第8話 2回目の夏祭り 前夜

「何で?」


それは、こっちが聞きたい。


なぜ、私は壁ドンされているのか。



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私達は学年が上がり、恭ちゃんの身長も伸び、それはとても小学校六年生とは思えない程に大人っぽくなっていた。


あまりにランドセルが似合わないのと、肩幅に合わなくなったこともあり、恭ちゃんは大きなリュックに部活の道具も入れて、登校していた。(今小学生は、ランドセルは強制ではないのだ。)


2人で歩いていれば、兄弟と言われることは無くなり、彼氏彼女と間違われるようにもなった。


そういうとき決まって、私は恥ずかしさで赤くなるのだが、恭ちゃんはにっこり笑うだけで、否定も肯定もしなかったのである。


それが、私を何とも言えない気持ちにさせた。


恭ちゃんに対する恋心に気づいてしまってからは、どう距離を取ったらいいのか悩んでいた。加えて、どんどん大人っぽくなる彼に、ドキドキする事も増え、かなり挙動不審だったと思う。


恭ちゃんは時々、面白そうに、どうしたの?と、顔を覗き込み、わざと距離を詰めたり、理由をつけて手をつないだりしてくるようになり、私の反応を楽しんでいるようだった。


これは、、気づかれてる。


そう思うのだが、それ以上は何の進展もなく、気持ちを伝えることも、夢の話をすることもなく、季節は夏を迎えようとしていた。




「なんで付き合わないのー?」


まこちゃんが眉間にシワを寄せて真剣に聞いてきた。

私は声が大きいと、しーっとまこちゃんの口に手を当てながら、

「あのね、、、恭ちゃん、まだ小学生だよ?」

と、当たり前の事を口にした。


まこちゃんはケラケラと笑い、

「だいじょーぶよ!今の小学生はチューくらいしてるって!!」

と、無責任な事をまたも大きな声で言い切ったのである。


周りから、何だ何だと視線が痛い。


吉永君が遠い席で、幸せそうに早弁をしている姿が目に入る。彼の関心事は弁当一色であり、今のこの状況を助けてはくれなそうだった。


私は顔から火がでそうだった。

まこちゃんを引っ張り、屋上に連れ出した。



「お似合いだと思うけど。」


教室の時とは違って、にっこりと優しく微笑んで、女神のようなまこちゃんが言った。彼女は、かなりの美人である。しかし、彼氏は作らない。希望の大学に現役で受かって、裁判官になるのが夢だそうだ。そのためには、男と付き合う時間が惜しいのだと、そう言っている。


裁判官を目指してる者が、あんな事言っていいものかと思うが。


「もう、、、真剣に考えてよ。小学生となんて、、考えられないでしょ。」

「でも、好きなんでしょう?弟としてじゃなくて。」

さらりと、言う。

「恭一君は、莉央が思ってるよりずっと大人じゃないかな。莉央がねむり姫だったときも、片時も離れなかったんでしょう。」


不意に、眠りから覚めたとき、きつく抱きしめられた事を思い出し、また私は赤くなった。

そんな私を見てまこちゃんはくすりと笑い、私があまり見たくない、何かを企んでる顔になったのである。


「分かった。莉央は付き合う、付き合わないというより、恭一君の気持ちが知りたいんだ。」

「・・・」

図星だった。


「まっかせない!!」

それはもう、自信満々にまこちゃんは言い放ち、ちょっと待ってという私をガン無視し、教室に戻った後、数人の男子と、今年の夏祭りを一緒にいく約束を取りつけてしまったのである。


男子は、いつも手のだせない高嶺の花のまこちゃんの提案に、嬉々として喜んだ。


遠くで吉永君が、弁当箱に向かってごちそうさまをしている姿が見えた。



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「あの、、、近い?」


質問の答えになってない答えを繰り出しながら、私の声は少し上擦っていた。


なぜなら、恭ちゃんが今までみたいにふざけてこんな事をしているのではなく、怒っているようだったからである。


「毎年一緒にいくって、指切りしただろ?」


怒りを含んでいるからか、いつもより語尾がきつい。加えて、身長も、力も私を超えた彼に、あの低い声でそんな事を言われ、私は、泣きそうになった。


そんな私を見て、恭ちゃんはちょっと表情を崩したが、解放してくれる様子は無く、許してはくれなそうだった。


「まこちゃんが、約束しちゃったの。私が行かないと、女の子独りになっちゃうし、、きょ、恭ちゃんも一緒にいく?!」

最後のあがきだった。断るだろうと思っていた。


恭ちゃんは何か言いたそうだったけど、少し間をおき、

「分かった。俺も一緒にいくから。」

そういうと、壁についた腕を下げ、私を解放したのだった。

「俺も、祭りの最後までいるから。莉央に話があるんだ。先に帰れなんて言ったら、莉央も連れて帰るからな。」


話ーー?


私が何かいうより先に、今日は帰るといって、不機嫌な恭ちゃんは家に帰って行った。


不機嫌だったけど、いつものように、私の頭にぽんと手を置いてから帰る事は忘れなかった。

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