第12話 祭りのフィナーレ(後編)

ドンドン!


花火はフィナーレを迎えようとしていた。


大輪の花が、夜空に絶え間なく、美しく咲く。境内の木々の間から、綺麗に見えた。


恭ちゃんと、莉央。

恭一郎と、莉央菜。


2人を照らし出す。


先に口を開いたのは、恭ちゃんの方だった。


「思い出したんだね。」


優しくそう言うと、恭ちゃんは私をそっと抱き寄せた。


「忘れてて、、ごめんね。」


泣くまい、と思っていたが、唐突に涙が溢れ出す。


話したいことはいっぱいあったはずなのに、肝心の言葉が何も出てこない。


ただ、恭ちゃんの胸の中にこうしているだけで、私は幸せだった。


恭ちゃんも、何も言わなかった。


「私を、見つけてくれてありがとう。」


私を抱きしめるその手の力が、強くなった。


「辛いこと、たくさんあったと思うから、思い出させたくなくて、、」

「うん」

「、、、、全部、思い出した?」

「私が思い出したのは、この境内のことだけ、、他は、あまりよく思い出せてないの。」


恭ちゃんは、一瞬、言葉を止め、私の顔をまじまじと見た。

そしてなぜか、ほっとした顔をしたのだ。


「?」


恭ちゃんの表情の意味が分からず首を傾げると、


「俺は、意気地なし、じゃないからね。」


そう言って、くすりと笑った恭ちゃんに、


えっ、と顔を上げた私は視界を塞がれた。



今度は恭ちゃんから、キスされた。



そして、お祭りのフィナーレは終わり、辺りは静かになり、恭ちゃんの言葉がはっきりと聞こえた。


「莉央、大好きだ。」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちょっ、、、あんた、なにしてんのよ!」


お祭りが終わり、人々が散り散りになりつつある神社に、まこちゃんの声がこだまする。


なんと、ボロボロになった吉永君がそこにいた。


へへへ、と笑うと、


「そんな言い方、すんなよな。ヒーローに。」

「・・・ばかっ!勝てないなら、喧嘩なんてしないでよ・・!」


言い方はきついが、まこちゃんの目には涙が浮かんでいた。




『なんだ、すげぇ、美人!!』


唐突に話しかけられた。こういうの、慣れてるけど、今日声をかけてきたその主たちは、たちが悪そうだった。


(めんどくさいなぁ)


微妙な笑顔を浮かべ、その場を立ち去ろうとしたその時、まこちゃんは声をかけてきた一人におしりを触られた。


『・・・!!やめてください!!』


これにはまこちゃんも血相を変えて、叫んだ。


(全く、吉永は何してんのよ!美人をほっておくからこんなことになんのよ!)


その頃、吉永君は、まこちゃんに命令されて(頼まれて)、りんご飴を買いにいっていたのである。(まこちゃん、あんまりだ・・・)


周りに人はいたが、あまりにそのグループのたちの悪さに、誰も、何も出来ないでいた。


警察呼んだ方がよくない?

そんな、ヒソヒソ声も聞こえる。


そんな深刻な状況を、全く意にかえさず、明るく吉永君が戻ってきた。


「まこちゃん、小さいのしか無かったよー!、、て、あれ?知り合い?」


んなわけないでしょ!と怒りの目で、吉永君をまこちゃんは睨んだ。


「ああ?お前はあっちいってろよ」


グループの一人が軽く、吉永君をこずいた。

りんご飴がぽとりと地面に落ちる。


「おまえの女、いいケツしてんなー」


「は?」

これには吉永君も事態を把握したらしく、まこちゃんの方を見た。

まこちゃんは、、いつも強気なあのまこちゃんが、今にも泣きそうな顔をしていた。


「ぐっ、、!」


突然、吉永君が、まこちゃんの腕を掴んでいた一人を殴った。なかなかいいストレートパンチで、殴られたその男は地面に転がって悶絶した。


「てめえ!!!」


きゃーーっと、声がして、警察、警察!と周りの人達が焦りだした。


警察が到着するや、まこちゃんに絡んでいた男たちは、捕まるまいと散って逃げて行った。


ストレートパンチ以降は、人数に負けてボロボロにやられた吉永君がそこにいた。


「病院、行くよ!」


まこちゃんが吉永君の腕を掴んで立ち上がる。


「いっててて!ちょっと、もう少し優しく、、」


文句を言おうとした吉永君が、言葉を止めた。まこちゃんの綺麗な目から、ポロポロと、涙がこぼれ落ちて止まらなかったからだ。


「なっ、、どうした!おまえが泣くなんて・・・っ!食いすぎで腹でも痛いのか!」


「・・・・」


全くデリカシーの無い吉永君に、こいつに配慮は無用!と、まこちゃんは遠慮なく吉永君を強引にひっぱり、病院へ連れて行った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


蒸し暑い季節が、もうすぐ終わろうとしている。


私は、記憶が戻り、これで解決したと思っていた。

でも、恭ちゃんにとっては違っていた。

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