第7話 子墨との朝
朝、目を覚ました逢春は、寝台のそばに子墨が跪き突っ伏しているのを目にした。子墨の片手は逢春の手に添えられており、逢春が自分の手を退けると子墨が顔を上げ「おはよう」とだけ言って西廂房を出てしまった。
間もなく北側の正房にて朝餉の粥と油条、大根の漬物が用意され、逢春と子墨は小さな机に向かい合って座り粥を啜った。
食事中、子墨が「粥は俺が作った」だの「油条は斜向かいに住む張家の嫁から貰った」だの「南東に住む潘の婆さんは大根を漬けるのが上手い」だの、つい2〜3日前に殺戮を犯した人間がするとは思えない牧歌的な話を繰り出すので、逢春は化け物を見るような面持ちで子墨を見つめた。
食事が終わる頃、逢春は「自分は何をしに連れてこられたのか」と尋ねた。身売りされるのかと思えばそうでもなく、タルチネとしてさせられてきたことと同じことをするでもなく、かといって子墨に抱かれるでもなく、ただこの邸宅に住まわされているだけなのが逆に気持ち悪いと。
対して子墨は何食わぬ顔で「置物じゃ」と答えた。
「長官殿が『村さえ破壊すれば良い、目ぼしいものがあれば好きに持っていけ』と言うでな、じゃあ俺は世にも珍しい"母胎"の肩書を持つ女を生きたまま連れ帰ろうと思った。奇習の村に縛られた娘を救い出したと言い換えれば俺の美談にもなるしな。まぁ何かしたかったらこの器でも洗ってくれ」
言いながら子墨は自分の使った器を重ね、流し台の上の、水を張った桶へと突っ込んだ。
私は人に利用される星の下にでも生まれたらしい。タルチネよりマシかと逢春は自分に言い聞かせ、器を洗い始めた。
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