10

 三度目のキス。


 濃厚で、艶やかなキス。重なり合った唇は、互いに求め合っていた。何度も何度も、擦れ合いながら、重なり合った。絡み合う舌は蛇の様に、滑(ぬめ)りながら、蠢き合っている。息も附けぬ儘、一向(ひたすら)に求め合う。漏れる雫の声は艶めかしくて、男心を厭らしく擽って往く。怒張する俺の下半身を、雫の膝が撫でる。上下に擦れさせながら、ゆっくりと焦らす様に撫でる。秘めやかな快楽が、更なる欲求を誘う。


 弄(まさぐ)る両手は這う様にゆっくりと、雫の背から下へと降りて往く。腰のラインは細く、程良く附いた肉が柔らかな感触を伝えている。更に下降を続ける左手は、臀部(でんぶ)を弄る。其の感触が、更為る高揚を呼び起こす。太腿の感触を貪る様に、右手を這わした。


「……もっと、私を愛してぇ?」


 囁く雫の声は、普段からは想像も附かぬ程に淫らで、ふしだらで在った。其れが余計に興奮させて往く。熱を帯びた様な雫の表情(かお)が、まるで別人の様だった。意外な雫の一面が、心を激しく揺さぶって往く。愛しさが、溢れ出して止まらない。熱く硬く屹立した其れを、雫の手が撫でている。甘い電流が、脳を駆け巡る。ジーンズのジッパーを開けて直に触れる。柔らかな雫の手の感触が、ゆっくりと上下するだけで、腰が無様に浮いてしまう。


「一輝さんの……凄く、硬く為ってます。ふふ……嬉しい」


 快感に抗う様にして、雫の首筋にキスをする。唇と舌を這わせる。愛しさが、心を満たしている。快楽が、身体を突き抜けて往く。雫の指が亀頭部を擦っている。


「ヌルヌルしてる……。一輝さんの厭らしい匂い…………物凄く、興奮するっ……」


 乳房を舌で転がしながら、雫の敏感な場所を指でなぞる。ぬちゃり……とした湿った感触。漏れ出る雫の声。どうしようもなく掻き立てられる甘く激しい衝動。


「……我慢、出来ないの? 私が……欲しい?」


 自ら雫は互いの陰部を擦れ合わせていた。粘着質な滑りが、快楽と謂う欲求を求めさせる。此れ以上、抑え切れない。雫に蔽(おお)い被さると、脳を快楽が襲う。雫の身体に刻み込まれた毒蝮が、俺の陰部に喰らい附いている様な錯覚に襲われた。甘い電流と成った毒が、心を麻痺させて、身体を虜にさせる。狂った様に雫を求める。雫の淫らな声。


 不修多羅(ふしだら)に乱れる雫が、淫猥に腰をくねらせる。激しいリズム。深く早く、俺を喰らうかの様に求めてくる。堪らなく雫が欲しい。もっと、もっともっと……互いに激しく求め合い、絡まり合う。快楽と、愛しさと、切なさと、怒りと、哀しみとが混在する想いが、熱く強い衝動を駆り立てる。


 雫の名を呼ぶと、思わず果てそうに成った。堪え切れない快楽が、甘やかに艶やかに心と体を染めて往く。堪らなく雫の温もりが愛おしい。抱き締めた儘、雫の名を何度も叫んだ。


 ――愛している。誰よりも、雫を愛している。


 果てる瞬間に雫も又、絶頂を迎えていた。


 小刻みに痙攣するのが、互いの身体を通して伝わる。愛しさが何処までも突き抜けて往く。頽(くずお)れる様にして、横に成った。広げた腕に、雫が転がり込んできた。とても愛おしくて、抱き締めた。見ると腕の中で可愛らしく丸まりながら、此方を見上げていた。鼻腔を擽る髪の薫り。胸に掛かる温かい吐息。向けられた眼差し。其の全てが堪らなく愛おしい。強く抱き締めながら、頭を撫でてやると雫の表情(かお)が又、変貌(かわ)った。


 甘えた猫の様に蕩(とろ)ける表情(かお)が、余りにも可愛すぎる。堪らなく為って、キスをすると雫が口を開いた。


「……一輝さん?」


 恥ずかしそうに、此方を覗き見る雫。先程までの淫猥さが、まるで嘘の様に純情可憐な表情(かお)で照れていた。


「私の事、本当に……愛しとうと?」


 潤んだ瞳。甘えた様な声。雫の表情は千変万化だった。見る度に違う表情(かお)を見せる。俺の心を、狂おしい程に魅せる。


「愛してるで!!」


 即答する俺に、はにかむ様な表情(かお)で更に問い詰めたてきた。


「ホントの本当に、愛しとうとね?」


 九州の訛りで問い詰められて、思わずキュンとした。どうしてこんなにも、雫は可愛らしいのだろうか。雫の全てを、独り占めしたかった。俺だけの姫で居て欲しかった。求めれば求める程に、想いは自分勝手に膨らんで往く。どうしようもなく、雫が好きだ。大好きな気持ちが、止まらない。


