第4話 夢という記憶
なぜだろう。
あの人が微笑んでいられたのは、
どうしてなんだろう。
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「りぃーーおーーー!!!!」
「か、母さんっ、ちょっとご近所にうるさ・・」
下の階から、ものすごい怒り混じりの母親の声と、なだめる父親の声が聞こえて、私は飛び起きた。
まずい。遅刻する。
いつもはちゃんとに起きられるのに。何だか今日は寝た気がしない。頭が重い。どうしちゃったのかな、私、、。
ええい!考えるのは後にしないと、本当に遅刻する!
私は気を取り直して、着がえようと鏡の前に立ち、そこで初めて、自分の頬が濡れている事に気づいた。
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「眠れない?」
まこちゃんが、私の目の下のくまを指差して言った。
「なんかねぇ、、」
私は、ため息を付き
「なんか、夢見てるみたいなんだけど、それが全然覚えてなくて。今朝なんて、私、泣いてたみたい。」
「へぇーー。」
ふと、グランドに目をやる。季節は巡り、肌寒い時期に差し掛かろうとしていた。色付く木の葉、散っていく木の葉、、窓越しでも、外の冷え冷えとした空気を感じられる気がした。寒そうに陸上部が、ウォーミングアップを始めていた。
「んー、疲れてるのかな?期末も近いし。莉央、頑張り屋さんだからさ、あんま無理しちゃだめだよ。」
分かってる。期末が近いのは。
でも、私の夢の原因は、別のところにあることに、薄々気づき始めていた。
「助け合おうぜ!」
ふいに吉永君が声をかけてきた。
「期末で来年のクラスが決まる!ってことで、勉強会だ!」
やけに張り切る吉永君の気持ちも、分からなくもない。うちの学校のクラスは、学力順だ。一組が一番優秀なのだが、来年二年生は一年間の成績順に上位からクラスを分けていく。ちなみに、今私達がいるのが一組だが、吉永君はかなり危ういラインにいた。
「吉永は、自分を助けてほしいんでしょ。」
まこちゃんが、ズバッと言うと、うっ、と吉永君はわざとらしく苦い顔になった。
「まぁ、たまにはいっか。莉央、どう?」
「そうだね、いいかもだね。」
何だか重たい頭のままじゃ、勉強がはかどる気がしなかったので、勉強会に参加することにした。
「きっまりー!そしたら、今度の土曜、莉央のうちに集合!」
「えっ!うち!?」
突然の申し出に、びっくりして言うと、
「だって、莉央のうちが学校から一番近いじゃん!部屋もきれいそうだし、そうそう、剣道の彼氏も見たいしねー♪」
「かっ、彼氏じゃない!お隣さん!」
ちょっと顔を紅くして私が言い返すと、吉永君は少し微妙な顔をして、
「あの子、そんなに頻繁に神崎んちに来るんだ?」と言った。
恭ちゃんちの家庭の事情もあってと話すと、
「ふーん?でもさ、もうそろそろ六年生だろ。なんか、なぁ?」
と曖昧な言い方をした。
でも、実際、そうなのだ。あと数ヶ月で恭ちゃんは六年生なのだが、剣道できたえているせいか、身長もすごく伸び、なんと私とあまり変わらないところまで成長していた。ランドセルを背負ってることが、違和感を感じる。
それと、剣道の試合でも目立ち、元々顔立ちもいいので、最近かなりモテ始めたようなのだ。
かわいい弟に彼女ができるときの気持ちは、こんな感じなのかしらと思いつつ、しかし当の恭ちゃんは全く女子には興味がないようで、変わらず私にべったりだった。
でも、時々、ドキリとしてしまう。
今までは、高いところのものを取るときや、可愛い頭を撫でるのは私の方だったのに、最近は逆になりつつある。
5つも下なんだから、と思いつつも、何とも落ち着かない気持ちになるのだ。
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で、どうしてこうなったのか。
今日は土曜日、私、まこちゃん、吉永君、そして、なぜか恭ちゃんの4人で、私の部屋で勉強している。
私の隣に吉永君が座りたがったが(まこちゃんはスパルタなので)、恭ちゃんが頑として譲らず、渋々怒られながらまこ先生の指導を、吉永君は受けていた。
「えっ、、と!休憩にしようか!私おやつとってくる!」
何だかちょっと空気を変えたくて、私が立ち上がると、
「おれも手伝う!」
と、恭ちゃんも一緒に立ち上がった。
元々私はそんなに背が高くないが、恭ちゃんの身長が、私よりほんの少し高くなっていることにその時気づいた。
部屋を後にするとき、涙目で、置いていかないでと訴える吉永君が視界に入った・・・。
お菓子を用意しながら、
「恭ちゃん、、」
「なに?」
「あっ、いや、、私たちの中に、恭ちゃんだけで、、気まずいかなって、大丈夫?」
「全然!」
違うのだ。私達の方が、気まずいのだが。
恭ちゃんはニコニコしながらお菓子をお盆にのせている。
「おれ、今度試合があるからさ、なかなかりおと一緒にいられなくなるし、、」
最後の方は、ちょっともごもごしながら恭ちゃんが言った。
そうだった。一年に一度の大会が、再来月なのだ。そう、今度は、私達の住む県で全国大会が行われる。
「そうだったよね!えと、恭ちゃん、、」
ん?というように振り向いた恭ちゃんと視線が合った。
じっとその目を見つめながら、
「試合、見に行ってもいいかな?」
今まで、なんとなく避けていたその言葉、いや、本当はずっと恭ちゃんから見に来てほしいと誘われるのを待っていたその言葉を、私は口にした。
しばらく、間があったと思う。
ふっと恭ちゃんが笑い、
「そうだね、今年は近くだしね。ただ、、」
ただ?
続く言葉を私は待っていた。
「りお、、無理してない?顔色がちょっと悪いかなって。忙しくない?」
『無理してる』の意味が、恭ちゃんが言いたい本当の意味とは、少し違うような気がした。
それと同時に、私はどうしても恭ちゃんの姿を見なければいけないような気もしていた。
「私、見たいな。剣道してる恭ちゃん。」
ぽつりと言った。
うん、と恭ちゃんは言うと、何かを吹っ切ったように、
「わかった。
絶対勝つから!りお、応援よろしく!」
いつもの恭ちゃんに戻って、明るく微笑んで言った。そして、私の頭にぽんっと竹刀でタコのできたその手を置いたのだ。
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