第二話


「私を……縛る……?」


 緊縛ちゃんが動揺した僅かな瞬間を狙い、兄さんは一瞬にして間を詰める。

 緊縛ちゃんはすぐに退避しようとするが、兄さんに正面から抱き寄せられる。


「なっ……!」

「じっとして」


 そして手早い縄捌きで、自分もろとも緊縛ちゃんと一緒に縛り上げた。

 とても、ジェラシーを感じます……! 兄さんの方からあんなに抱き寄せて密着するなんて!


「何のつもりなの……⁉︎」


 緊縛ちゃんは失礼にも兄さんの抱擁から逃れようとする。

 しかし、兄さんは離さない。


「君は……怖がっているんだ」

「……っ!」

「自由とは、一見素晴らしいものだと感じるだろう。しかし、それと同時に自身へ責任が強くのしかかり、そして孤独でもあるんだ。君はこれから大人になり、一人で放り出されてしまうことに恐怖を感じている」


 そうか、これから世に出る直前の学生を表しているから、緊縛ちゃんは制服なのか。

 緊縛ちゃんは自分を縛り上げることで、自由への恐怖を逃れようとしているんだ。


「……そうよ、怖いわよ……! だって私は一人なんだから! 気付いたらこの部屋で目覚めて、何も分かんなくて……何をしたらいいか分からないし……!」


 ……っ、私のせいだ……。

 兄さんの性欲を上手く調整したいと思った私のワガママで、緊縛ちゃんを始めとして、多くの人格が世に放たれたんだ。

 中には何をして生きたらいいのか分からない子だっている。

 緊縛ちゃんは涙を流し、嗚咽を漏らす。

 わ、私が責任を持って、何とかしないといけないのに……!


「末己」

「……っ! はい、兄さん……!」

「末己が責任を背負わなくていい。元は僕のためを想って、してくれたことなんだから」

「けれど、兄さん……」

「心配しなくていい。妹の責任は全て兄が引き受けるものだ。言っただろ? 僕が何とかするって」


 そう言って、兄さんは緊縛ちゃんをさらに抱き締める。


「ん……!」

「緊縛ちゃん。これからは僕が君を縛ろう。僕がしてやれることは少ないかもしれない。けれど、君の不安が少しでも和らぐなら、僕の側にずっと居続けたらいい」

「……私と一緒にいてくれるの……?」

「ああ、誓おう。これが僕と君の縛りだ」

「……はい。私を……縛ってください……」


 兄さんは緊縛ちゃんに対し、耳元でそう優しく話してあげると、緊縛ちゃんは答えるように兄さんを強く抱きしめる。

 落ち着いた緊縛ちゃんの心に合わせて、部屋を覆っていた縄は次第に彼女の元へと戻っていく。

 二人を縛り纏めていた縄も消えたが、兄さんと緊縛ちゃんはしばらくそのまま抱きしめ合っていた。


 ……羨ましいです。


   **


「これでよし」


 兄さんは彼女を縛ってあげた。

 さすがに手足の自由が効かないと、行動するのに不便なので四肢は縛ってはいないですが、胴体はしっかりとキツく絞めあげていました。

 その際、兄さんの手が緊縛ちゃんの全身をまさぐるように当たっていたので、そこでも嫉妬していました。


「かわいい、これ!」


 緊縛ちゃんは兄さんがチャームポイントとして、首元にリボンを縄で結んだものをえらく気に入っていました。


「そういえば、名前は……?」

「まだ名乗っていなかったね。僕は江口千尓。こっちは妹の末己だ」

「千尓さん……」


 おぉい、こっちは無視ですか。

 緊縛ちゃんは兄さんに見惚れて、顔が赤くなる。

 って、まさかこの表情は……!


「私を、抱いてください」


 やっぱり‼︎

 絶対、緊縛ちゃんは兄さんに抱かれることを望むと思いましたよ! 気持ちは非常に分かりますが……!


「そんなの許されないですよ。それにいいんですか? 兄さんとセックスすると、緊縛ちゃんは消えてしまうのですよ⁉︎」

「なんだって?」

「いいよ」


 緊縛ちゃんは即答だった。


「私が、千尓さんと一緒になれるのならば、それで構いません」

「駄目だ。それは僕が許さない」

「兄さん」「千尓さん……」

「緊縛ちゃんは、まだ僕と一緒にいてもらう。そう、縛ったはずだろ?」

「ですが……」


 緊縛ちゃんは兄さんと一つになることを望んでいる。

 そりゃそうだ。元々、彼女も兄さんの性欲の一つ、兄さんの一部なのだから。

 けど、悪いけど緊縛ちゃんに戻ってもらうのは私が困る。

 私と兄さんの愛のため。

 ここは、私は鬼となり悪魔となり、緊縛ちゃんを利用させてもらおう。


「緊縛ちゃんは消える必要はないよ。その代わり、兄さんのお手伝いをしてください」

「千尓さんの?」

「私たちは、今あなたと同じ擬人化同人誌を探しています。それには、あなたの能力が必要です。緊縛ちゃんのその縄で、他の子達を縛り上げて捕まえられるんです!」

「私のこの能力で……?」

「はい!」

「どうだろう緊縛ちゃん。妹のためにも、一緒に手伝ってくれないか?」


 兄さんと私は手を差し出すと、緊縛ちゃんは迷うことなく私たちの手を取った。


「はい……! よろしくお願いします!」


 新しい仲間が増えた。

 金髪がよく似合う高校生(服装だけで判断してるけど、実際はどうなのかは分からない)。

 能力は縄を自在に操ること。


「千尓さん、これを引っ張ってもらっていいですか?」


 彼女は尻尾が生えているように、スカートの上部から出ている縄を兄さんに渡す。

 そして、兄さんはそれをゆっくりと時間をかけて、引っ張っていった。


「……あんっ、キッツ……!」


 彼女は緊縛ちゃん。

 縛られることが大好きなドMである。

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