第13話 チュートリアル1

 朝チュンである。


 朝日を全身に浴びながら圭は目覚める。

 転生二日目早朝、まだ陽は昇ったばかりの広場のベンチ。


「おおぉ、いつのまにか朝になってたか」


 上半身を起こし軽く伸びをしてベンチに座り直る圭。

 ふとお尻に感じる違和感、片尻を少し持ち上げてそこに手を差し込むと紙のような手触りがあった。


「ん? 何だコレ」


 手に取ったそれは白い封筒で、ハート型のシールで封がしてあった。

 一応と確認で裏を見ると日本語の丸文字で「圭お兄ちゃんへ FROM シエル」と謎の文字列。


 いや、謎でもなんでもなかった、ただ理解したくないだけだった。

 確かにあの超絶ハイパーなんとか管理者のシエルは手紙を出すと言っていた。

 手紙ではなく本人に色々と聞きたいことは山ほどあったのだが、一方的な手紙に憤りを感じつつも、とりあえずこの異世界を生き抜くためのヒントが欲しくないと言えは嘘になる。

 何が書かれてるかわからないがコイツが、今の自分にとって貴重な情報をもたらす物であることは疑いようがない事実だ、なんか開けたくないイヤな予感しかしないんだが、それでも開けないと次に進めない恐怖、わかってくれるかい? 地球の諸君。


「開けないとダメだよなこれ」


 封筒を開けてみると、中には2つ折の1枚の便箋、それを開くと書き込まれていたのは、大きい丸の中に見たこともない文字や模様がびっしり。

 所謂魔法陣と言うやつだろうか。それを確認すると同時に魔法陣が光り出し便箋の上の空間にザザッとノイズが走る。

 やがてそのノイズは人型の立体映像となった。別名ホログラムと呼ばれるもの。


 黄色い学童帽。

 白の襟付きシャツ。

 サスペンダー付きの紺色のスカート。

 リコーダーの刺さった赤いランドセル。

 胸元にはチューリップの形をした「しえる」と書かれた名札。

 ワンポイントに白いリボンのついたソックス。

 赤いつま先の上履き。


 もう完全にアレだった、口には出していけないアレだった。


「圭お兄ちゃんおはよう! お兄ちゃん大好きみんなの妹シエル(7歳)だよっ! きゃるるんっ♪」



 パシンッ!!!!



 思いっきり閉じた。渾身の力を込め便箋を両手で挟むようにして閉じた。

 閉じた瞬間消えるシエルのホログラム。


「なんだこれ、疲れてるんだろうか俺。できるものなら見なかったことにしたい、わりとマジで」


「ふえええ、お兄ちゃんここから出してよぅうう、暗いよー怖いよー」


 両手に挟まれた便箋からくぐもった声がし、その便箋がジタバタと暴れる感触が手のひらに伝わる。


「幻聴が聞こえるようだ、やはり俺は疲れているだろう、もう一度寝るとするか」


「あーもうシエル怒っちゃったからね! お兄ちゃんがそんな態度なら遺品のPCの中身世界発信しちゃうからね!」


 思いっきり便箋を開いた。


「お呼びでしょうかシエル様、ご機嫌麗しゅうございます」


 あれだけは! あれだけは両親に見られるわけにはいかない!

 てか誰か俺のPC爆破してくれ! 

 今のやりとりでお兄ちゃんは10歳は老けたよ、設定上の妹シエルよ。

 てか童貞男のPCの中身人質に取るとか一番やっちゃいけないテロ行為だよ。


「えへへ、圭お兄ちゃんにまた会えた! うんとね、いまからチュートリアル始めるからちゃんと聞いてね」


「もう好きにしてください。お兄ちゃんのライフは0です」


「えーと最初はね、魔族さんの生態についてせつめいしまーす」


「おお、まってました貴重な情報」


「魔族さんは、きほんてきにネムネムしません、でもネムネムしようと思ったらネムネムできます」


「え? 眠らなくてもいいってこと? 24時間働けるとかそれなんてビジネスマンだよ」


「そして魔族さんはモグモグゴックンしません、でもモグモグゴックンしようと思ったらモグモグゴックンできます」


 ここで圭は思い出した、異世界に来てからまったくお腹が空かなかったことに、食べなくてもいいならそれはそれで便利だ。


「魔族さんは魔力でうごきます、魔力はネムネムするとかいふくします、あと魔力溜りからできる魔石をモグモグするとかいふくします。

圭お兄ちゃんは不死ののろいがかかっているので、魔力が切れるまえにセーフモードにはいります。

セーフモードにはいったらネムネムしたくなります」


「つまりは魔力ってやつがあれば眠らず食わずで生きていけるってことか」


「そしてすごく大事なことがあります」


「大事なことってなんだ!?」


「魔族さんは、うんちもおしっこもしません」


「あー、うん、その容姿で言われるとなにかクるものがあるな、俺いけない扉を開けちゃいそうだ。がんばれ俺」


「そしてね、魔族さんがこどもをつくるときは、おしべとめしべがドキドキドッキングできないらしいんだけどシエル子供だからよくわからないの」


「ちょっ、そこっ! すごく大事だから! もっとよく思い出して!」


「うーんとね、どうだったかなぁ」


「頼む! 俺が魔法使いになるかどうかの瀬戸際なんだ!」


「あ、おもいだした! 魔族さんは、くちからたまごをうみます」


「やっぱり魔族は雌雄同体だったよコンチクショー!」


 夢も希望もへったくれも無かった、30歳で魔法使い、40歳で大賢者、俺の未来が決定した。


「おおおおおう、はやく人間になりたいよ、今なら妖怪人間の気持ちがわかるきがする」


「魔族さんの生態はこれでおわりです、つぎはランクとポイントとスキルのコーナーです」


「お便りコーナーみたいなノリで言われちゃったよオイ」


「あたまのなかでステータスということばをおもいうかべてください」


「ステータス?」


「あたまのなかにステータスがでてきます」


 言うや否や脳裏にダイヤログボックスが浮かび上がった、今みている景色に被さるようにステータスが表示される。




■個体名:ブルーレット・オクダ・ケイ

■種族 :魔族目亜人科魔人

■ランク:ブルー <ランクアップ可能>

■PT :672PT

■TPT:672PT  

■スキル:一覧を見る <取得可能スキルあり> 



 

