第4話 前線へ急行せよ
二町ほど先で、生木が焚火の中で
「いいか、ハン。林を抜けたら道の両側に展開し、敵と交戦するまで素早く前進するのだ。抜かるなよ」
大公軍の大砲の砲声が雲一つない青空を震わせた。
ゲベルは鞍に尻を降ろした。馬廻たちが、操り人形のように彼の命令に飛びついた。
「ハカとレグスに伝えよ。ありったけの兵を連れて、
ゲベルは苛立たしく叫んだ。二人はハンの両翼を進んでいる第一、第四突撃中隊長だ。それからナインに向かい、
「マレイの砲を急いで前進させよ」
「は」
ナインは馬首を返すと、森の中を北へ向かって走っていった。ゲベルはその背を見送っていたが、はっと思いついて隣に控えるコボルトの馬廻の袖を掴んだ。
「モスカが猟兵中隊を率いてもうすぐ来る。西側面の森を迂回して敵後方を突き、敵の輜重を粉砕する。重騎兵中隊を呼んで参れ」
ゲベルは馬廻衆を率いて、樫や蔓や茨が密生する森の中を進んで、ハンの率いる部隊の背後に出た。廃村に至る長い斜面を味方の兵たちが登っていくのを見て、ゲベルは大いに満足した。
兵たちは槍穂を揃え、または発砲し、弾を填めて前進し、後退する大公軍の前衛をどこまでも追撃した。ゲベルは馬を降り、大股に歩きながら彼らのすぐ後ろを前進した。通り過ぎる弾丸の音など、意にも介さなかった。ゲベルのすぐ隣を進んでいた馬廻の一人が弾に当たり、彼はがくんと首を振って倒れた。広々した空き地の端につくと、ゲベルの目に大公軍の騎兵隊が見えた。彼らは下馬し、向こう側の深い繁みの中で戦列を組んでいた。十字路から北に五町足らずの地点だった。ゲベルは敵の砲声を聞いた。そして、こちらに向いている大砲が間違いなく四門であることを知った。いずれも声が軽い。恐らく騎兵用の
「この柵を全て倒すようにハンに伝えよ」
青い
「あちこちで攻めておるように見せかけねばならん」
ゲベルは三つの地点から攻撃した。これは、彼の兵力が敵より著しく劣っていることを隠すためだった。戦線は深い繁みに覆われていたため、大公軍の
ハドラスと彼の幕僚たちは手書きの地図から顔を上げた。使番は片膝ついて青ざめた顔を伏せ、緊張でぶるぶる震えていた。
「どの地点だ」
ハドラスは怒鳴った。
「これで示せ」
顔の前に地図を突き出したが、若い使番はただ振り返り、遠くの尾根を指さした。
「交差点でござる。向こうの、あの丘の上の」
ハドラスは、太陽に照らされて蒸気を上げている沼地を眺めた。沈着なマグラに率いられた歩兵連隊とともに、十日分の食糧と弾薬を積んだ三百輌の荷馬車、様々な口径の二十四門の大砲、清潔な包帯や薬を備えた二十輌の負傷者運搬用の馬車からなる見事な縦列が、明るい緑色の布地に投げ出された茶色の帯のように泥だらけの間道を進んでくる。素晴らしい光景で素晴らしい一日だ。兵は緒戦の勝利で
「前線に行って、直接確かめてくる」
彼は使番に告げた。
「兵を疲れさせず、出来るだけ早く進軍するよう、マグラに伝えよ」
ハドラスは馬腹に踵を当て、砲車や兵の長い列の中を駆けた。この筋肉質な歴戦の野戦指揮官は、落ち着いた表情を浮かべて、愛想よく兵たちに手を振った。ハドラスは四十二歳の誕生日を明日に控えていた。カーデスは彼の誕生祝に敵将の頭の皮を送ると約束していた。そのカーデスが優勢な敵と遭遇し、苦戦している。味方は有利な地点を占めているが、これを確保するために直ちに増援を投入するよう言ってきている。
ふいに叫び声や罵声がして、ハドラスは思考を中断された。馬車や大砲が路上に停まっていた。彼は立ち往生した馬車を迂回して前へ進むと、兵たちが彼の姿を認めて秩序を回復させた。混乱の原因はすぐ見つかった。
土手の淵まで増水した川に架かった狭い木橋だ。新しく補修されていたが、幅が狭く、馬車がやっと通れる幅しかなかった。敵は橋を落とす心得も余裕もなかったと見える。ハドラスは小さくほくそ笑んだ。
「橋の上を片付けよ。歩兵を先に渡すべし」
ハドラスはそう命令すると、馬に乗ったまま川を渡り、丘に登る道を全速力で疾走した。驚いたことに、十字路では騎兵が馬を降り、混乱状態で戦っていた。樹木が茂った地形はあまりにも植生が深く、騎乗突撃をかけられなかった。暴風が乱暴にばら撒いたように、樹木の間に急造の丸太や柵の胸壁が散らばっていた。大公軍の騎馬武者たちはこの遮蔽物の後ろに伏せて、絶え間ない敵の銃声に対し、統制も何もなく、てんでばらばらに短めの筒の騎馬鉄砲を応射していた。ハドラスは険しい顔をして辺りを見回し、各部隊の指揮官を探した。
騎兵大隊長のアミールが最初に報告に来た。
「将軍、すぐ援軍を得られなければ、後退する他にございません」
彼は叫んだ。兜も失い、顔を真っ赤にして、この若者はすぐに苦戦している部隊に取って返した。
もう一人の大隊長であるアレックはもっと悲観的だった。気難しい顔で、
「将軍、援軍と交替させていただきたい」
やっとカーデスが現れた。先手大将がいつものように自信たっぷりな様子なので、ハドラスは少し安心した。しかし、三十半ばの騎兵連隊長の報告は、その外見とはまるで違っていた。
「敵は大軍でござる」
カーデスは、砲声や銃声に負けないように大声で叫んだ。
「敵は二重の戦列を敷き、その後方に
カーデスは、知らずにゲベルの牽制攻撃について触れた。
「しかし、援軍がなければ長くは保ちますまい。マグラの歩兵連隊をただちに投入せねば、我らはここで全滅でござるぞ」
ハドラスは三日月前立の烏帽子兜の庇を上げ、紺碧の空に燃え上がる太陽を見つめた。大気は重く、そよとも風は吹かなかった。彼は使番を呼び、
「マグラへ我が下知を伝えい。指揮下の三個歩兵大隊全てを戦線に投入せよ」
使番は一礼すると全速で丘を下り、川へ向かって馬を飛ばしていった。ハドラスは気がかりな様子で、樹木の後ろの味方の胸壁を見つめた。まるで桟橋の杭に引っ掛かった流木のようだった。彼はまた別の伝令を呼んだ。今度はもっと緊迫した顔で、
「こう伝えい。寸刻を失することなく、前線へ急行せよ」
それから手で日差しを遮りながら、もう一度太陽を見上げた。その視線は、幸運の女神でも呼び出そうとするように一点に集中していた。
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