第24話 戻っても戻らなくても

莉央、俺は、君に莉央菜の記憶が戻っても、戻らなくても。俺の気持ちは変わらない。今までと、何も変わらないんだ。莉央が好きだよ。


ーーーー恭ちゃんは、具合が悪そうな私を心配しながら、優しくそう言った。


もう俺は、逃げないって決めたんだ。

自分の気持ちに嘘はつかない。遠慮なんて、しないから。


莉央、もし君が、知りたいと思うのなら。

俺が知っている記憶を、話してもいい。


話して欲しいと思ったのなら、いつでも、言って。正直に、全てを話すよ。



あの日からずっと悩んでいた。

私はすべてを、知るべきなのだろうか。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「わぁ!大成功じゃない!?」

オーブンを覗き込んで、まこちゃんが興奮して言った。


明日はバレンタイン。恭ちゃんと吉永君にあげるために、2人でガトーショコラを焼いていたのだ。


「吉永にあげるの、もったいないなー。こんなに時間かけて作っても、あいつ、食べるの一瞬なんだもん!」

まったくもう、と言いながら、まこちゃんは嬉しそうだった。


「ふふっ、まこちゃん達、うまくいってるんだねぇ」

私が冷やかすと、

「まっ、、まぁね!私と付き合えてるんだから、吉永は世界一幸せ者でしょ。」

何か、まこちゃんと吉永君は、最近言うことが似てきたなと思っていると、

「莉央たちも、一時はどうなるかなと思ったけど、今は仲良しだね。良かった良かった。」

まこちゃんが満足そうに言った。


「うん」

私は、恥ずかしそうに頷くと、

「私、決めたんだ」

不思議そうに、何を?と聞くまこちゃんに、ヒミツ、と笑って答えた。


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「うお!ガトーショコラ!!」

恭ちゃんが、嬉しそうに言った。


「・・・恭ちゃん、今年もいっぱいもらったねぇ」

「!! 莉央が妬いてる!」

そうか、そうか、と満足そうに私の頭をくしゃくしゃ!とすると、

「食べないよ。莉央のしか食べない。」

と笑って、言った。

「でも、、それどうする、」

「お兄ちゃん!」

バタバタと、階段を降りてくる音がして、なんと由貴君が喜んで、全て持って上がって行った。


「これで、よし!」

直接持ってこられたのは断ったんだけど、ロッカーとかカバンに入れてあったのは、どうしたらいいか分からなくてさ、と恭ちゃんが言い、

「お腹すいた」

と、私にもたれかかってきた。

「恭ちゃんっ」

「莉央んち行きたいな。だめ?」

最初から、私もそのつもりだった。今日はゆっくり話がしたかったのだ。


レンジで少し温めると、中心から溶けたチョコが、自分で言うのもアレだが絶品だった。吉永君も喜んでいるに違いない。

「恭ちゃんて、本当、甘党だよねー。太らないのが不思議。」

ふふっ、と笑って言うと、

「いやーー、うまかった!このために今日は剣道頑張ってきたからな!」

からっぽのお皿にご馳走さまをして、恭ちゃんが言った。

片付けてくるね、と立ち上がろうとすると、腕をつかまれ、恭ちゃんの胸の中に抱き締められる格好になった。

「ありがとう。美味しかったよ。」

顔を上げると、長いキスが待っていた。

「、、、甘い。」

私が赤くなって言うと、恭ちゃんは笑った。


「あのね。」

「うん?」

視線が合った。恭ちゃんは、私が何を言いたいか、分かっているようだった。


「決めたんだね。話すよ、全てを。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


恭ちゃんは、ゆっくり、あの時代の事を話してくれた。


異形の存在。


私は、身分の高い武家の一人娘で、高峯家は代々影となり、神崎家を守る役目の存在だったこと。

私とは歳が近く、兄弟のように育ったこと。


いつしかーーーーーー


いつしか、私の事を、愛している自分がいることに、気づいたこと。身分違いの想いに、絶対に気づかれないよう、墓場までその気持ちは持って行くつもりだったこと。


そして私は、、、14歳になった莉央菜は、藩主の加賀家に求婚された。


しかし、莉央菜は拒んだ。


「えっ、、、?」

私が驚いて聞くと、

「最初は、そうだったんだ。」

恭ちゃんが、言った。


恭一郎は神崎家に呼び出され、莉央菜を妻に迎えないかと、莉央菜もまた恭一郎を想っているのだと告げられたと。


「恭ちゃん、、、私達、想い合ってたんだね。じゃぁ、どうして、、」

「時代の流れが、変わったんだ。」

悲痛な表情を浮かべて、恭ちゃんが続けた。


異形の力が増し、自分を犠牲にした恭一郎の父親が、その力の前に倒れた。正しくは、恭一郎が手にかけた。


「・・・!そんな、、!」


このままでは、俺は勝てないと悟った。


自らも異形になる道を選び、莉央菜との結婚を白紙にし良い人を勧めて欲しいこと、自分は死んだと伝えて欲しいことを、莉央菜の父親に頼んだ。


「恭ちゃんっ、、、」

「境内で会ったのが、あの時代、君が俺を見た最後だ。」

「だから、あの時、、」

朝日を浴びた、人間の姿ではない恭一郎を思い出した。


「そうそう、あの時の莉央菜は、積極的だったよな」

恭ちゃんは微笑み、


その頃、すでに私と加賀家との縁談が決まっていたと言った。


その後、異形を倒すことに成功したが、すでに人間の形でなくなった恭一郎は、命を絶とうと思った。でも、最期に、したいことがあった。


莉央菜を、一目見たかったーーー。


「恭ちゃん、、、」

恭ちゃんは、私の涙を優しく、その手で拭い、


もう、視界がはっきりしない目で、遠くに私を見たこと、加賀家と結納がされていたこと、莉央菜が笑っているように見えて、安心して命を絶ったんだ、といった。


これが、俺の記憶の全てだと。


私は、嗚咽が止まらなかった。


恭ちゃんは、、恭一郎は、全てを背負って、この世界を守ったのだ。

最期に、私に会いに来てくれた。

私は、どうして気づかなかったんだろう。


彼は、一人で命を絶った。


何もしてあげられなかった、、愛しい人に、何も。


「莉央。」

優しく恭ちゃんが微笑む。


「俺は、莉央を幸せにするから。過去は関係ない。今、莉央といるのは、高峯恭一であって、恭一郎ではないから。」


「恭ちゃん、、、、」


恭ちゃんの胸に顔をうずめて言った。


「恭ちゃんのこと、愛してる。」

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