「あたまにのなかにでましたね」


「おお、出た出た! これがステータスか」


「個体名と種族については住民課できいてください」


「住民課なんかねーよっ! てか役所はどこだよ!」


「PTはつかえるポイントです、つかうとへります、スキルをおぼえます」


「ああなるほど、転生前に聞いたのと同じ内容だな」


「TPTはトータルポイントです、ホームランのほんすうではありません」


「うんわかってる、これは野球ゲームのステータスじゃないよね」


「ちなみに圭お兄ちゃんの、よるのホームランはいまだに0ほんです、かわいそう」


「うるせーよ! 童貞ナメンナ!」


「TPTはたまるとランクをあげることができます、つかってもへりません」


「つまりはランクアップの指標になる積算ポイントってことだな、ふむふむ」


「ランクアップのポイントはこんなかんじです」


 脳内に別のダイヤログボックスが開いた。




■ブルー :0PT

■イエロー:500PT

■グリーン:1000PT

■レッド :10000PT

■パープル:50000PT

■シルバー:100000PT

■ゴールド:500000PT

■プラチナ:1000000PT




「ほうほう、なるほど、だいたい把握した、今672あるからイエローにランクアップできるわけだな」


「さすが圭お兄ちゃん、あたまいいね、そこにしびれるあこがれる!」


「うん、バカにされてることだけはわかった、よし戦争だ」


「ランクがあがるとおぼえられるスキルがふえるよ。あとおなじランクでもスキルをおぼえたらべつのスキルがでてくることもあるよ」


「なるほどな、スキルは段階を追って習得するタイプなのか」


「プラチナはひゃくまんポイントだからがんばってね圭お兄ちゃん」


「ああ、目標がはっきり見えるってのはやりやすいし有難いな」


「それじゃあ、ランクのベージはとじるね」


「あ、消えた、なかなかに便利だなこれは」


「まずはスキルからひらいてみよう! いちらんをみるをダブルクリックだよ」


 いつのまにかマウスポインタが現れていた、もう驚かないぞ俺。

 異世界まで侵略していたのかマイク○ソフトめ、このダイヤログボックス突然固まったりしないよな?

 そのまま脳内でマウスポインタを動かし【一覧を見る】を選択した。




□ スキル一覧 □


ブルーランクスキル

□変身 <取得可能 100PT>

□収納 <取得可能 200PT>

□生成1 <取得可能 300PT>




「あのう、これよくわからないんですが、教えてくださいシエル先生」


「おぼえたいスキルをクリックしてね、右のPTは必要なポイントだよ、おぼえたらスキルのせつめいがみれるよ」


「ってことは覚える前はスキルの名前しかわからないってことか」


「うん、そうだね、なかみはおぼえてからのおたのしみだよ。

さて圭お兄ちゃん、さみしいけれどシエルね、お兄ちゃんとバイバイする時間なの。

あとはじぶんでやってみておぼえてね」


「ああ、ここまで判ればあとは自分でなんとかするよ」


 そういうと圭はステータスを一旦閉じた。


「うんとね、シエルね、そのはずかしいけど、圭お兄ちゃんのためにだいじなものあげるね」


「大事なもの? なんだそれ」


「うんしょ、うんしょっと」


 ホログラムのシエルはスカートの下から両手を中に突っ込んでゴソゴソし始めた。


「ちょ、おま! なにしてんの!」


 ずりずりと降ろされていくのは白い布、そう、それはパンツと呼ばれる下着である。

 片足ずつ抜き取りシエルの手に握られているのは脱いだばかりのパンツ。


「はい、チュートリアルがおわった圭お兄ちゃんにプレゼントだよ、だいじにしてね」


 ホログラムのシエルが手を伸ばすとそのパンツは現実の物として圭の手に手渡された。

 どーなってんだこのホログラム、訳がわからない。

 いや、訳がわからないのはこのパンツだ、これを一体どうしろと。


「スキルをおぼえたらひつようになるからつかってみてね」


「使うってなんだよ! 使うって! おい、ちょ、まて! まだ話しが!」


「それじゃ圭お兄ちゃんまたね~バイバイ~」


 圭の訴えも虚しくホログラムのシエルはは消えた。

 あとに残された便箋と封筒はすぐさまボウッという音と共に青い炎に包まれて塵も残さずに消えたのだった。



「で、これ、どーすんだよ、使うって言ってたけど、俺にそんな高度な趣味はないぞ」


 手の中にあったシエルのパンツを両手でつまんで広げてみる、くまさんのイラストがプリントされたバッックプリントの女児用パンツ。


「はあ、もうなんなのコレ、とりあえずスキルとやらを取得してみるしかないのか」



 一抹の不安を感じる圭が「もうやだこの世界」と叫ぶのはそう遠くない未来のことだった。 

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