第13話 吉永君とまこ

「ねっ! 私のおかげでしょう。」


私に感謝しなさいと、言わんばかりのまこちゃん。


夏休み明け、それでその後どうなったと、吉永君とまこちゃんに詰め寄られていた。


恭ちゃんは、私の事を好きと言ってくれた。昔も私の気持ちに応えたかったけれど、時代と立場がそれを許さなかったと、ずっと大切に思ってるとーーー。



  ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「でも、今、俺かなり年下だから、、好きって言っても、莉央も困るかなって思って。」


恭ちゃんが少しうつむいて、恥ずかしそうに、悔しそうに言った。


「そうねぇ、、去年、出会ったときに言われたら、お姉さん的な好きなんだろうなぁって、思ったかも。」


私は、ふふっと笑い、

少し考えてから、


「まぁ、お付き合いするのは、恭ちゃんがもう少し成長してから、かなぁ。」


「・・・!!」


「・・・だって、、さすがに、、。」


私だって、恭ちゃんの事は大好きだ。

でもさすがに、小学生と付き合うのは・・・大問題だろう。お互いの親もどう思うか。


「り、莉央は無自覚なんだよ!」


恭ちゃんが、少し怒って言った。


「今日だって、一人は莉央狙いだっただろ!」

「え?」

私がきょとん、としていると、

「クラスメイト?だったっけ?俺のことまじまじと見てきたぜ。悔しそうにしてた。」

そうなの?私は、全然気づかなかった。

「そ、そう?恭ちゃんの勘違いじゃ、、」


恭ちゃんは、少し怒った瞳のまま私に向き直り、

「誰にも莉央を渡すつもりないから!いつも側にいる!早く大人になるからな!」

宣言して、また私を抱き締めた。

嬉しいけどかなり恥ずかしいセリフを叫んでいることに、今余裕のない恭ちゃんは気づいていないようだった。

「恭ちゃんっ、、」

「なに?」

恭ちゃんは一層腕に力を入れて、私を逃がさまいとしているようだった。


「私、、待ってるね。」


恭ちゃんの腕の力が、少し緩んだ。


「うん。少しだけ、待ってて。」


恭ちゃんは、今度は優しく、私を抱き締めた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、吉永君、、大丈夫?」

私は、あばらにヒビが入り、鼻の骨を折り、額を五針縫ったという吉永君に話しかけた。


まだ鼻とあばらは完全にくっついてないらしく、額には抜糸後の跡が生々しく残っていた。


「おうよ!ヒーローは不死身だぜ。」

負傷の度合いとは反比例に、明るく吉永君は言った。


「全く、、自分の力をちゃんと見極めなさいよ。」

まこちゃんがいつも通り冷たく言ったが(まこちゃんを助けたのに吉永君が哀れだ)、

でもその瞳は、夏休み前に吉永君を見ていた瞳とは、少し様子が違った。


「吉永ーーー!お客さーん!」


クラスの男子が吉永君を呼んだ。


「いませーーん!」


どっと、クラスに笑いが起こる。

いつもマイペースな吉永君は、クラスのムードメーカーでもあった。


吉永君は、ぶっちゃけかっこいい、と思う。それはまこちゃんも認めてて、ただあまりに性格が二枚目すぎるので、『宝の持ち腐れ』と、よくまこちゃんに言われていた。


でも、そんな親しみやすい性格だから、話しやすいし、皆に好かれていた。


吉永君が居留守を使おうとしたが、そのお客さんは教室のドアからひょっこり顔を覗かせた。


可愛いらしい。


それが、彼女の第一印象だった。


「吉永せんぱい!」

女の子の顔がぱっと明るくなった。

まこちゃんを薔薇と例えるなら、その子は向日葵のようだった。


「夏樹?」

吉永君の目がまぁるくなった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


吉永君は、中学時代陸上部で、そのキャラクターと実力で、部長を努めていた。得意だったのは短距離走。


夏樹 純という彼女は、同じ短距離走が得意な、部活の後輩だったそうだ。


ただ、吉永君は中学最後の総体で、アキレス腱を痛めてしまい、ドクターストップがかかり、高校では陸上部には入らなかった。


教室の外で、夏樹さんと吉永君が話している。


傷、どうたんですか?と、心配してるような仕草が見えた。


「ーーーなに?あれ。吉永のくせに。」


「まこちゃん?」


まこちゃんは、廊下の2人が見えないように、顎に手をついて、窓の外へ視線を移していた。




終了のチャイムが鳴る。


「クレープ、食べに行こっか。今日半額だし。」

まこちゃんが私と、吉永君を誘った。

私は、いいねぇ!と答えたが、

「ごめん。俺、ちょっと陸上部に顔出す約束があって、、また今度にするわ!」


今度絶対誘って!お土産よろしく!と訳のわらないことを言って、吉永君は先に教室を出て行った。


「まこちゃん?」


私が呼ぶと、まこちゃんはハッと我に返り、吉永は別に誘ってないし!と、自分に言い聞かせるように言った。


クレープ屋で、まこちゃんはいつもと同じように振る舞っていたけれど、何だか上の空だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る