第5話 モフモフなんてありません


 さてさて、集まってくれちゃった狼さん達。

 どうしてくれようか。


「グルルルルルル」


 少し離れた距離からでも7匹のうなり声はしっかりと聞こえる。


「やっぱりさっきの咆哮は仲間を呼ぶためのものだったねかねぇ」


 囲まれてる状況で圭はそう考える、狼は基本群れで生態する生き物だ。

 1匹が獲物を見つけたらそりゃほかの仲間を呼ぶよね。


「ふう、しかしだよしかし、何匹集まろうと無傷で倒せるってわかったら怖くもなんともないよな。

しかも角折ったら死んじゃうとかどうなのよそれ、あなたマンボウより弱いんですかって話しですよ」


 余裕綽綽でそうつぶやく圭は身構えるわけでもなくただ棒立ちで狼を待ち構える。

 じりじりと距離を詰める狼、目の前で仲間が1匹殺されているだけに若干慎重とも思える足取りだ。


「とりあえず角をポキポキ折ればいいんだよな、めんどくさいからこれ以上仲間を呼ぶなよ狼さん」


 もう緊張するのがバカらしく思えるくらい圭は脱力したまま狼に対峙する。

 ゆっくりと近寄る7匹の狼、ある程度近づいたところで一度動きが止まる。

 ガウ、と1匹が短く吠えたのを合図に7匹が一斉に圭に飛びかかった。


 傍から見ればそれは獰猛な狼が数に物を言わせて一方的に一人を蹂躙する光景だった。


 蹂躙する光景だった。


 蹂躙……だった。


 蹂躙。


 だった。


 だった?


 いや、これなんかチガウよね?


 完全に別の何かだよね!


 圭のもも、ふくらはぎ、胴体、腕、頭、全ての噛み付ける場所に7匹の牙が突き立てられていた。


 だが当の本人、圭は涼しげな顔でノーリアクションのままだった。


「なんだろうこの感覚。あ、そうか、思い出した。

アスト○ン唱えたスペ○テットだ俺!

全身金属ってこんな気分だったんだなウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


 壊れた、異世界に来てから数時間保っていた圭の緊張が壊れた瞬間だった。


「つーかもうムツゴロウさんだよ、動物に囲まれたムツゴロウさん状態だよ!

よーしよしよし、動物はね、ここを撫でるとね、喜ぶんですよ~ってチガウわい!

こんなモフモフいらねーよ!

本気で噛み付いてきてるよこいつら、じゃれてるとかいうレベルじゃねーよ!」


 撫でようとする手を弾かれ噛み付かれ、それでも圭はヨシヨシしようと頑張る。


「やっぱ無理wwwwwww草生えるwwwwww。

てなづけてモフモフとかこいつら絶対無理!

誰だよ異世界でモフモフとか言い出した奴。

俺にはムリゲーだっつーのwwww」


 角で突かれ、牙で噛み付かれ、ありとあらゆる攻撃を全身で受ける。


 そのうち相手が疲れるかとしばらく様子をみてみたものの、攻撃の手は緩められることはなかった。

 一瞬、狼の1匹と目が合ったような気がしたが、複雑な表情で見つめる圭の視線に狼がたじろぐわけでもなく、必死に噛み付くばかりであった。

  

「もう、ゴールしていいよね」


 一通り笑い疲れた圭は、慣れた作業のごとく狼の角の根元を掴み、ポキポキと折り始めた。

 バタバタと倒れていく狼7匹。


 無常、そこにあるのはただの無常だった。


「とりあえずこの7本の角、また光るんだろうか」


 地面に落ちた7本の角を集め両腕に抱えてみる、しばらく見つめていると最初の時と同じように光りだした。


「おお、光った光った、これに何の意味があるのかサッパリだけど、角を折ったら死ぬ、そして光る、これはもう絶対のルールだってわかった」


 ふと気になったのだが、この狼、全部で8匹倒したが経験値的なポイントはちゃんと加算されているのだろうか?

 と思ったのだが、確かめる術が今現在の圭にはないので、とりあえず倒した数だけ覚えておくことにした。


 地面に転がる8匹の死体、無抵抗の状態なら思う存分モフモフできるが。


「ないわー、さすがに死体でモフモフはないわー」


 とりあえず死体は放置するとして、戦利品の角8本は何かに使えるかもしれないから持って歩くことにした。

 でもこれ以上狼が現れたら、持って歩くにはかさばりすぎるから出ないで欲しいと思ながら圭はそのまま森を進んだ。




 このままあとどのくらい森を進むんだろうかと思った矢先。

 狼に対峙した場所から10分くらい歩いたところで急に森がひらけた。

 気がついたら夜の帳もなりを潜め、うっすらと空が明るくなりはじめていた。


「おお、日が昇る前に森を出れた」


 眼前に広がるのはなだらかな傾斜を伴った草原、所々ぽつぽつと背の低い木が邪魔にならない程度に生えている。

 その傾斜を降りた先に民家とおぼしき家が20軒くらいある集落が見えた。


「やっと見つけたぜ、まずは『第一村民発見!』とか叫ぶべきだよな」


 自分の容姿が魔族であることを半分忘れて集落に向かって歩き始める圭だった。

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