第18話 もうひとつの巡り会い

お祭りから帰った後、恭ちゃんは何か考え込む事が多くなった。


いつも通りと言えばいつも通りだが、ふとした瞬間、上の空のときがある。


どうしたのか聞いても、大丈夫、と言って微笑むだけ。その時は決まって、私の事を優しく抱き寄せた。


暑い夏が過ぎ、秋が過ぎ、私達は受験の季節を迎えていた。今日は久しぶりに、うちに集まって、4人で勉強会をしていた。


「吉永が、医者?」

怪訝そうな顔で、恭ちゃんが言った。


「恭一、おまえ失礼だから。」

ぷんぷんと、吉永君が大げさに怒った素振りで言う。

「俺、頑張ってるからな!そしたら思ったより上を目指せそうで、、昔から憧れだったし、目指してみようかなぁと思ってさ。」


まこちゃんは聞こえないふりして、隣で黙々と問題を解いている。


「お医者さんなら、恭ちゃんと一緒だね。」

私が、へぇーという顔をして言うと、恭ちゃんが微妙そうな顔で、

「莉央、、、一緒にしないで。」

「おっ、おまえは年上に失礼だぞう!」

「ーーーちょっと、あんた達、勉強しなさいよ!!」

まこちゃんの一喝で、再び私達は問題集とにらめっこすることにした。



「恭一君は、どうしてお医者さんになりたいの?ご両親がそうだから?」

休憩のクッキーを、綺麗な指でつまみ上げ食べながら、まこちゃんが恭ちゃんに聞いた。

吉永君も口にクッキーをほおばり、おれもおれも、と、ジェスチャーをしている。


「うん、それもある。」

恭ちゃんは、言った。

「一番は、救うということを、したかったからかなーー。」


少し目線を遠くにやりながら、言った。


「ふぅーーん。若いのに、悟ってるねぇ。」

まこちゃんが感心していた。


吉永君が、おれもおれもとアピールし、はいはいとまこちゃんにあしらわれていた。


恭ちゃんは、殺める事をしたくないんだろうと思う。今度の人生で、命を救うことをしたいんだと、そう思った。


「まぁ、俺が先に医学部入るから、先輩ってことだよな。」

吉永君が、もう合格すること前提で、恭ちゃんに先輩宣言をした。

「いや、吉永、浪人するかもだろ。そしたら、俺が先輩になるから。」

「やめろ、、!不吉な!てか、何浪させる気だ?」

冗談じゃないと耳を塞ぐ吉永君に、私もまこちゃんも笑った。


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから二ヶ月後、私とまこちゃんは信大に合格した。私は薬学部、まこちゃんは法学部。

吉永君は、、、、補欠で何とか医学部に滑り込み、晴れて三人とも無事、合格したのである。



「莉央、篠田さん、おめでとう!!

吉永、、、留年するなよ!俺、おまえと同級生は嫌だからな。」

合格祝いのクレープ屋で、恭ちゃんが笑って言う。

「まっ、、た、おまえ!やめろ縁起でもないっ」

吉永君が、苦痛の表情を浮かべる。



楽しかった。


この楽しい日々が、大学入学を境に一変するなんて、思ってもいなかった。




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大学は少し、自宅から遠かった。


(朝の電車は、混むなぁ)


ぎゅうぎゅうの満員電車に慣れていない中、私は目的の駅だというのに乗り過ごしそうになっていることに、ドアが閉まりそうになってから気づいた。


「あっ、、!降ります・・!すみませんっ」


周りの人が少し迷惑そうにしているのが分かる。でも、ここで降りないと遅刻だ。


「ちょっと、あけてもらえますか。僕も降ります!」


後ろから声がして、その男の人が人混みを避けてくれたおかげで、私は無事電車から降りることができた。


プシューー。


電車のドアが閉まる。

ギリギリセーフで、電車から降りることが出来た。


「あの、ありがとうございました!」

私が慌ててお礼を言うと、

「いや、全然。僕も君がいて、降りやすかったし。」

切れ長の瞳が印象的な、真面目で優しそうな人だった。こうやって、自分を電車から下ろしてくれたのだ、見た目どおりいい人なのだろう。年も、自分と同じくらいに見えた。


「君、、信大生?」

「えっ、?」

「あっ、、いや。」

その男の人は、ちょっと考えてから、

「実は、俺、薬学部なんだけど。昨日、講義で君を見たような気がしてさ。」

ははっと、その人は笑い、

「俺、加賀 誠也。よろしくね。

、、、君、一年生かな?名前、聞いてもいい?」


一瞬、何かが私の頭の中をよぎった。


(加賀?)


聞いたことがある気がした。

そして、、この加賀と名乗る人物も、どこかで会ったことはなかったか?

面影が懐かしい気がした。


(!!!)

頭が痛い。また、あの時、夢を見続けた時のように、目の前が暗くなる。


(恭ちゃん、、!)

抵抗も虚しく、私はその場に倒れ込んだ。

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