第17話 輪廻〈起〉
私たちは、高校三年生になっていた。
原田先輩は、希望通り信大に合格し、
「吉永君に飽きたら、いつでも言ってね。」
とまこちゃんに伝えて卒業していった。信大で会えるのを待ってると。
これを聞いて、それはもう、吉永君が奮起した。
三年生も、ギリギリ一組に残った吉永君であったが、猛勉強の末、信大受験も夢じゃないところまで成績を上げてきていた。
まこちゃんと一緒の大学に行きたいのだろう。
吉永君は、まこちゃんに気持ちを伝えたあとすぐ、夏樹さんに、気持ちに答えられないことを伝えていた。
「分かりました」
ひまわりみたいな夏樹さんは、少し涙目で、でも笑顔で言った。
「悲しいけど、、でも、これで私もやっと、前に進める気がします。」
今日は夏祭り。
私達は受験勉強の息抜きと、中学生になった恭ちゃんが太鼓を叩くのを見るために、まこちゃん、吉永君と3人でお祭りに来ていた。
半被を来た恭ちゃんが私を見つけると、遠くからでも分かるくらい、嬉しそうに大きく手を振った。
ーーー似てる。
半被姿の恭ちゃんは、あの日の恭一郎によく似ていた。
恭ちゃんの父親はかなり背が高く、遺伝だろう。恭ちゃんも、同じ学年の男子より頭一つ分身長が高かった。
そして、ファンも多かった。
剣道も強く、容姿もいい、背も高いと、モテ要素を兼ね備えた恭ちゃんが、祭に出る姿を見ようと、恭ちゃん達が乗る神輿を取り巻いている女子は多そうだった。
(本当は、、、甘いものに目がなくて、いたずらで、見た目よりずっと、可愛いところがあるんだけどね)
私は、私しか知らない恭ちゃんがいるんだぞ、と取り巻きの女子に向かって心の中で呟いた。
と、その時、不意に誰かの視線を感じた。
視線の方を振り向いたが、そこには、
お祭りの賑やかな風景があるだけだった。
(?)
ドドン!ドン!
神輿の中央に、今年おはやし担当の中高生が陣取り、演奏が始まった。恭ちゃんはその体格から、中央の大きな和太鼓を担当していた。袖を捲り上げた両腕は、剣道で鍛え上げていて逞しい。
賑やかな笛太鼓に、今年もこの季節が来たんだなと思った。
同じ神社でも、命を懸けて戦うのではなく、こうして平和に太鼓を叩く恭ちゃんに、私の胸はいっぱいになった。
「恭一君、かっこいいねぇ」
まこちゃんが、ニヤリと私に言った。
ねぇ、俺は?俺はかっこいい?
と、イカ焼きを食べながらモゴモゴ言っている吉永君は、とりあえず無視された。
「ちゃーんと、莉央が彼女だって、取り巻き達に見せつけておいた方がいいよ。」
びしっと、人差し指を私の顔の前に立てて、浴衣姿の綺麗なまこちゃんは言った。
「そっ、まだ、付き合ってないもん。」
「・・・恭一君と、これだけほぼ毎日一緒に過ごしてて、なにを言うか。ほら、行っておいで!」
おはやしが終わり、神輿から降りる恭ちゃんの方へ、まこちゃんがどんっ、と私のことを押しやった。
吉永君は、やはりモゴモゴしながら、不満そうな表情を浮かべている。
「高峯くん、太鼓良かったよー!」
「おいおい、良かったのは高峯だけかー?」
どっと笑いが起こる。クラスの女子達だろうか、恭ちゃんを含めたおはやし隊に仲良さそうに話しかけている。
私は、私の知らない恭ちゃんを目の前にして、少し、複雑な気持ちで話しかけられずにいた。
恭ちゃんはキョロキョロしていたが、私を見つけると、
「じゃぁな!」
と友人達へ言い、私の方へ真っすぐ歩いてきた。
「えーー!高峯くん、もしかして彼女!?」
女子達がきゃぁきゃぁ言っている。
中には、悲鳴に近いものも混じっている気がした。
「そ!」
白い歯を見せ、笑顔で言うと、私の手を取って祭の喧騒の中へと連れていった。
「莉央、待たせたね」
「ううん、太鼓すごい良かったよ!練習頑張ってたもんね!かっこよかったよ。」
えへへ、と恭ちゃんが照れて笑った。
「それに、、恭ちゃん、人気だね」
「え?」
「あんなに女子に囲まれちゃうと、妬けちゃうなぁ。」
「えっ、、、莉央、妬いてる?」
私は、うーーーんと悩む仕草をし、
「・・・妬いちゃった」
「まじ!?」
恭ちゃんは、赤くなって言った。
「やばい。嬉しすぎる。」
恭ちゃんと視線が絡んで、お互い笑みがこぼれる。
と、その時だった。
また、視線を感じた。
恭ちゃんが、一点を見つめてーーー身体を硬直させるのが分かった。
この祭の喧騒の中、私達の周りだけが、その賑やかさから取り残されているようだった。
気配を感じた。
私が振り返ろうとすると、
「莉央!!!」
恭ちゃんが慌てて私の腕をひき、
「あっちに行こう!」
気配と反対側の方向へと、私を引っ張て行った。
「恭ちゃん、、、?」
恭ちゃんの表情は硬かった。
殆どしゃべらず、私達はその後すぐ神社を後にして家へと帰った。
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太鼓を叩いている時から、感じていた。
自分を見つめる視線。
昔を思い出させる視線。
自分が気づいていなかっただけで、前から近くにいたのだろうか。
(こんな事が、、、あるなんて、、、)
信じたくない、信じられない気持ちでいっぱいだった。
でも、莉央に出会ったときから、もしかしたらと考えていたことでもあった。
いつか、その日が来るかもしれない。
祭りの賑やかさと、楽しそうな人々の声とは正反対に、俺は、不安と焦りで押しつぶされそうだった。
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