第三話


「じゃあ、これより作戦会議を始めます」


 さっきと同じようにダイニングテーブルに私と兄さんが向かい合って座り、兄さんの隣に緊縛ちゃんが座った。

 彼女はずっと兄さんに引っ張って欲しそうに見つめ、す〜っごく近くに席を寄せている。側にいると言っても近すぎじゃない?? もはやその距離は交尾してるのよ。

 まぁ、今の兄さんは真面目だから、しっかりと作戦会議に向き合ってくれるけれど。縄は引っ張りはしないが、緊縛ちゃんから離れたりはしない。

 ちなみにだが、私はTシャツとズボンを穿いた。理由は少し冷えてきたので。

 やはりエロに我慢は付き物だ。


「まずは数を把握しないとですね。兄さん、同人誌の数はどれくらいか分かりますか?」


 全体の数を知ること。さらにはどんな種類があるかを知ることで、私の目標への道のりを把握できる。

 兄さんは変わってしまったけど、別に記憶を失ったわけではないので、きっと分かるはず。


「そうだな。具体的な数までは覚えていないが……ざっと千冊はゆうに超えている」

「せ、千冊⁉︎」


 そ、そんなにあるなんて……。性癖の海は広いなぁ……。


「けれど、一冊ごとが擬人化したわけじゃないと思うよ」

「緊縛ちゃんどういうこと?」

「いや、私のあくまでも感覚なんだけど、自分は何冊かで出来ている気がするの。きっと、同じジャンルやシリーズ物だったら一人にまとめられているんだと思う」

「そっか。亀甲縛りだけでなく菱縄縛りもありますもんね。全身だけでなく部分だけとか、そういったものは全て緊縛に含まれるのですね」

「うん、そうだけど……詳しいんだね」

「た、たまたまです……!」


 万が一のために、兄さんがそう求めた際に自分で出来るようにしておいただけです……!

 何てこと言うんですか!


「そうか。なら実際何人いるかは分からないな。性癖にも曖昧なものが多くあり、どのジャンルなのかを区別できないことが多々あるからな」

「そうなのですね」

「しかし、俺はひとまず大きく分けて六つのジャンルに分けていたんだ。それを六性癖むせいへきと呼んでいる」


 む、六性癖……なんとおバカな……あ、いえ失礼。兄さんにこんなことを思ってはいけません。むしろ愛おしいと思いました。

 兄さんはその六性癖について語ってくれました。


 一つ目が【パーツ】

 胸や尻、体型、髪型など、身体的な部位を指すジャンル。


 二つ目が【コスチューム】

 制服やメイド服、水着やタイツなど衣装に関するものです。


 三つ目が【スピーシーズ】

 いわゆる人間以外を指し、ファンタジー系の同人誌でよく使われるジャンルです。

 代表的なのはエルフやサキュバスでしょうか。


 四つ目が【アトリビュート】

 SM、ツンデレ、ヤンデレ、ロリ、熟女などといった性格や属性を表すジャンルです。

 本来は妹モノはここに入っていたはずですが……。


 五つ目が【シチュエーション】

 マジックミラーが搭載された車、過激な自撮りなどが該当するみたいです。

 状況や場所重視の同人誌みたいですね。よくある臭い演技をするAVみたいな……私は観ていませんからね。あくまで聞いた話ではです。


 そして、最後の六つ目が【プレイスタイル】

 前から責めたり後ろから責めたり、オモチャを扱ってみたり、露出したりなど……結構ノンジャンルになるのがこのジャンルです。

 結構、同じ性癖でも【シチュエーション】と混同されるとか。

 ちなみに緊縛ちゃんはここに該当します。


「──以上が、六性癖についてだ」


 兄さんはそうスラスラと答えた。

 聖人になったとしても、染み付いた知識はパンツの汚れのように落ちないものですね。


 さて、私にとって重要なのは【パーツ】ですね。

 例えば巨乳。私はEカップありますから充分に巨乳と言ってもいいと思います。

 この同人誌を見つけることができれば、私の理想に大きく近付きます……!

 ただ、爆乳と同じにされてないかは不安です。そこまで大きくはないので。


 他にも【コスチューム】【シチュエーション】【プレイスタイル】は場合によってはありですね。私の方から歩み寄れることができますし。

 ただ、【スピーシーズ】と【アトリビュート】は使えないですね。性格はそう簡単に変えることはできないですし、生まれ持ったものが必要です。【スピーシーズ】に関してはそもそも人間じゃないですし。


 さて、探す対象は大まかには決めました。

 けれど一番の課題点が残されています。


「擬人化同人誌は一体どこにいるのでしょうか……」


 緊縛ちゃんのように一目見たら分かるような姿をしたいたらいいですが、中には一般人と見分けがつかないものもいることでしょう。


「私なら多分分かるよ」

「本当ですか……⁉︎」

「うん。私たちはエロ同人誌が擬人化した存在──だから、きっと性が溢れている場所に潜んでいると思う」

「例えば、夜の街やホテル街とかですかね?」

「それと、大学、かな」


 大学……! 確かにそこになら多くの擬人化同人誌がいそうです。

 あそこは性が渦巻く場所ですからね。私も入学して早々、数々の男にサークル勧誘や連絡先交換を尋ねられたりしましたから。全て蹴散らしましたが。

 大学には、ちょっと変わった格好の人もいますし、溶け込みやすいのかもしれません。

 私たちが住む家は大学に程近いですし、みんなまずはそこを目指すのかも……!


「じゃあ、まずは大学に行こう。そこで何か情報が掴めるかもしれない」

「そうですね兄さん……!」


 私たちは席を立ち、外へと向かいました。


「の前に! 緊縛ちゃんの今の格好では無理ですよ」

「え、そうかな?」


 亀甲縛りされてる制服着た女の子が街中歩ける訳ないでしょ。

 すると、兄さんが緊縛ちゃんの縄を持つ。


「外が駄目なら内側で縛ればいい」


 と、一度縄を緩めると……そのまま両手を制服の中に突っ込んだ!

 まるで蛇が服の中へと迷い込んだみたいに、兄さんの両手が縦横無尽に緊縛ちゃんの全身を這い巡る。


「ん、あぁ……! さっきよりもダイレクトに私を縛るから、すごくいいです……!」

「なら良かった」


 良くはない! どうして緊縛ちゃんばかり兄さんと触れ合えるのですか!

 欲はないとは言わないです。いいえ、ギンギンにあります! 私も兄さんに縛られてみたいです……。

 やはり緊縛ちゃんを兄さんの性欲に戻しても良かったかもしれないですね。私がその代わりを務めたらいいだけですし。


 けれど、緊縛ちゃんの能力は役に立ちます。

 私たちは擬人化同人誌──長いので今後〝ギドー〟と命名します。

 ギドーを探し捕らえるために大学へと出かけたのでした。

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ブラコンの妹が黒魔術で俺のエロ同人誌を擬人化させたことで、性人の俺が聖人化した件について 杜侍音 @nekousagi

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