第43話 フィッツとドレイク

 商店が並ぶメイン通りを抜け、少し高級そうな邸宅が並ぶ住宅街に入った。

 それなりの広さの庭を持つ家が多く並び、その一角にひときわ目立つ3階立ての屋敷が見えてきた。


「あそこが領主の屋敷だよ」


 リーゼが指した屋敷は、鉄格子の大きな両開きの門を構え。

 その中に見えるよく手入れされた庭は、かなりの広さを有していた。


「大きい土地に立派な家だな、これが領主の屋敷か」


「うん、お金持ちって感じだよね」


「そうだな、怪しまれない程度に周りをみていこう」


 散歩してる振りをしながら、屋敷を観察する圭。

 敷地を1周ぐるりと塀が囲っているが、胸くらいの高さなので、中の様子はよく見える。

 メイド数人が出入りしてるのと、使用人が庭の手入れをしている様子が伺えた。

 出入り口は建物正面のメイン玄関と、裏手にある使用人が使う勝手口が2箇所。

 この3つが出入り口だとわかった。


「屋敷の場所もわかったし、そろそろ戻るか」


「うん、たまにはこういう散歩もいいね。

いつもは荷馬車だから手繋いでゆっくり歩くなんてないもんね」


「確かに、そう言われてみたら初めてだな」


 雑談しながら、怪しまれないように領主の屋敷を離れる2人。

 来た道を帰る途中、1台の馬車とすれ違った。


 馬車の中に居たのはフェルミ商会の会頭、ドレイク・コンプトン。

 馬車はそのまま領主の屋敷へと入っていった。

 領主であるフィッツ・フォン・ノイマンに会うために。

 

 そんな馬車の行方も気にかけず、圭とリーゼは入れ違いでコンプトン商会に顔を出した。

 この前の若い店員に声をかけたが、会頭は不在でいつ戻るかわからない、そう対応された。

 この街に圭が来てると、声をかけるのが目的だったので。

 圭としては別に会わなくても良かった程度の用だ。

 ブルーレットがここに寄った、店員にそう伝えてくれとだけ頼んで、商会を出た。


「あの会頭、居ないこともあるんだね」


「まあ、ついでに寄っただけだから、会えなくても問題ないさ」


「このあとどうするの?」


「宿に戻って作戦会議だ」


「わかった、宿だね、行こうか」


 温泉宿に向かう2人。



 そして場所は変わって領主の屋敷。


 馬車から降りたドレイクは使用人に案内され屋敷の中へと入った。

 屋敷の内装に見合った調度品が飾られる廊下と応接間。

 その応接間のソファーに腰をかけるドレイク。 

 少し待っていると、この街の領主、フィッツ・フォン・ノイマンが入ってきた。

 中年太りの成金スタイル全開なドレイクに対し、フィッツは細身で身長がやや高め。

 目は鋭く下瞼には隈があり、どうみても善人には見えない面構えだ。

 スーツを着ているからかその顔も相まって、余計に冷徹な人間に見える


「ドレイク、突然どうした」


「ああ、フィッツ、今時間あるか」


「今日は何も予定がないからな、酒でも飲むか?」


「お前も飲むなら、一緒にもらおうか」


「わかった、酒を用意してくれ」


 使用人に酒の準備を頼むと、フィッツはドレイクの対面に座った。

 領主をファーストネーム呼びするドレイク。

 ある程度面識のある人間でさえ「ノイマン子爵」と呼ぶのが普通である。

 2人の関係がただの領主と商会主ではないことが伺える。


 使用人がテーブルにグラス2つと酒と氷を置くと、部屋から出て行く。

 フィッツがグラスに酒と氷を入れ、2人きりの部屋で飲み始める。


「あまり顔色が良くないな、何かあったか」


「ああ、ちょっと厄介なことになってな、しばらく身を隠したい。

ここに匿ってもらえないか?」


「かまわんよ、好きなだけこの屋敷に居ればいい。

それで何があった」


「実は、うちの商会に一角狼の毛皮を売りに来たやつが居てな。

それも無傷の一枚物だ、まともに買ったら金貨30枚はくだらん。

それを金貨40枚で買うふりをしてよ。

あとはいつも通りに仕事人使って始末しようとしたら、奴らがヘマこきやがった」


「仕事人ていつもの3人か?」


「ああそうだ、3人ともやられたみたいだ。

そのあとうちの店に直接乗り込んできてな。

そいつは俺にこう言ったんだ。

ネズミを3匹捕まえた。この落とし前は必ずつけさせてもらう。と」


「穏やかじゃない話だな、もっと腕の立つ仕事人を紹介しようか?」


「だめだ、去り際に奴は俺に腕を見せたんだよ。

人間の腕じゃなかった、あれは亜人だ、それも見たこと無い腕だった」


「見たことない亜人って、そんなことあるのか」


「俺も商人だ、だいたいの亜人は見たことがある。

ただ、見たことないって言うと、魔族の魔人くらいだ」


「魔人だと!? この国にそんな物騒な奴がいるって言うのか!」


「可能性のひとつだ、俺もそんなこと考えたくねえがな。

でもあの3人がやられたって事実からすると、否定はできねえ」


「だが魔族の連中は人間を片っ端から殺すって聞くぞ。

そいつが魔人だとしたら、今頃この町は大変なことになってるはずだ」


「そうなんだよな、だから訳がわかんねーんだよ。

魔族って線が濃いけど、別の亜人かもしれねえ。

とにかく俺はそいつに目を付けられた、そいつが昨日の夜からこの街に戻ってきたんだよ。

あとは言わなくてもわかるだろ」


「ああ、わかったよ、しばらくはうちに居るといい。

亜人か、俺のほうで排除できるなら、始末しとく。

亜人をこの街に入れるのは我慢ならないからな」


「お前の亜人嫌いは相変わらずだな。だが気をつけろよ。

相手は相当強いぞ。俺みたいに返り討ちにあうなよ」


「わかってる、上手くやるさ」


「こっちは狼の毛皮を手に入れた代わりに、金貨40枚持ってかれたんだ。

商人の顔に泥塗りやがって。

亜人となるとお前が専門だからな、取り返してくれたら助かる」


「久しぶりだな、骨のありそうな奴を相手にするのは。

子爵とはいえ俺も一応貴族だからな、貴族の貴族たる所以、見せてやるよ。

相手が魔族の魔人だったら、話は別だが。

俺の勘じゃただの亜人だろう、魔人がこんな街にいてたまるか」


 雑談しながらお互いの情報を共有するフィッツとドレイク。

 

 フィッツ・フォン・ノイマン。どうやら圭とやりあうつもりのようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る