カルデル・ボアの物語

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 全てが始まる前、彼女はただの少女だった。


 けれど、鉱石病という未知の病が世界を覆い尽くしたため、新たな世界を統べる創世の神として、彼女はイブとならざるを得なかった。


 カルデルは、人類が死滅した世界で、使命を得た。


 そんな彼女に声をかけた生き物がいた。


 それは蛇。


 毒を持ったその蛇は、人類存続の方法を提案した。


 研究者でもないカルデルは、その提案に乗っかるしかなかった。


 その後、イブとなった彼女は、多くの子供達をつくった。


 やがて、人気のなかった世界には、わずかばかりの活気が満ちた。


 けれど彼女はほどなくして、自らの過ちを知る。


 作られた子供には未来がなかったからだ。


 一年。二年。


 自我が芽生えたのかも確かめようがないくらいの時期に、天へ召されていった。


 カルデルは後悔した。


 こんな事になるなら、自分一人で死んだほうがましだったと。


 



 苦悩するカルデルだが、死ぬ勇気はなかった。


 彼女は、新たな人間を作り出す事なく、ただ孤独な時間を過ごしていた。


 そんな中、来訪者がやってきた。


 それは、人類が存続していたら、偉大なる最初の一歩となるはずだった出会い。


 宇宙に過ごす知的生命体とのコンタクトだった。


 その人物の名前はコスモス。


 知識を管理する者。


 膨大な書庫を持つ少女だった。


 彼女に手を差し出されたカルデルは、その手をとった。






 それからカルデルは、コスモスの庇護の元、多くの知識を吸収した。


 世界の理を知ったカルデルは、自分の知識を新たな世界に役立てる事に決めた。


 コスモスの故郷では、人が水晶になる病、水晶病があった。


 その病に苦しむ人々を何とかしたいと思ったからだ。


 しかし、治療は難航する。


 人々は次々に水晶へなり果てていった。


 カルデルは、自分の力の至らなさに絶望した。


 だから彼女は思った。


 理を守ろうとするから、限界が来る。


 常識と正義に反していたとしても、かつての自分のやり方なら故郷を救う事もできただろう。


 そう結論づけたカルデルは再び蛇の甘言にのり、禁じられた方法に手を染めた。


 水晶と人の融合。


 人の体に水晶を取り込むことで、病を克服させたのだった。


 しかしそれを代償に、人々の寿命は大幅に短くなってしまった。


 やがて、種の存続をかけて大きな争いが起こった。


 戦の火は、カルデルの身にもせまり、彼女を焼き焦がした。


 



 カルデルは、箱庭をつくり無事だった物を、そこへ移した。

 燃え続ける大地に背を向けて、その火がおさまるのを待ち続けたのだ。


 やがて、争いの火は消えた。


 カルデルは己の子供達に天使と名付けて、荒れ果てた世界を再生させる。


 光の天使、闇の天使、心の天使…。


 それぞれの区域を分担させて。


 しかし、黄金の天使が歪なせかいを作り上げてしまったため、その区画だけ切り離した。


 カルデルは疲れ果てていた。


 そして、人々が苦難に飲み込まれない世界など、存在しないのだと悟った。


 やがて神と呼ばれるようになっていたカルデルは、心を閉ざしてしまう。


 世界は永遠に完成しない。

 それが神カルデルの出した答えだった。


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カルデル・ボアの物語 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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