第22話 今を
家に帰ると、もう遅い時間なのに、玄関に莉央がいた。
真っ直ぐに、俺を見る。
今まで泣いていたのか、目の下が少し赤い。
「莉央、、、」
「恭ちゃん、会いたかった。」
優しく微笑んで、莉央がはっきりとそう言った。莉央は、何かを覚悟しているようだった。
外は肌寒く、風邪をひくといけないからと言って、自分の部屋に莉央をあげた。こうして、2人で会うのはかなり久しぶりだった。
「今日ね」
嫌な予感がした。
「加賀さんに、付き合って欲しいって言われた。」
莉央に背を向け、俺は聞いていた。聞きたくなかった。
「・・そうなんだ。」
ドゴッッーーー!!!!
「ぶっ!」
俺はベッドに、クッションで後ろから殴られて、倒れ込んでいた。
「なんなのっ、、、、!!!!」
怒りと、涙とで、顔をくしゃくしゃにした莉央が叫んだ。
「なんでよ!どうして私を避けるの?何も言ってくれないの!?恭ちゃんは、もう、、私のこと好きじゃないの!?」
「莉央、、」
あまりの剣幕に、圧倒されていると、
「私は、、恭ちゃんが好きなのに!それじゃぁ、いけないの?それだけじゃ、、だめなの?そんなに、莉央菜の頃の記憶が大切なの?」
ポロポロと涙を流し、しゃっくり上げて泣いている。
「違う、俺は莉央が好きだから、、」
「だったら!!」
莉央は一言一言、絞り出すように言った。
「私をつかまえていてよ!過去は、、過去は関係ないじゃない。私達が生きているのは、今、なんだよ。私は今の恭ちゃんに恋をしたの。」
耐えきれなくなって、その場にうずくまって、莉央が泣いている。
彼女が、泣いてる。
ーーー神崎は、おまえをまってるぞ!
吉永の声がまた、聞こえた気がした。
俺は、、莉央の背に手を回し、抱きしめた。
久しぶりに彼女に触れた。
胸が苦しい。
こんなにも、彼女が愛おしい。
本当は、、、会いたくてたまらなかった。
本当は、誰にも彼女を渡したくなんてないんだ。
「莉央、不安にさせて、ごめん。」
莉央が顔をあげた。
「ごめん。よく分かった。俺には、、、莉央が必要なんだ。ずっと、側にいて。莉央がいないなんて、耐えられないんだよ。」
莉央はやっと笑うと、俺に抱きついてきた。
「えっと、、2人とも、温かい紅茶で良かったかしら?」
!!!!
ドアを、閉めるのを忘れていた。
母親が、笑顔でそこに立っていた。
「ごめんなさいっ、、本当にっ、!私っ、おじゃましました!」
莉央は真っ赤になって、自分のバックをつかむと、あっ、莉央ちゃん、という母親の声を背に受けて、一目散に隣の自分の家に走って帰って行った。
俺は腰が抜けたように、その場に座り込みながら、
「いつからいたの、、?」
何を言ったらいいか分からず、聞かなくていいことを聞いた。
母親は、にっこり笑うと、
「私をつかまえていて、あたりかしら。」
バカ正直に答えたのだ。
その夜は、母親に見られた恥ずかしさと、莉央からの言葉の嬉しさで、部活で疲れているはずなのに、何だかなかなか眠れなかった。
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