「ホンマに本気で、雫を愛してるで。嘘なんかやない。俺は絶対に、雫を裏切らんからな!!」


「裏切ったら、絶対に赦さんき? 口もきかんっちゃからね?」


 腕の中で甘える雫が、堪らなく愛おしい。絶対に、失いたくなかった。何が在っても、雫だけは護ってみせる。


「雫の其の言葉、九州弁?」


 とても、可愛らしかった。


「うん……。変かな?」


 照れた表情(かお)が又、可愛らしい。


「おかしないで。めっちゃ、可愛い!!」


 堪らなく為って、雫を強く抱き締めた。堪え切れなくなって、キスをした。柔らかな唇の感触が、艶やかに心を彩って我慢が出来なかった。堅く怒張していく陰部が、雫の太腿に触れて擦れていた。雫の恍惚とした表情(かお)が又、堪らない。首筋に優しく唇を押し付けた。鼻腔を擽る甘い髪の薫り。そっと触れる雫の手が、毒の様に快楽を誘う。


「他の女なんかと、こんな事したら……絶対に、赦さんき?」


 雫の指が擦れる度に、気が変に為る様な快感が突き抜けて往く。どうしようもなく愛しさが込み上げるのと同時に、雫を滅茶苦茶にしたいと謂う衝動に駆られた。雫の陰部に手を伸ばすと、ぬるりとした感触が、指を撫でた。ゆっくりと中指の腹で撫でる様に上下させると、甘い声を上げて雫は軽く痙攣した。


「他の女なんか、目に入らへん。雫以外、目に入らへんからな。俺以外の男に、絶対に抱かれるなよ。雫は俺だけの女や。絶対に、誰にも渡せへんからな!!」


 何が在ろうとも、絶対に誰にも渡さない。何が在ろうとも、護り抜いてみせる。愛おしさと高揚感に誘(いざな)われる儘に、ゆっくりと雫の中に中指と人差し指を潜り込ませた。漏れ出る声が激しさを増して、痙攣の頻度も大きく為って往く。狂った様に善(よ)がる雫が、更に興奮を掻き立てる。荒れる息を抑えながら、雫に蔽い被さると雫の乳房を舌で転がした。情念を孕んだ吐息が、熱い程に顔に触れていた。雫の腹に擦れる度に、小気味良く快感が撫でていた。伸びる雫の手が、厭らしく触れておかしく為りそうだった。


「一輝さんばっかり、狡い……。私も、一輝さんの事……気持ち良くしたいっちゃからね?」


 起き上がると雫は、押し倒す様に蔽い被さってきた。絡み付く雫の舌が、温かい。快楽と共に、雫の口内に包まれて往く。生暖かく柔らかな感触。ゆっくりと蠢く舌は、蛇の様に陰部に纏わり附いている。絡み付く快楽と謂う毒は、甘く脳を侵して溶かして往く。次第に蕩け出して往く意識が、夢の中に居る様な錯覚を起こさせる。


 甘い微睡みの中で、雫の献身的な愛を堪能していると、雫は唐突に起き上がった。


「今夜は、一輝さん……寝かさんきね?」


 跨りながら笑い掛ける表情(かお)は、まるで聖女の様に優しかった。対照的に火照った心と身体が、雫の心と身体を求めていた。


 もう、我慢が出来なかった。身体に刻まれた刺青の蛇が、今正に喰い千切らんと睨み附けている様だった。ゆっくりと腰を落とし込む雫。今日一番の快楽が脳を破壊的に襲った。愛を孕んだ蝮の毒が、心を優しく艶やかに侵して往った。どうしようもなく心が狂おしい迄に、雫を求め続けていた。抗い様の無い想いが、美しい毒と成って俺の全てを蝕んで往く。


 完全に、雫のペースに呑み込まれていた。行為の最中の雫は、まるで別人の様だった。激しく腰を振る雫の表情(かお)が、恍惚と興奮で蕩けている。甘く耳を掠める雫の声は、まるで悪女の様に心を縛り附けていく。滴り落ちる雫の汗。快楽を堪能する様まで美しくて、天女が悶えているのかと錯覚してしまう程だった。


 まるで消えて終いそうな灯火の様に、虚ろな存在で在る様に、儚く煌めく様に、陽炎の中のオアシスの様に、愛と不安と快楽の中を、雫と共に感じ合っていた。此れから先に待ち受ける地獄は、恐らく俺の想像を超える事だろう。けれども今は只、一抹の快楽を感じて居たかった。雫と共に果てながら、突き抜けて往く快楽で恐怖を掻き消したかった。


 力無く胸の上で、息を吐く雫を只、抱き締めて居たかった。ほんの僅かな時間でも、雫と共に過ごしたかった。


 ――譬え一握りの幸せでも、雫と一緒に感じたかった。

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