リアル桃太郎

 僕の夢はどこ。生まれた時からずっと生きる意味がわからなかった。だから、だから。


 おばあさんにもらった吉備団子は実際の質量以上に重く感じる。初めて握った日本刀はすぐに身体に馴染んだ。長い長い海までの一本道を歩く。

 音が聞こえる。「ヒュー、ヒュ」

何の音だろう。僕の左脇を見てみると犬が倒れている。赤く染まった内臓が野草の上に不自然にある。犬は黒く染まる。死に際でうまく声を発せずにいる。「ヒュー、ヒュ」

その"音"だけがこの静寂の中を不自然に流れる。

吉備団子を急いで犬の口に入れた。喉元辺りからすぐに少し湿って出てきた。犬の"音"はもう聞こえなかった。潰された犬の内臓は僕を睨んでいるような気がした。誰がこんなことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る