第23話 納税
翌朝、圭の部屋を訪れたリーゼは絶句した。
「変態だ! 世界一の変態がいるっ!」
大量のパンツに埋もれたまま寝ている圭、これを起こしていいものなのか。
いや、それよりも起こす以前にいろんな意味で、近寄り難い何かをかもし出しているこの物体。
「なんか、こんなに誰かを起こしたくない状況は初めてだよ。
でも起こさないとね、うん」
そう自分に言い聞かせ圭の肩をゆするリーゼ。
間近でみてもすごい迫力だ、何がってこの大量のパンツだ。
一晩で一体どれだけパンツを作ったんだこの魔族は。
ぱっと見た感じ、100や200じゃきかない量だよこれ。
作画マンが見たら冷や汗かきながら、有給取ってアニメスタジオから逃げ出すレベルだ。
「んっ……。あ、リーゼおはよう」
ゆすり起こされた圭が朝の挨拶をする。
それをジト目で迎え入れるリーゼ。
「女性用下着のベッドで眠るとか、さすが変態ですね。
むしろここまできたら変態の王ですよ」
「ベッドって」
ねぼけ顔で自分が寝ていたベッドを確認する圭、一気に顔色が青ざめていく。
「ち、ち、ちがうんだかーちゃん! これには訳がっ!」
「誰がかーちゃんやねん」
「まあ、その、なんというか。
この状況だけ見たら、変態の王だよね俺、キングだよね」
「うん、変態の国の変態王ですよ」
「返す言葉もございません」
「で、いったいどれだけ作ったんですか?」
「500ぐらいまでは数えてたんだけど、そっから先は数えるのがめんどくさくなって。
気がついたら疲れて寝てた。たぶん800枚くらいはあると思う」
「800! もうなんていうか、やることなすこと、どーして変態じみてるんですかね」
「でも、リーゼだって昨日たくさん作ってって言ったじゃん!」
「限度ってもんがありますよ! どんだけパンツ好きなんですか」
「いや、パンツが好きなのは否定しないけど、能力の限界は俺のせいじゃないってば」
「はぁ~、これを配って広める私の身にもなってくださいよ。この物量、致死レベルだよ」
「重ね重ね申し訳ない、とりあえず必要な分だけ渡すよ、残った分は俺が保管しておくから」
「いえ、全部もらいますよ」
「全部?」
「多分だけど配りはじめたら、あっというまにみんな欲しがようになる筈ですから。
履いた私が言うんです、間違いありません。
なにより腰紐がないってのが最高ですよ」
「おお、そうか、愛と平和のパンツ伝道師ブルーレットとしてはちょっと嬉しいぞよ」
「いつからパンツ伝道師になったんですかこの変態王は」
「たった今だ、俺はパンツを世界に広める!」
「まあ、ほどほどに頑張ってください」
「なんか俺の扱いがだんだん雑になってきてない?」
「そんなことないですよ~、偉大なる魔族様ぁ~」
「いや、パンツ好きの変態としか見てないよね」
「いえいえ、王様相手に決してそのようなことは」
「目を見て言えよ目を」
「変態とは目を合わせるなって、おじいちゃんの遺言が」
「ヒドっ!」
「ふふふふふふふ」
「あはははははは」
魔族の姿である圭に対して、臆すことなく冗談を言い合える人間。
圭にとってこんな短期間にそんな存在が出来ようとは、思ってもなかった。
もっと距離をおかれ、常に怖がられるものばかりだと。
だが圭の感覚は日本においては概ね正しいのだが、ここは異世界だ。
人間以外にも魔族を筆頭に亜人やエルフなど多種にわたる種族がいる。
敵対してることは確かだが、種として化け物と畏怖されるかどうか別問題のようだ。
「シーツはあとで返しますから」
と言い残し、大量のパンツを圭のベッドシーツごと包んで家に持ち帰ったリーゼ。
残された圭は作業場に行き、村人の脱穀と製粉の手伝いをすることにした。
もちろん麦作業だけ手伝うことはせず、狼の解体場所も顔を出し、必要とあらば手伝っていた。
