第23話 新入生ガルボの恋 3

 入学当初10人だった僕たち『武術専攻第3班』は、トラヴィス、サウマン、アルマ、バルジェロ、ルメートルス、そして僕ガルボの6人になっていた。


 ここは魔大陸最高の教育機関。


 無事に卒業できる者も一握り。


 沢山の仲間たちが去っていくのを僕たちは見送ってきた。


 勉学についていけずにリタイアする者、体を故障して退学する者、精神を病んで消えていく者、そんな同級生たちがその後何をしているのかは知らない。




 残った6人の中で特に仲良くなったのが、剣術が得意なアルマ、切れ者のサウマンの二人だった。


 僕たちは馬が合った。


 大人しくて底なしに明るいアルマがボケる、サウマンがそれに強烈な突っ込みを入れる。僕はただ笑っている。


 そんな関係が心地よい。



「ガルボ!この際だから言っとくがよぉ、ボケ担当は何もアルマだけじゃないぞ、この無自覚型天然野郎め。」


「そうだよ。ガルボは天然すぎて怖すぎるくらいだよ。どっちかと言うとこっち側だよね。」


「セポイ教官のことを『母さん』って呼んでたのにはほんとに戦慄したな」


「この間の筆記試験の時、鉛筆わすれてペンで書いたって本当?」


「天然ってゆうか馬鹿だな。」


「うん。馬鹿だね。」



 もちろんそんな自覚はない。


 セポイ教官の事は親のように慕ってるし、ペンの方が書き心地がいい......なんてことはないけれど。


 消しゴムなしに筆記試験を合格できたのはちょっとした達成感。


 解いてるときは冷や冷やしたけどね。




 そんなくだらないことを話し合う。


 この空間が僕にとっては必要だった。


 二人のおかげで僕は僕でいる事を忘れずに済んだんだ。





『第3班』のバルジェロ、トラヴィス、ルメートルスの三人とは入学当初は仲良くしていた。


 ところが次第に関係性は変わっていく。


 三か月が経った頃、自己中心的な性格のバルジェロはアルマに対して嫌悪感を募らせていった。


 アルマへの仕打ちがエスカレートし始めたのを気にした僕とサウマンは、ある日バルジェロを呼び出した。



「なあバルジェロ。少しアルマに対する仕打ちが酷くなってはいないか?」


 と諭すように話すサウマン。



「なんだよ二人して。そんなに俺一人を悪者にしたいのか?」



「違う!確かにアルマはいつも僕たちに迷惑をかける。だけどあいつだってワザとやってるわけじゃないだろ?」



「あんなデブのおもりか、お前もどうかしてるぜガルボ。あいつがよそで何て呼ばれてるか知ってるか?


 負け豚アンダー・ピッグだよ!底辺のオークにはお似合いだぜ!」


 バルジェロは声を上げて笑う。



 僕は耐えられなくなった。


 気が付いた時には遅かった。


 僕はバルジェロの頬に一撃。奴は地面に突っ伏していた。



 それから先は酷いもんだった。


 騒ぎを聞き付けたトラヴィスとルメートルスはバルジェロに加勢し、2対3の乱闘騒ぎ。


 学生と言えども『武術専攻』。


 その戦いは壮絶なものとなった。



 幸い教官にバレることはなく処分は免れたが、退学になってもおかしくはなかったと思う。




「ごめん。サウマン。ついカッとなってしまった。」



「気にすんな。俺もムカついてたんだ。」


 僕とサウマンは暫くのあいだ立ちあがることすらできなかった。


 だけど心は晴れていた。「尊厳を守れた」そんな気がした。



 それ以降、バルジェロのアルマに対する仕打ちは止んだ。



 そして『第3班』は二つに割れていくこととなる。








 今日はなんだかみんなの挙動がおかしい。


 なぜだろう。


 そう思ってカレンダーを見て気づく。


「そうか!明日から休暇か!!」



「なにを今更言ってんだよ......。」



「あれれ、ガルボは故郷には帰らないの?」



「全く考えて無かったや......。」



「アルマとサウマンはどうするの?」



「僕は故郷に帰るつもりだよ。妹が帰って来いってうるさくて。」


 とアルマ。14歳の妹は兄を慕っているようだ。



「俺は......家族は居ないけど帰るつもりだ。何にもなくても故郷ってもんは懐かしいもんなんだよな。


 故郷から忘れられたくもないしな。」



「そういえばガルボ、君はベルランゴ出身だったよね?ここからだと魔列車で丸一日ってところかな?」


「ああ。ベルランゴか。......ずっと帰ってないな。」



 帰省する理由も見つからなかった。





 休暇に入るとみんな居なくなる。


 テレサちゃんの顔を見ることもできなくなる......。


 彼女はどんな休暇を過ごすんだろう。







 休暇なんて要らない。


 そう本気で思っている僕だった。






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