第15話 村長との会話


 ひとしきり歓喜の舞を踊った圭は落ち着きを取り戻す。

 チュートリアルもこなし、だいたいのシステムを把握した圭。


 このまま変身が解けるまで被りっぱなしというのもアリだが、使用済みパンツさえ調達できればいつでも変身できるのだ。

 今現状として「魔族」の姿と「パンツ+人間」の姿、どっちがやりやすいかなんて考えるまでもない。

 名残惜しい気もするが自分の手で変身を解くことにした圭だった。


 変身を確認するという目的は果たしたのだ。


 頭からパンツを外すと一瞬の光に包まれまた魔族の姿へと戻った。


「忌々しい気がしないわけでもないが、とりあえず初変身に使用したこのパンツ。

捨てるわけにもいかないし、収納に入れておこうか」


 念じるだけでいい、確かそう書いてあった。

 右手の上にあるパンツ、それが一瞬のうちに消えた、そしてまた右手の上に出る。

 また消して、今度は左手の上に出た。


「なるほど、スキル説明の通り、出すのも入れるのも、そしてどっちの手にするかも自由自在ってわけか」


 こうしてスキルの確認をしておくのも大事なことである。


 シエルパンツを収納し、次にやったのはパンツの生成だった。


「おお、想像したままのパンツが出た! でも出たけど嬉しくないのはなぜだろう」


 ぴろーんと両手で広げたのはピンク色のフルバックショーツMサイズ。

 そして次から次へと色を変えては出していくパンツ。

 白、グリーン、ブルー、イエロー、紫、グレー、赤、黒、アイボリー、水色。

 出しては手の中に消え、通算20枚数えたところでその作業をやめる圭。


「さて20枚作ったけど、これ、魔力使うんだよな。

たしか消費は小って書いてあったけど、魔力が減ってる感覚がわからん。

むしろ魔力ってなんなんだ?

体感的に疲れるとかそういうのは今のところ無いしな。

突然切れて出なくなる、とか?

あ、そういえば眠くなるってシエルが言ってたな。

活動中に眠くなるのはあまりよろしくない。

今後のために魔力の限界値を知っておきたいけど、今日は色々とやることがあるしな、また今度にしよう」


 そう言って踵を返した圭は、宇宙との交信が終わってると願いたい村長の家に向かった。



 

「村長さーん、入るよー」


 軽いノックとともに圭は村長の家に入った。

 圭の目に入ったのは元気にスープを飲み、パンを食べる朝食中の村長の姿だった。


「村長さんおはよう、その様子だと昨日の疲れは取れたみたいだね」


「おおこれはブルーレットさん、おはようございます、おかげさまで元気ですよ。

ただ、あの椅子に座るとなぜか勝手に体が震えるです。

なぜでしょう、ここ最近使ってないはずなんですが」


 そう言う村長が指差した椅子は、昨日アトラクションで使用した椅子だった。

 部屋の隅に追いやられているのは気のせいだと思いたい。


 記憶改ざんの自己防衛が働くほどのトラウマだったのか村長さん。


「今日は避難した人達をこの村に連れてくるよ」


「ええ、がんばりましょうブルーレットさん」


「朝食が済んだら一旦広場に来てくれる?」


「ええ、わかりました、後ほど広場に行きます」


「ちょっと確認したいことがあるんで、それじゃまた」



 広場に戻った圭は使い慣れたベンチに腰を降ろして村長を待つ。

 20分ほどして村長がゆっくりと広場へ歩いてきた。



「今日もいい天気ですね、いつもなら収穫で賑わっているはずなんですが、いやはや一角狼のせいで困ったもんです」


「そうそう、確認したいってのは実はこの狼の事なんだけどね」


 圭は目の前に転がる狼の死体を指差した。


「これですか?」


「うん、これをどうしようかと思ってね、一応村長さんの意見も聞いておこうかと」


「と言いますと」


「帰ってくる人達の目にこの狼はどう映るのかと思ってさ。

安心させる材料としてはしっかり見せたいけど。

身内を殺された人からしてみたら忌むべき仇だし。

正直見たくないって人もいるんじゃないかなと。

デリケートな問題だからね」


「おおお」


 村長が感嘆の声を漏らす。

 目を見開き真っ直ぐと圭を見つめる村長。


「あなたは本当に魔族なのですか」


「よく言われるよ」


 はぐらかした圭の目とじっと見続ける村長。

 その視線は真剣であり、また圭の内面に向き合うことを願う誠実な視線だった。

 魔族らしからぬ言葉を発した圭の真意に向き合い、それを知りたいと願う視線。


 1秒とも10分とも取れる長い沈黙。

 黙して語らずの圭に村長が折れる。

 それは、今はそれ以上踏み込むべきではないと察した、村長の敬意ある引きだった。


「今はそういうことにしておきましょう」


「だから言ったでしょ、風変わりな魔族だって」


「はははは、長生きはするもんですな、私はまだこの世界の半分も知らないことに気づきましたよ」


 なかなか食えない老人である。今はまだ転生の話や自分の正体を知られたくない。

 圭自身にそれがこの世界にどんな影響が出るのか、未知数すぎて対処できる自信がないからである。

 

 いずれは万事に対応できる基盤を作り、自分の進む方向も見定めたい。

 だが今はその時ではない、圭はそう思った。



「それで、どうしたらいいと思う? 村長さん」


「そうですね、私は見せるべきだと思いますよ」


「理由を聞いていい?」


「はい、愛する者を失った悲しみを早く乗り越えて欲しいからです」


「そうか、俺にはまだその経験がないから、村長さんが言うなら、きっとそうなんだろうな」


「それに、まだ言ってなかったですが、私の息子も今回、狼にやられたんですよ」


「な!!!」


 昨日、狼を見せた時に村長がどんな想いだったのか。

 想像を絶する感情だったに違いない。

 その感情を理解するには圭はあまりにも若すぎた。

 わかるなどと言ったらそれは完全な驕りである。


「村長さんは強いね、みんながそうだといいけど」


「大丈夫ですよ、強い弱いは関係ないんです。

生きると言うことは受け入れて前に進む以外にないってことなんです」


「だとしたら、みんな強いってことだね」


「そうかもしれませんね、皆この村の仲間です、そうであってほしい」


「さて、それじゃこの狼はこのままでいいってことだね」


 村長に向き直る圭、真面目な話しはこれで終わりだ。



 次に紡ぐ言葉を考える圭に悪魔が乗り移る。


「村長さん、みんなを向かえに行くんだけど、片道徒歩で半日は時間がもったいない」


「あ、今日は森にキノコを取りに行く用事があったんでした!

いやいや、歳を取ると物忘れがひどくてかないませんなぁー。

では、そういうことで」


 立ち去ろうとする村長の肩をガシっと掴む圭。


「村長さんが迎えに行かなくて誰が迎え行くんだよ」


「なら往復徒歩1日でいいじゃないか!」


「いいわけないだろ、いきなり行ってすぐに移動とか無理だろ、準備と必要だろうが!」


「そ、それはそうだが」


「大丈夫大丈夫、昨日は往復6時間だったけど、今日は往復20分程度だから」


「時間の問題じゃない! 見えるんだよ死んだ婆さんが!」


「奥さんに会えて結構じゃないか、思う存分愛を語ればいい」


「イヤじゃーーーーーーーーー!」



 斯くして、今日も今日とて村長は宇宙との交信に成功したのだった。 

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