風魔法が使えない圭にとっては、籾殻の仕分け作業は、指を咥えて見ることだけしか出来なかったが。
それ以外の作業は皆に混ざりワイワイと楽しくこなすことができた。
やはり力有り余る魔族の圭にとって、力作業は腕の見せ所であったし、それなりに重宝された。
そんなこんなな収穫作業も、1日1日と順調に消化していき。
それと平行しながら一角狼の解体も最初の2日で大体終わり。
3日目からは毛皮のなめし、肉の塩漬け加工と別れて作業となった。
毛皮のなめしで一番大変なのが、皮の裏に着いた肉をきれいにすき取る作業だ。
一角狼1匹分の毛皮は広げると畳3枚ぐらいの大きさがあり、それを道具を使って残った肉を綺麗に剃り落としていく。
これがなかなかの力仕事なのだ、皮をきれいに残さないと商品としての価値がさがる。
力まかせにゴリゴリやるとダメになってしまうのだ。
圭の手伝いもあって、肉のそぎ落としは1日で終わった。
肉の取れた毛皮は一晩川に沈め、次の日からは重曹を使い綺麗に洗っていく。
洗ってから2日くらい天日干しをし、水分が完全に抜けたら完成だ。
そして迎えた納税当日。
収穫した麦は10kgくらいの麻袋が、全部で約300袋。
麦以外の穀物は徴税の対象にはならない、なぜなら長期保存すると腐るからだ。
そしてこの300袋の5割、つまり150袋が今回徴税されていく。
毎年のことながらすごい量だ。
徴税官は屋根のない平荷台の馬車2台で、昼前に村にやってきた。
「遠いところご苦労様です」
2名の徴税官を村長が笑顔で迎える。
「うむ、今年の収穫はどうだね」
「おかげさまで不作にもならず300収穫できました」
「そうか、ところでここに来る前に立ち寄った、セターナ村で小耳に挟んだんだが。
なんでも一角狼が出て大変だったとか」
「ええ、村の男衆が10人ほど犠牲になりましたよ。
狼は追い払われて今は大丈夫です」
それを聞いた徴税官がニヤリを口元に笑みを浮かべる。
「それは難儀であったな。おい、ダグラス、この村の帳簿を出せ」
「はい、こちらに」
もう一人の徴税官は肩掛け鞄の中から帳簿を出し、村長と話をしている徴税官に渡した。
「どれどれ、この村の住人は、去年は103人になっているが。
今は10人減って93人ということで間違いないな?」
「はい、その通りです」
「うむ、帳簿を修正しておこう。
では領主様の代行として徴税を執り行う。
エッサシ村は収穫の6割、麦180袋を納税せよ!」
「な! どうして6割なんですか! 毎年5割の取り決めのはずでは!」
「なに、簡単なことだ、100人居た村民から10人死人が出た。
つまりは住人が1割減ったってことだ。
これは食いぶちが1割減ったってことだよな?
ならその浮いた1割を税に乗せても問題はなかろう」
「そんな! 横暴がすぎます! どうか例年通り5割でお願いいたします!」
「ならん、これは領主様からの指示だ。
住民が著しく減った場合はその分、税として徴収せよとの命令が常に出ているんだ。
お前も村長ならわかるよな。
住民が集団で領地から逃げ出さないように、もし逃げたら他の残ったものに迷惑がかかる。
そう見せしめにするための大事なルールなんだよ。
逃げたわけでなく狼にやられたのは不幸だが、それを理由にルールを破るわけにはいかないんだよ。
コッチも仕事なんでね、悪く思わないでくれ」
そこまで言われると、村長も反論する訳にはいかなかった。
ただじっと唇をかみしめる村長。
そんな村長を見かねてひとりの男が声を発した。
「あの、ちょっといいですか?」
そう声を発したのは圭だった。
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