第8話 寝ている間の
子墨の邸宅に住まわされて以来、逢春は夜が来る度に子墨のいる東廂房を訪れては、戸の向こうに寝息を聞いて引き返した。
しかし朝になると逢春が寝ている寝台のそばに子墨が跪いて顔を突っ伏し、片手を逢春の手に添えていたので、逢春は「寝ている女に何かするのが好きな奴なのかも」と子墨に対し気味の悪さを覚えた。
ある時、子墨が長官に呼ばれ、数名の部下と共に3日ほど家を空けることになった。
逢春は斜向かいに住む張家の細君と共に留守番をすることになった。細君は逢春より20〜30は歳上であろう快活な女性で、子墨の邸宅には度々出入りしているらしく生活道具の場所や服の直し場所を「今後あなた1人でも不便しないようにね」と言いながら逢春に教え、得意料理だという肉野菜炒めを作った。逢春は細君と話す毎に母親を思い出し「タルチネにならなければ、お母さんとこういうやり取りができたのかもしれない」と考えた。
その日の夜更け、逢春が不意に目を覚ますと、細君が寝台のそばに跪いて逢春の手を握っていた。驚く逢春に、細君は心配そうに「ごめんね」と声をかける。
「子墨に言われたのよ。夜中になるとあなたがうなされるから、落ち着くまで見といてって」
逢春は言葉を失った。
子墨が毎朝、逢春の寝台に突っ伏して手を握っていたのは、うなされている逢春に寄り添っていたからだった。
置物と呼ぶ割に優しくしてくるのは、いったいどういうことか。逢春は尚のこと子墨を不気味に思ったが、一方で心の底から何か温かいものが湧き上がるような感覚を覚えた。
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