『金髪緊縛少女』

第一話


「末己、その擬人化した同人誌がどこにいるのか当てはあるのか?」


 兄さんは真面目に私へ質問した。

 黒魔術、同人誌が擬人化、そういった訳がわからないものでも、兄さんはすんなりと受け入れている。

 これも、もしかしたらAVやエロ本の見過ぎた弊害なのかもしれません。とんでも設定をすぐに受け入れられるなんて頭おかしいですから。

 まぁ、それも兄さんの素敵なところではありますが、由来が由来なので不服です。


「そうですね、黒魔術をかけた際に同人誌は窓から外へと飛び立っていたので……きっと街中にいるとは思います」


 ガタッ


「ん? なんだ?」


 二階から物音がした。

 恐らく兄さんの部屋だ。


「行ってみましょう……!」


 私が先に階段を上る。

 この姿ですので、私の可愛いお尻が兄さんの目の前にありますが……まぁ、無表情ですよね。

 兄さんのために、体格やスリーサイズもベストに整えているというのに……どうして私は兄さんの妹なんでしょう。

 いいえ、兄さんの妹で嬉しいですよ。けれど、神様は意地悪です……!


「末己、ここは僕が先に行こう」


 兄さんの部屋の扉前。

 中を警戒して、私を庇ってくれます。なんとカッコいいのでしょう……!

 あ、いえ、見惚れてる場合じゃないですね。

 兄さんの言う通り、ここは警戒すべきです。私の格好で言えたことではないですが。

 中から声が聞こえます。誰かいる……!

 目を合わせた兄さんが首を縦に振ると、突入します。


「誰だ!」


「くぅ……! いい! すごく、いいよぉ……! あっ……!」


 そこにいたのは、ブロンドの長い髪が映える整った顔立ちの女子高生だった。多分。

 制服姿からそう判断しました。

 そして、何より特徴的なのが──


「キッツ……! もっと、もっと、限界まで試したい……!」


 手足を拘束され、亀甲縛りで床に転がっているのです。

 縄が彼女の肉体にめり込むほど絞めあげており、彼女が喘ぐほど、それはさらにキツくなっていく様子。

 強調された胸は私と良い勝負。

 以前の兄さんなら身動き取れない美少女がいれば、すぐに飛び付いていたでしょう。


「君は誰だ」


 しかし、今の兄さんは違います。

 私を守るように盾として立ち、彼女を警戒し続けています。

 はぁ……しゅき……。


「あら? 良いところに来たわね! 私の名前は緊縛きんばくちゃん。もしもし、そこのお兄さん? 良ければ、もっと……もっと! 絞めあげてくれますかっ‼︎」


 兄さんと呼んでいいのは私だけです!

 緊縛ちゃんと名乗った金髪美少女はよだれを垂らしながら、兄さんに懇願します。なんと卑しい女なのでしょう!


「末己。もしかして、この人は擬人化した同人誌なのか?」

「えぇ、そうだと思います」

「ふむ。なら元に戻さないとな」


 元に戻す……つまりはこの絞めあげられた変態と兄さんが交尾をするということ。

『緊縛』という性欲・性癖は兄さんに戻るのでしょうが、お恥ずかしい限り、私にこのような要素はいりません。

 もちろん、兄さんが望むのでしたら縄に縛られてあげましょうが、恐らく妹である私は不発に終わるのでしょうね。


「待ってください。兄さん。彼女はまだ戻さなくて結構です」

「ん? そうなのか」

「はい。私が探してた人物ではないですから」


 すると、緊縛ちゃんは私の方を見上げる。


「ありがとう。私はこのまま縛られていたかったから。だから、もっと! もっと縛って!」


 うぇぇ……変態ですね。

 とりあえずこれは動けないみたいですし、どっかその辺放置でいいでしょう。


「……ん? 兄さん、何してるのですか?」


 兄さんは緊縛ちゃんの側に座り、後ろで拘束されている手の縄を切った。


「いや、彼女が縛られていては、可哀想だと思ってね。自由にしてあげようと思ったんだ」


 机上のペン立てからハサミを持ち出した兄さんは、チョキチョキと華麗な手捌きで縄を切っていく。


「まぁ、兄さん……! 優しいのですね」

「これで君は自由だ。好きなところに行くといい」


 きっと部屋にGが出たとしても、手のひらに乗せて、窓から逃がすのでしょうね。それほどの優しさを私は目の前にして感動しています……!


「……私を自由にしたの?」

「ああ。そうだよ」

「……どうして」

「え?」

「どうしてどうしてどうして‼︎」

「……兄さん! 何か様子が変です!」


 突如発狂しだした緊縛ちゃん。

 すると、彼女の尾骶骨辺りから何本もの縄が触手のように現れて、一瞬にして私たち兄妹を縛り上げ吊るしてしまう。

 もちろん、亀甲縛りで!

 はぁ……! これは癖になりそうです! 

 半裸のようなこの姿ですと、食い込むところにキツぐぅっ、ぐっ……!


「ぐ、苦しいっ……!」


 縄は私の首を徐々に絞めあげていく。

 い、意識が……事切れそうになった時……


「……末己! 末己、大丈夫か!」


 兄さんの腕に抱かれて、私はすぐに意識を失わずに済みました。

 けれど、兄さんの腕の中ならこのまま眠れます!


 兄さんは手に持っていたハサミを使い、切り抜けたみたいです。そして、そのまま私を助けてくれたのでしょう。

 簡単にしてみせていますが、この縄は太く頑丈ですので、ハサミでは切りにくいはず。

 ですが、兄さんなら力の加減や刃の入れ方で、朝飯前に切れたのです。


「私は可哀想なんかじゃない……! 私のことを自由にしないで‼︎」


 緊縛ちゃんはそう強く叫ぶと、再び自身の身体を立ったまま縛り上げ、さらには部屋全体を縄で覆い、扉や窓を塞ぐ。

 私たちの逃げ道を奪い、ここから出さないつもりだ。


「兄さん……!」

「大丈夫だ、末己。僕が何とかしよう」


 兄さんならこの状況を打破できるはずです。いいえ、絶対にできます!


「緊縛ちゃん……と言ったね」

「なによ‼︎」

「先程は嫌がることをしてしまい、申し訳なかった」

「謝っても許さないから! あんたたちも私と一緒に縛られてしまえぇ‼︎」

「構わない」

「は……あ、あなたどういうつもり⁉︎」

「その代わり、僕に縛らせてくれないか。君のことを」

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