第16話 人生は一度きり
あれから原田先輩は、まこちゃんとよく会うようになった。
先輩は宣言した通り、ちゃんと勉強を見てくれており、同じ志望校を目指す勉強仲間という感じでお勧めの参考書を貸してくれたり、一緒に図書館で勉強をしたりしていた。
原田先輩のまこちゃんを見る眼差しは、いつも優しかった。
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「まこちゃん。」
「んっ?」
私はいつだったか、屋上でまこちゃんに聞いた。
「吉永君の事は、いいの?」
まこちゃんは一瞬、目を見開き、少し遠くを見ながら、
「莉央には隠せないね。」
と笑い、
「どうしたらいいか、分からないの。」
困ったように言った。
「吉永は、私のこと、男友達だと思ってるでしょ。扱いも雑だし。」
「えっ、そうかなぁ」
「そうよ。」
だって、とまこちゃんが言う。
「彼女に対しては、、傷つけない配慮をしてるじゃない。今度はちゃんと、自分の気持ちがどうなのか、見極めようとしてる。でも、私には、傷物だの嫁にもらえだの、、本当、デリカシー無さすぎ。」
寂しそうにグランドに目をやり、
「彼女の方が、お似合い。明るくて、真っ直ぐで。私みたいに、素直じゃないのは、人気者の吉永には似合わないよ。」
視線の先には、短距離の練習で、さっそうとグランドを駆け抜ける夏樹さんがいた。
いつも、自信満々のまこちゃん。
でも本当は、自信がない自分を、取り繕っていたのかもしれない。
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「うわっ、!!びっくりした!!」
靴箱で上靴を履き替えていると、思い詰めた表情の吉永君が背後に立っていた。
「吉永君、どうしたの?」
「・・・・・・」
彼はただひたすら、無言だった。
帰り道途中の公園のベンチで、缶ジュースを飲みながら、吉永君の隣に座る。
「なぁ」
吉永君が、重たい口をやっと開いた。
「まこ、、、のやつ、あの先輩と付き合ってんのか。」
あの先輩とは、原田先輩のことだろう。
「まだ、付き合ってはないみたいよ。」
「そ、そうなのかっ。」
「でも、、時間の問題かもね、、」
「・・・・!!」
吉永君の表情が変わった。
はぁ、、とため息をつき、
「俺、、俺さ、、
気が付くと、あいつの事ばかり考えてて、、
最近は、避けられてて全然話せないし、
クレープ屋も誘ってくれないし、、
どうしたらいいんだろう?」
こんな話の合間に、クレープを挟んでくるあたりが彼らしい。
吉永君、、それは、とわたしが口を開こうとしたとき、悪寒がした。
背後に恭ちゃんが立っていた。
「俺の莉央借りたんだから、おごれよな」
恭ちゃんは、とても小学生が言わないようなセリフをさらりと言った。
渋々、クレープ屋でおごらされてる吉永君。今日は、半額セールではない。
「神崎、おまえの彼氏こえーなぁ」
「分かったなら、今後、誤解招くようなことするなよ。」
「まだっ、私達付き合ってないからっ、、」
私達が若干、バラバラな会話を繰り広げていると、3つ同時にクレープが運ばれてきた。
「あの日、、俺、そんなにひどいこと言ったかな。」
ぽつりと、吉永君が言った。
「まこちゃんは、、」
「吉永は、彼女が好きなのか?」
恭ちゃんはもはや、吉永君を呼び捨てだっ たが、その事に違和感がないくらい、恭ちゃんは堂々としていた。
「なっ、、、俺が?!」
吉永君は赤くなり、
「お、おれ、、、。」
黙って、考え込んだ。
「人生は一度きりだぞ。好きな人に会えたなら、ちゃんと正直にならないと、後悔するぞ。」
当たり前の言葉だけど、恭ちゃんの言うそれは実感がこもり、重みがあった。
吉永君は腕を組み考えているようだった。
