第14話 チュートリアル2
「はあ~」
紡ぎ出された文字列はため息と言うの名の感嘆文だった。
イヤな予感しかしない、イヤな未来しか見えない。
つい先ほどのシエルのチュートリアル、やらかしてくれた、盛大にやらかしてくれた。
そしてスキルを取得する一歩手前までいっての強引なシエルの逃亡。
普通のチュートリアルならポイント使ってスキルを取得するところまでやるはずだ。
それをしなかったのはわざとだ。
それが伏線だと気づかないほど俺はお子様ではないのだよシエル君。
薄々勘付いてはいた、このスキル習得が俺の罪に対する枷になることに。
転生前にシエルは言っていた「スキルに手を加える」と。
そして手に握られた脱ぎたてパンツ。
開けてはいけない扉を開けるのが俺の運命なのか、それが罪滅ぼしだというのか。
ならやってやろうじゃないか!
その喧嘩買ってやる!
魔法使いを目前にした童貞に怖いものなんてねーんだよ!
ヤケッパチの心境で呼び出すステータス。
■個体名:ブルーレット・オクダ・ケイ
■種族 :魔族目亜人科魔人
■ランク:ブルー <ランクアップ可能>
■PT :672PT
■TPT:672PT
■スキル:一覧を見る <取得可能スキルあり>
とりあえずスキルの【一覧を見る】を選択。
□ スキル一覧 □
ブルーランクスキル
□変身 <取得可能 100PT>
□収納 <取得可能 200PT>
□生成1 <取得可能 300PT>
一つ目の【変身】を選択。
ポップアップされる小さいダイヤログボックス。
□ スキル【変身】を取得しますか? YES/NO □
「YESだコンチクショー!」
□ スキル【変身】を取得しました □
ポップアップの内容が変わりウインドウが閉じ「スキル一覧の」表示内容が変わる。
□ スキル一覧 □
ブルーランクスキル
■変身 <スキル説明>
□収納 <取得可能 200PT>
□生成1 <取得可能 300PT>
「んーなるほど、取得したら四角が黒くなって説明が見れるってワケか、どれどれ<スキル説明>っと」
■変身■
【女性の使用済みパンツを頭に被ると以下の条件に従いその間だけ人間に変身できる】
条件1・変身に掛け声はいらない、念じるだけで変身可能。
条件2・女性が未着用のパンツでは変身できない。
条件3・女性の着用時間の20分の1の時間だけ人間に変身できる。
条件4・着用時間とは洗濯をはさまない連続または非連続の使用時間の積算とする。
条件5・一度パンツを頭から取るとそのパンツは未着用扱いになる。
条件6・被った頭部のパンツを視認できないように隠すとその変身効果はなくなる。
条件7・女性が着用したパンツを洗濯すると未着用扱いになる。
条件8・変身の前後での個体の能力は変わらない。
「オウフ……もうやだこの世界」
絶望、圧倒的絶望!(CV:立木○彦)
「状況を整理しよう、女の人が穿いた時間に応じて人間になれる、60分穿いたら3分の変身。
さらに隠したらダメ、おっぴろげで頭に被る……。
ダメだ、逮捕される未来しか見えない。
ふっざけんな! なんだこのあり得ないスキルは!
おいこらシエル出てこいや!
悪ふざけにも限度ってもんがあるだろーが!」
叫んだところで状況は何も変わらなかった。ただただ虚しい風が頬を撫でる。
「思っていた以上に最悪の展開だぞこれ。
ん? この条件7って、能力が変わらないってことは、別に変身する意味なくね?
それとも何か変身に付加価値があるんだろーか」
考えてもわからない、わからないことは考えない、そうすることにした圭だった。
さてサクサク次に進もう。
「とりあえず残りの【収納】と【生成1】も取得しておこう、ポイントは足りるはずだ」
同じ手順でポイントを使いスキルを習得する圭、そしてスキル画面を呼び出す。
□ スキル一覧 □
ブルーランクスキル
■変身 <スキル説明>
■収納 <スキル説明>
■生成1 <スキル説明>
「よし、全部覚えた、次は【収納】のスキル説明だな」
■収納■
【女性用衣類を以下の条件に従い体内亜空間に収納できる】
条件1・収納に魔力の消費はない。
条件2・女性用衣類は生成及び非生成関係なく収納できる。
条件3・男女兼用衣類は収納できない。
条件4・収納および取り出しは左右どちらの手のひらでも行える。
条件5・収納中の衣類は劣化しない。
条件6・収納量に制限はない。
条件7・スキルの使用に掛け声はいらない、取り出しは収納したその衣類をイメージするだけでよい。
条件8・女性が着用中の衣類でも手に触れれば収納できる。
「なるほど、よくわからん。いや、ホントはわかるんだけどね、理解したくない男心を誰かわかってくれ!
