第61話 叙勲式


 そして午後。

 王城のメインホールである謁見の間には。

 領都内の貴族が全員集められ、圭の叙勲式が始まろうとしていた。

 他の領地内にいる貴族はさすがに1日では駆けつけるどころか、知らせも届かないので不参加となった。


 ホール両サイドには兵士が壁際に整列し、中央の赤いカーペットの両脇には各貴族がずらりと並んでいた。

 玉座の隣には王妃の椅子とその娘である公女の椅子も用意されていた。

 王妃の椅子にはフレイズの妻であるダリア(30歳)と、公女の椅子には娘であるアリア(12歳)が座っている。

 宰相のレガントは玉座のななめ後ろに立っている。


 全員が揃ったのを確認してフレイズが玉座から立ち上がった。


「皆の者、今日は突然の呼びかけに来てもらい感謝する。

今日集まってもらったのはノイマン領で起こった事に対する報告と、新しく領主となる者の叙勲式を行うためだ。

まずは領地で起こった事だが。

領地を預けていたフィッツ・フォン・ノイマン子爵は、この王を長年にわたり欺き。

領地と領民を私物化し、あまつさえ悪政を行っていたことがわかった。

さらにフィッツは亜人の奴隷を何人も買い付け、虐殺を繰り返していたという。

貴族としての誇りも品位もないノイマン家に対し、余は廃爵を決定した。

本来であれば、今この場でフィッツを裁くのだが、フィッツは恨みを買った亜人によって殺された。

そしてフィッツと同じく悪事を行っていたエレン・ド・ローレン男爵は、領民を殺した罪で現在捕らえている。

エレンに対しては男爵家の爵位を剥奪し、さらにローラン家からは勘当の処分も受けている。


今回、この事件を解決したのは、これから叙勲を受けるブルーレットだ。

先に言っておく、彼は魔族だ。

我々人類の敵である魔族だと皆が思うのはわかる、しかし彼は人間に味方する魔族である。

王である余が認めた魔族だ、この国に益をもたらす人物であると保証しよう。

彼は強大な力を持つ魔族でありながら、悪政の続いた領地の再建をかけて力を貸してくれると。

領主になることを買って出てくれた。

領地と、この国の未来のために力を貸してくれると約束してくれたのだ。

この大陸で、魔族の力を味方につけた国はいまだかつてない!

これは魔族が属する国として、他国にない庇護を持つ国となったことを意味する。

それがこの大陸にどれだけの影響力を持つことになるか、ここにいる皆ならわかるだろう。


今からその功績を讃え、叙勲式を行う。

何度も言うが彼は魔族だ、魔族である彼に人間側の慣例は通用しない。

王である余と対等な振る舞いもあると思うが、不敬などと思わぬことを言っておく」


 簡単に叙勲の経緯をまとめて説明したフレイズは、再び玉座に座った。

 それを合図に、男の声がホールに声が響く。


「ブルーレットならびにイレーヌ・トンプソン、入場!」


 入口の扉が開かれ、圭とイレーヌが入場する、玉座へと続く幅の広い赤いカーペットと歩く圭。

 旅服は着用せず、魔族の姿そのままで歩いている。

 その後ろを歩くのはドレスを着たイレーヌ、今回領主代行として指名された王家のガヴァネスである。

 ちなみにイレーヌは37歳、メガネをかけた金髪の女性だ。


 玉座への階段の手前まで来ると圭は止まり、その横でイレーヌは跪き頭を下げる。


「ブルーレット、ノイマン領での貴殿の功績を讃え、ここに王であるフレイズ・ノア・フレデリック=デミルの名において、廃爵したノイマン家にかわり領主を任命する」


「おう!」


「レガント、角をここに」


「はい、こちらにございます陛下」


 銀のトレイに乗せた一角狼の角を受け取ったフレイズは、2本の角を高く掲げた。


「これは余への献上品である一角狼の角だ、魔族からの同盟の証として献上された物である」


 見たこともない一角狼の完全品の角を見た貴族達がざわめく。

 計り知れない価値を持つ角が2本も献上された。

 それが何を意味するのか、ここにいる貴族達は皆瞬時に理解した。


「この功績を讃え、ブルーレットに侯爵の爵位を叙勲する!

叙勲に賛同する者は拍手を以って応えよ」


 数秒経たずにホールにいる全員が拍手をし、その音がホールを埋め尽くした。


「あれ? 確か子爵にしてもらう筈じゃなかった?」


「これだけの功績に子爵では足りぬよ、侯爵家としてこの国に属してもらうよブルーレット。

この意味わかるよね?」


「図ったなフレイズ」


「いまさら取り消しはできないからね」


「ぐぬぬ、まあ、侯爵はありがたく受け取っておくけどさ。

俺は基本的に旅人だからあちこちの国に行くからね、それだけは理解してよフレイズ。

一応旅が終わったらここに帰ってくるけどさ」


「それでかまわないよ、旅っていつ終わるの?」


「魔王を倒すまでだから、いつになるかわかんない」


「おお! 聞いたか皆の者! ブルーレット侯爵は我が国の者として魔王を討伐すると宣言したぞ!」


「「「「「おおおおおおお!」」」」


 ホールは貴族達の歓声の渦に包まれた。

 魔王を倒すと言った圭の言葉を捉えて、国の功績にすり替えたフレイズの煽り。

 なかなかどうしてフレイズも役者のようだ。


「なあフレイズ、あんまり期待はしないでくれよ、あくまでも魔王を倒すのは俺個人の目的なんだから」


「まあそう言うなよブルーレット、魔王討伐なんて国を挙げて応援したっていいじゃないか。

そのために領主代行まで用意したんだから」


「確かにそうだけどさ」


「では、イレーヌ・トンプソン!」


「はい」


「ブルーレット侯爵の要望により領主代行の任を命じる!」


「はい、領主代行の任、謹んでお受け致します陛下」


「うむ、領地のと領民のために頑張るのだぞ」


「はっ、勿体なきお言葉、ありがとうございます」


「ところでブルーレット、一つ訊きたいのだが」


「ん? どうしたフレイズ」


「侯爵家を名乗るのなら、家名がないとダメだろう、家名持ってるのか?」


「あー、そういえば無かったな、家名って自分で決めていいのか?」


「決めていいぞ」


「ならそうだな、オクダにしようかな、ブルーレット・オクダ家。

ヤバイ、一字一句本物のアレになっちゃったよ!」


「ミドルネームはどうする」


「うーん、家名だけでいいんじゃない? 魔族だしいらないや」


「ブルーレットがいいならそれでかまわぬが。

よし、これよりブルーレットはオクダ侯爵家とし、領地はノイマンから変わりオクダ領と命名する!」


 最後に圭が余興でパンツ鳩を大量に飛ばし美しくホールを舞った。

 それを見た公女と王妃が顔を真っ赤にして「破廉恥ですわ!」と叫んだのは別の話だ。

 どうやら王都の一部にもパンツが出回っていたらしい。


 こうして圭の叙勲式はつつがなく終わった。


 イレーヌの移住などの事はフレイズに任せて、圭はその足でバーナントを背負いオクダ領へと向かって走り出した。

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