13
乾いたノックで、目が醒める。
其れが、宣戦布告だと理解したのは、数秒後で在った。
殺し屋ノックの話を、聞いた事が在る。
標的(ターゲット)に必ずノックをしてから、二十四時間以内に仕事を行う殺し屋がいる。自分の存在を報せる事で、己の存在意義を確かめているのだろうか。其れとも、自分からは決して逃れられないと謂う自信の現れなのだろうか。何(いず)れにしても、自己顕示欲の強い奴の様だ。
スマホのGPSに依る位置情報で、行動が筒抜けに為っている様だ。為らば此処でノックを始末すれば、二十四時間は安全で在る。殺し屋に依頼した場合、他の手を介入させないのが業界内での暗黙のルールだ。下手な真似をして、信用を失くす訳には往かない。
現時刻は六時二十八分。正午までには、始末を附ける。問題は誰が監視役をしているかだ。
「幸四郎さん……?」
不安げな幸江の表情(かお)が、胸を締め付ける。
「大丈夫や。何も、心配は要らん」
優しく抱き締めると、頬に手を当てて笑い掛ける。幸江が微笑を返して、不意に愛しさが込み上げる。
キスをしながら、押し倒していた。本当は直ぐにでも、動かなければ往けない状況で在る。だけど今は、幸江を感じていたかった。首筋に舌を這わせながら、乳房に優しく触れる。軽く痙攣させながら、甘い声を漏らす。既に建物の外観は、頭の中に入っている。職業柄、地形からどの場所に居れば身を隠しながら、相手を監視できるのかを把握する癖が出来ている。自分なら、何処に潜伏するのかを考えれば、相手の居場所を特定できる。
じっくりと、幸江の敏感な場所を責めながら、此の後の事を考えていた。
幸江の淫猥な指が、敏感な部分を撫でている。直ぐに心と身体が幸江を求めて、怒張していく。幸江の舌が下腹部を舐める。既に複数名の監視役が建物全体を、包囲しているのは間違いない。下手に動く訳には往かないが、何もしなければ呑み込まれるだけだ。こちらから仕掛けなければ、道は拓けない。
蛇の様に絡み付く幸江の舌が、異様な快楽を誘(いざな)いながら心を掻き乱している。
少なくとも、三ヶ所から監視役が入っている筈だ。既に一輝は、県外に出ている。ノックが如何なる手段を好むのかは知らないが、幸江を巻き込む事はしない筈だ。
息を荒くしながら、幸江が覆い被さってくる。優しく乱れながら、腰を落とす幸江。法悦の表情に顔を歪めながら、上下する。
まずは監視役から、叩いていかなければ為らない。何人が監視の為に待機しているのかは解らないが、増援が来れば包囲網から逃れる術が断たれてしまう。快楽の渦に呑まれながら、幸江の手を繋ぐ。決して此の手だけは、手放したりしない。何が在ろうとも、護り抜いてみせる。幸江の手を優しく引いて、抱き寄せる。キスをしながら、上下の位置を入れ替える。心と身体が求める儘に、荒々しく身体をくねらせて往く内に、互いに絶頂を迎えて果てていた。
優しく抱き締めながら、幸江の耳元で囁く。
「絶対に護るからな。何も、心配するな」
潤んだ瞳で見詰める幸江が愛しくて、優しくキスをした。
——必ず、守護(まも)り抜いてみせる。
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