した。

 未来を見据えた税収と不正の排除。

 その手腕はただの魔族とは思えないものだった。


「よし、それじゃ今日からこの屋敷の生活にみんな慣れてもらって。

落ち着いたら来年の徴税に向けてそれぞれ準備しようか。

あとの部屋の割り振りとかはバーナントさん、お願いね」


「かしこまりました」


「そしてもう一つ、大事なことがあった。

この屋敷に住む女性はオクダ・パンツカンパニーの恩恵を無償で得られます」


 圭が手から出して見せたのは水色の縞パンだった。


「パンツ! どうしてブルーレットさんがそれを」


 パンツに食いついたのはアリアだった。

 王都でも希少品として出回り始めたパンツが目の前にある。

 

「どうしてもなにも、パンツを作って広めてるのは俺だからだよ、あとブラもね」


 事情を知らなかったリーゼ以外の女性全員が食いついた。


 黄色い悲鳴に包まれながら、採寸を行った圭はパンツとブラを配布していく。

 パンツやブラを生成できるスキルを持っていることの説明もついでに行う。

 さらに調子に乗った圭は服生成スキルの説明もする。


 屋敷は使用人含め女性の嬉しい悲鳴に包まれた。


 唯一の男性であるバーナントはいつのまにか部屋から姿を消していた。

 さすがは気配りのできる執事。


 屋敷の外に出たバーナントは一人庭を見ながらつぶやく。


「ブルーレットさん、本当に面白いお方です。

それに仕えることのできる幸せ、この上なく有難いことです」

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