とくに条件8とかもうそれ犯罪じゃないか」
次のスキル説明を開いてみた。
■生成1■
【女性用パンツを以下の条件に従い生成できる】
条件1・生成に必要な魔力量は小。
条件2・生成されるパンツは綿100%とする。
条件3・色は単色のみで好きな色を選べる。
条件4・デザインはフルバックとする。
条件5・サイズはS・M・Lから選べる。
「も一回言うぞ……もうやだこの世界!!」
スキル習得だけでなぜにこんなに疲れるのか、だがもう一仕事残っているのだ。
心はもうとうに折れたが頑張って次のランクアップに進もう。
■固体名:ブルーレット・オクダ・ケイ
■種族 :魔族目亜人科魔人
■ランク:ブルー <ランクアップ可能>
■PT :072PT
■TPT:672PT
■スキル:一覧を見る
「よし、このままランクアップを選択だな。
行け! マウスポインタ! お前に決めた!
って俺はサトシじゃなくて圭だっつーの」
毎度おなじみのポップアップが出ました。
■ ランクをブルーからイエローにアップしますか? YES/NO ■
「当然YESですよ奥さん!
しかしこのランクアップ、自動更新じゃなくて選択式ってちょっとめんどいな。
手動なのは自動だとランクアップに気づかないかもしれないから、とかなのかねぇ。
親切なのか不親切なのかわからんシステムだ」
■ イエローランクにランクアップしました ■
「ああもう、なんか魂が抜け出そうな勢いだけど、素直にランクアップを喜ぶとしようか」
一応確認でステータスを見てみる。
■固体名:ブルーレット・オクダ・ケイ
■種族 :魔族目亜人科魔人
■ランク:イエロー
■PT :072PT
■TPT:672PT
■スキル:一覧を見る <取得可能スキルあり>
「ん? スキルがまた取得できるようになってる?
ランクアップしたからかな、しかし今は72PTしか残ってないし多分無理だな。
もっと貯めてからもう一度見よう。
つーか俺の精神が削られすぎて見る気力がない」
ステータスを閉じ、意識は再び現実へと戻る。
さてパンツ、握られたパンツ、脱ぎたてホカホカのパンツ。
被らなきゃダメなのだろうか。
チュートリアルが終わった今、成すべき事は一つなんだが。
思いっきり気が進まない。
むしろ人間の尊厳を失いたくない、あ、俺魔族だった。
踏み出したら元には戻れない棘の道。
覚悟を決めた圭が手にしたパンツを天に向かって広げる。
「パイ○ダーオン!」
やけくそでそう叫んだ圭はシエル(7歳)のパンツを頭に被った。
パンツの2つの足穴は圭の2本の角を素通りし、丸い頭部へとそのパンツがフィットする。
それは圭が初めて、魔族というか人間の尊厳を捨てた瞬間だった。
1秒にも満たない刹那の時間、圭の体は光に包まれ、そしてその光が消えると人間の姿になっていた。
「おおおおおお、死んだ時と同じ格好だ、そのまんまだ!
戻ってる! 俺、人間に戻ってるよ!」
見える範囲で確認する首から下の体部分を見た圭は歓喜の声をあげた。
使い古したスニーカーにジーンズパンツ、白生地に英字がプリントされた安物のTシャツ。
死んだのが夏だったから夏まんまの格好である。
今の季節は秋なのだが、身体能力が魔族と同じままの圭には寒く感じなかった。
「ビバ人間!!」
やっと叫んだ言葉がなんと陳腐なことか。
「うん、これだよこれ、はぁ~おかえり俺の体。
頭に被ったパンツを抜きにすればずっとこのままでいたい。
もう戻りたくないでござる。
あ、そう言えば元の体にもどったってことは……。
くう~~~っ、あるよ! あるべきものがあるべき所にあるよ!」
女児パンツを頭に被り、ジーンズパンツに手を突っ込み股間をまさぐる圭は、何処に出しても恥ずかしくないただの変態だった。
いや、どこに出しても恥ずかしい変態だった。
「竿があるってことはだよ、魔法使いフラグを回避できんじゃね?」
ヒャッハーと叫びながら狂喜乱舞する圭だったが。
圭は気づいていなかった。
パンツを被ったままで男女の契りを交わせる程、脱童貞の道は簡単ではないということに。
この広場でそんな圭の姿を見つめるのは、昇ったばかりの太陽だけだった。
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