第11話 祭りのフィナーレ(前編)

盛大な花火とともに、お祭りのフィナーレの、笛と太鼓が鳴り響く。


去年は吉永君も、吹いていたんだろうなぁと考えた。毎年恒例の笛太鼓は、地元の中高生が交代で担当していた。吉永君は、去年吹いたので今年は担当から外れ、だからレインボーかき氷の列に並んでいたんだろう。


恭ちゃんに再び右手を繋がれ、境内に続く階段を登る。さっきまでぐいぐいと引っ張られていたのとは違い、彼は大切なものを包み込むように、私の右手を握っていた。


思い出すーーー。


彼の身を案じ、一心に祈り、あの夜、裸足でこの階段を往来したことを。

ひんやりとした石段の感覚。


そして、出会ってしまった異形。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


今度の恭一郎の任務は、最後の戦いになると聞いていた。長く続いた『悪しきもの』達との。


始まりは、人間ではなかったと聞いたことがある。動物達が凶暴化しだしたのだ。


しかし、時代が移るにつれ、異形も変わっていった。


人が、異形となったのである。


そこからは混沌とした時代が続いた。


恭一郎、高峯家はその昔、特殊な能力を持った家系であり、上から直々に異形討伐を命じられていた、この混沌とした時代の希望の光のひとつだった。


だが、長く異形と戦い続けているうちに、何と自ら異形達に組みする人間達があらわれたのである。


異形は、短命だ。


体躯を変化させ、超人的な力を発揮する代わりに、自らの細胞を消耗させ数年と満たない年月で死滅していった。

だから、人類は圧倒的な力を持つ彼らに支配されることなく、その生活を保つことが出来たのである。


しかし、異形に組する人間達の中に、医術に長けた者がいた。その者はあらゆるものを使い、異形の命を長らえさせることに成功しつつあった。


これには高峯家はじめ、討伐に当たっていた者達が、厳しい状況になったと焦り始めた。

異形が脅威となる前に、皆が協力し、一斉に滅する計画を立てたのである。


初め、異形の巣窟を探すため、討伐隊に恭一郎と父親が参戦した。


でも、戻ってきたのは、恭一郎だけだった。


彼からは、感情が消えていた。


何も見ていなないその目で、彼は言った。


「父上を殺した」



ーーーー父親は、恭一郎を守ろうとしたらしい。

異形達の巣窟にたどり着いたものの、死闘の末、恭一郎はじめ数人となってしまった討伐隊は、絶体絶命だったそうだ。


ただ、異形の産まれる過程は、この時明らかにする事ができた。彼らはある"薬物"を組み合わせて体内に取り込んでいたのである。

今でいう、ドーピングとか、ドラッグとかのもっともっと信じられないくらい、強い作用のものだろう。


その薬物の元は、巣窟の至る所に生えていた。


恭一郎達はそれを焼き払い、異形達と戦ったのである。


だがしかし、数体、寿命を延ばすことに成功していた異形達に苦戦した。彼らは自我を保ち、圧倒的な強さだった。


もう駄目かと、誰もが諦めかけたとき、

恭一郎の父親が、

「俺でいる間に、おまえが討て。」


恭一郎に笑いかけ、そういうと、自ら薬物を取り込み、異形と化し、戦ったのだ。

元々、恭一郎の父親も剣が強かった。それが異形と化したのだ。その身体能力はその場にいる何よりも勝っていた。

かなわないと悟った数体の異形は、攻撃をなんとかかいくぐり、命からがら逃げていった。


恭一郎の父親は追いかけようとしたが、自我が保てなくなってきていた。膝をつき、うずくまった。細胞が死滅していくのを、感じた。同時に、自我が失われていくのも。


恭一郎に向かい、絞り出すような声で、

『恭一郎』


もうそれは、父親の声ではなかった。

恭一郎は震える手で、剣を握った。


父親が薄れる意識の中で、頼む、と言ったような気がした。

そして、別のものに生まれ変わる音がした。


『ーーーーーーーガァァァア!!!!』


「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!!」




燃え盛り、崩れゆく巣窟の中で、恭一郎は身動きが出来なかった。

父親に戻った死体。

身体の震えが止まらない。

仲間に引きずられるようにして、巣窟の外になんとか脱出した。


そっと、焼け残ったあの"薬草"を、懐にしのばせてーーーー。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「恭一郎」


私は、しっかりと恭ちゃんの顔を見て、はっきりと言った。


恭ちゃんは優しく微笑み、


「・・・莉央菜」


その名を、久しぶりに呼んだ。

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