第15話 ライバル

クレープ屋の一件以来、まこちゃんと吉永君は距離を置いていた。

正しくは、まこちゃんの方が吉永君を避けていたのである。吉永君が何か話しかけようとすると、すっと何処かへ行ってしまうのだ。


また、よく夏樹さんが教室に顔を出した。


付き合ってる訳ではなさそうだったが、彼女が吉永君の事を好きなことは、誰の目にも明らかだった。


そんな事が1ヶ月くらい続いたある日、

「篠田まこちゃん、いる?」

三年生の男子がまこちゃんを呼び出した。生徒会長の原田 優先輩だった。


「えっと、、私に何かご用ですか?」

まこちゃんは生徒会長が一体何の用事だと、少し驚いた微笑みを浮かべながら聞いた。


「ちょっとね、君と話したいと前から思ってたんだ。良かったら、時間もらえるかな?」

先輩は少し照れてそう言い、まこちゃんを教室から連れ出した。




ーーーガシャン!!


「あっ、先輩っ! 大丈夫ですか!?」


吉永君が早弁用の弁当箱を豪快に落とした。

夏樹さんが甲斐甲斐しく、散らばったおかずを拾っている。


いつもなら、ここで笑いをとる一言でも言う吉永君だったが、今日は静かに、

「・・・ありがとう」

と、夏樹さんに言ってるのが聞こえた。



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「つ、付き合ってません!!」


原田先輩に連れ出されたまこちゃんは、吉永君と付き合ってるのかーーー正しくは付き合っていたのか、と聞かれ、そう答えた。


「そうなんだ?あんまりいつも一緒だから、付き合ってるのかなって思ってたんだ。」


「私、、今、誰ともお付き合いする気は無いんです。」

いつもの一言をまこちゃんは言った。


どうして?先輩は優しい笑顔で聞いた。


「・・・希望の大学に受かって、夢があるから。だから、恋とかそういうのに割く時間は無いんです。」

まこちゃんはその美しい顔で、はっきりと言った。


「そっか。うん、そういうことね。」

じゃぁさ、と先輩は言った。

「俺、志望大は信大なんだよね。たぶん、君が目指してるところと一緒かなって。勉強、一緒にしない?一応、成績は良い方だし。」


信大は、トップクラスなら誰もが狙う大学だった。もちろん、まこちゃんの第一志望もそこだ。


「えっ、でも、先輩受験生ですよね?そんな、勉強の邪魔ですよ。」

ふふっと、まこちゃんは笑った。先輩の言葉を冗談と受け取ったらしい。


原田先輩は、真面目な顔になって、

「俺、君に一目惚れだったんだ。」

真っ直ぐまこちゃんを見て言った。


「え、、」


「俺も、勉強が大事。でも、君のことも。だから、友達から始めて欲しいんだ。君と一緒の時間が欲しい。受験が終わったら、もう一度告白するよ。」


真っ直ぐな先輩の言葉に、真っ赤になったまこちゃんは、考えておきます、と小さな声で言った。


まこちゃんは、モテるが誰とも付き合ったことは無く、そういった意味では男の人に免疫が全くなかった。



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まこちゃんが帰ってきた。

耳が赤かった。

何となく、教室を出て行った2人の間に、何があったのか想像できる気がした。


いつもなら、ここで吉永君がからかうところだが、今回はちらりともまこちゃんの事を見なかった。


吉永君の背中が、いつもと違う気がした。



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「やっと、小学校卒業かぁ!」

恭ちゃんがカレンダーを見て、嬉しそうに言った。


「あと何ヶ月かだね、今度は制服だね。」

はしゃいでる恭ちゃんを見て、思わず微笑みながら言った。


「えっと、、、中学生になったら、俺、莉央の彼氏、でいいのかな?」

後半は、言ってて自分で照れているようだった。


私は、ちょっと困った微笑みを浮かべながら、

「・・まだかな」

「えっっ!!」

「まだ早いかな。」

「えええっ!!!」

恭ちゃんが絶望の表情で言った。


「ひどいや、前は恭一郎様、恭一郎様って、俺の初キスまで奪ったくせに。」

「・・・!!!」

私は、頬を紅くして、何か言い返そうとしたが、言葉が出てこなかった。

あの境内でのシーンが蘇る。


そんな私を見て、恭ちゃんは勝ち誇ったように笑い、


「莉央が好きだよ。」

まっすぐな眼差しで、優しく言った。


「もう、、恭ちゃんてば」

幸せだった。



(俺は、卑怯者かもしれない)


私は、気づかなかった。


(心の底で、彼女が、思い出さないことを願ってる)


恭ちゃんはいつも優しく笑っていたけど、本当は計り知れない不安と迷いが、いつも彼の心にあったということを。

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