第60話 聴取と決裁

 翌日目覚めた圭は城の使用人に今日のスケジュール的な内容を聞かされた。


「本日の午前中は陛下とご一緒に、エレン・ド・ローラン男爵様とダイム・ド・ローレン男爵様を交えまして、事情聴取がございます。

そして午後からはブルーレット様の叙勲式となっております」


「そうなのか、さすがにエレンもあれこれ言い訳するだろうな。

すんなり捕まるような人間なら悪人なんてしてないと思うし」


 その後、小一時間ほど部屋で待たされ、事情聴取の準備ができたと別室に案内された。

 入口の扉を開け部屋に入ると、部屋の正面の上座には王が座る豪華な椅子。

 そこから1段下がった手前側にはくつかの椅子が王座に向かうように扇状に並べられていた。

 王座にはすでにフレイズが座っていてその脇にはレガントが立っている。

 付き添いに椅子に座るよう指示され座ると、左隣の椅子にはバーナント、右隣りの椅子には知らない壮年の男、その壮年を挟んでエレンが座っていた。

 事情聴取に呼ばれたのはどうやら自分を含めた4人だけのようだ。


「では皆そろったのでこれより、ノイマン領における兵士及び商人の殺害について聴取を執り行う。

国王陛下の御前であることを踏まえ、各自に証言の誓約をしてもらう。

まずはバーナント殿」


「はい、この場の発言におきまして私は嘘偽りなく真実のみを証言することを誓約したします」


「うむ、次はブルーレット殿」


「誓えばいいのか? 約束するよ、嘘はつかないって」


「次はダイム・ド・ローレン男爵」


「はい、私はこの場において嘘偽りなく証言することを誓約いたします」


 圭は横を見た、右に座っていた壮年はエレンの父、ダイムだった。

 確かに言われてみるとどことなくエレンに似ている。


「最後にエレン・ド・ローレン男爵」


「私はこの場において嘘偽りなく証言することを誓約いたします」


「よし、それでは国王としてエレン男爵に問う。

余が昨日バーナントとブルーレットの2名から受けた報告では、エレンが警備隊のデニスと商人のドレイクを殺したと、聞いたのだがそれは真実か」


「……」


 フレイズの問いに俯いたまま答えないエレン。


「エレン、なんと愚かなことを、真っ直ぐな武人になるように育てたはずなのに、どうしてこんなことに」


「エレン男爵、陛下の問いに答えよ、これは命令であるぞ」


 レガントの催促にエレンが重く口を開く。


「く……。私が……殺しました」


「エレン! 貴様恥を知れ! 男爵家の家名になんてことをしてくれたんだ!」


「父上、俺は自惚れていたのかもしれません。

武人として認められ男爵の叙勲も受けて、家業の全てを任され。

領主のフィッツと組んで、領の全てが思いのままになると思いこんで……」


「意外だね、フレイズの前だと案外素直になるんだな。

こっちを嘘つき呼ばわりして抵抗するかと思ってたけど」


「陛下と父上の前でそんなみっともない真似ができるか。

貴様が俺より先に陛下に会った時点で俺の負けなんだよ」


「そうか。

だとよフレイズ、どうする?」


「ではエレンよ、沙汰を申し渡す。

今日を以って男爵家の爵位を剥奪する。

そしてデニス殺害の責に関しては、その決裁権をデニスの両親に委ねるものとする!」


 その場で泣き崩れるエレンにダイムが言葉をかける。


「エレン、お前は勘当だ、今後ローラン家の家名を名乗ることは許さぬぞ」


「なんかあっけなく終わったね、あとはデニスの両親次第か」


「今の決定はこの後の叙勲式にて正式に発表を行うものとする。

さらにデニスの両親を城へ招き、エレンとの話し合いの場を設け、エレンへの罰を決定する。

それまでは牢に入れることとする。

ブルーレット、これでよいか?」


「ああ、上出来じゃないか? 両親に会わせるって俺の意見汲んでくれたんだね、ありがと」


「陛下、発言の許可を頂きたいのですが」


「なんだバーナント、申してみよ」


「はい、ノイマン子爵家のことなのですが、旦那様亡き今、廃爵になるのでしょうか。

残された奥様やお嬢様、そして屋敷に仕えていた使用人などの処遇も併せてお考えいただければと」


「ふむ、一つ訊くが、フィッツが行っていた悪事とやらは、廃爵に値するものなのか?」


「はい、人の道に外れたと行いと言えましょう、貴族としての尊厳もなく品位に欠ける愚行と言わざる得ないものでございます。

他の貴族様の耳でも入ろうものなら、即廃爵と陛下に進言するに値するものでございます」


「わかった、それとノイマン家の中で悪事を働いていたのは領主であるフィッツだけか?

家族や使用人は関係していないのか?」


「はい、仕えていた者はもちろん、奥様やお嬢様は悪事に手を染めてはおりません」


「うむ、では爵位についてだが。

ノイマン子爵家はフィッツの代を以って廃爵とする。

そして屋敷、それから使用人とノイマン家の者に対する処遇は、領主になるブルーレットに一任する」


「え? 俺が決めていいの?」


「不満か? ノイマン領を支配したんだろ、だったら最後まで責任とれよブルーレット」


「くっ、それを言われると、反論できないな」


「信用しているぞ、支配者改め新領主の魔族さん」


 こうして、エレンへの処遇と、領地内での大まかな対処が決まった。

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