グサッ、、と、恭ちゃんが吉永君のクレープにフォークを刺した。
「・・!!おれの!」
「あっ、食欲ないかと思って。食べてやるよ。」
ちょっと意地悪そうに笑う、恭ちゃん。
案外、この2人は気が合うのかもしれないなと私は思った。
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「・・!!ごめんなさいっ!」
ドンっと、まこちゃんが原田先輩を突き放して言った。
「ごめん、、。突然。」
赤くなった原田先輩が、申し訳なさそうに言った。
帰り道、転びそうになったまこちゃんを支え、原田先輩が抱きかかえるような姿勢になったとき、2人の顔が近くなった。
少し間があった後、先輩がまこちゃんにーーーーキスをした。
「ごめん!!篠田が可愛くて、つい、、本当ごめん!」
ひたすら原田先輩はまこちゃんに謝った。
そんな先輩に、少し落ち着いたまこちゃんが、
「、、大丈夫です。ごめんなさい、今日はこれで。」
ぺこりとお辞儀すると、くるりと後ろを向き、先輩を残して走って帰って行った。
「あっ、篠田・・・」
先輩の声が遠くに聞こえる。
(ファースト、キスだったのに)
走って帰るまこちゃんの目に、涙が浮かんだ。
ドンっ!!!
「うおわっ!」
「きゃっ!」
何かにぶつかって、まこちゃんとぶつかった人は道路に転んだ。
「いたた、、おい、大丈夫か?」
それは、私たちにクレープをおごらされた吉永君だった。
「まこ、、?」
「・・・!!!」
一番見られたくなかった人物に、泣き顔を見られ、慌ててまこちゃんは立ち去ろうとした。
「待てよ!!」
吉永君はしっかりとまこちゃんの腕を掴んで離さない。
「離してよ!」
「絶対いやだ!!」
「なっ、、!!」
吉永君は、まこちゃんを正面からしっかりと見て言った。
「・・原田先輩と、一緒だったのか?何があった?」
まこちゃんは答えない。
「君に聞く権利あるの?」
息を切らせて追いかけてきた先輩がそこにいた。
吉永君は、先輩を睨みつけ、
「泣いてるじゃないですか。何があったんですか。」
「君に言う必要ないだろ。これは、俺と彼女の問題だ。」
まこちゃんは、口元を抑えて、吉永君から顔を背け、震えながら泣いている。
いつもは鈍感な吉永君が、この時は、気づいてしまった。
カッとなり、原田先輩の胸ぐらをつかみ、殴った。
原田先輩はよろけたが、首を振って、息を整え、
「おまえのせいで、彼女がどれだけ悩んでいたか、知ってるのか!!」
と言うが早いか、先輩も吉永君を殴り返した。
「や、やめて!!」
まこちゃんが叫ぶが2人には聞こえていない。
「お前が気持ちをはっきりさせないなら、彼女は俺がもらう!」
「なに!?ふざけんな!」
そこにいつものおちゃらけた吉永君はいなかった。
「俺が一番まこの事知ってる!いつも一番側にいたんだ!勝手に俺の場所を取るな!!」
まこちゃんが、はっと息を飲んだ。
「俺はまこが好きだ!!」
・・・ふうっ、と原田先輩が息を吐き、
「なら、俺みたいのに彼女取られないように、ちゃんとつかまえておけよ!!」
吉永君を一喝したあと、掴んでいた手を離し、
「篠田さん、ごめんね。」
寂しそうに笑って、その場を離れていった。
「まこ・・・」
まこちゃんは、泣いていた。でもその涙は、先ほどのものとは違い、吉永君の言葉に、流れている涙だった。
「吉永、、」
へへっ、と吉永君は笑い、
「今度は、負けなかっただろ。俺はちゃんと、自分の実力が分かってるからな。」
えへん!と胸を張り、その胸の中にまこちゃんを抱き締めた。
「私、、」
顔を赤らめて、どうしたらいいのか恥ずかしそうにしているまこちゃんに、
「・・・消毒」
吉永君はそっとキスをした。
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