目次


(とうとう……俺は童貞を捨てる‼︎)


 江口に人生最大のチャンスが訪れていた。

 彼は前話でも述べたように、口を開かなければモテる。だが、開口すれば音より速く女性はみんな逃げていた。


(だが、今回告白してきたのはビッチのようだ! まぁ、初めては処女がいいだと中学の時に決めていたが、捨てれるのであれば、そんなのはどうだっていい! 拘り続けるから童貞になるのだ!)


 現在、彼はシャワーを浴びていた。

 だが、抑えきれない性欲と衝動によりカラスの行水となっていた。少し水に優しく触れた程度だ。

 腰にバスタオルを巻く。正面には立派なテントが張られていた。


 準備万端だ。



「ふっ、待たせたな」

「うん、待ってたよ〜」


 金髪の彼女は全裸でベッドにうつ伏せで待っていた。江口が現れると、彼女は起き上がる。

 ちょうど、胸までの髪の長さがあるため、性欲の到達点はギリギリ見えなかった。

 だが、それでいい。

 むしろ、江口の興奮は高まったのだ。


(これから大人の階段を登っていく……。グッバイ、昨日までの童貞の俺。ハロー、脱童貞の俺。いざ、テイクぅ⁉︎)


 突如として、頭に強い衝撃が流れ、江口は直立したまま後ろに倒れた。その際、物理的にも頭に衝撃を受ける。


「え、江口くん⁉︎ 大丈夫⁉︎」


 金髪の彼女が駆け寄ると、意外にも早く彼は意識を取り戻した。


「あぁ、よかったぁ……。もう、急にビックリしちゃったよ。さ、早くヤろ?」

「……何をだ?」

「え? その……えっち、だよ?」

「ふむ……と君がか?」

「う、うん。ん? どうしたの江口君?」

「……そんな格好では、風邪を引いてしまう」


 江口はその辺に脱ぎ捨てられていた自身の上着を彼女にかけてあげる。


「あ、ありがとう……」

「じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」


 こうして江口はホテルの一室を出て行った。


「江口くん……待って⁉︎ 全裸で出て行ったら捕まるよ⁉︎」



   ◇ ◇ ◇



「ただいま」

「おかえりなさい兄さん! さ、私とイチャラブセックスを致しましょう!」

「いや、近親相姦になるのでしないが」


 そのまま兄さんはスタスタと部屋に戻って行った。


 ………………。


「ちょっと待って兄さん!」

「どうした?」

「どうしたじゃないです! どうして私を襲わないのですか⁉︎ セクシーなランジェリーで妹がお出迎えしてるのですよ⁉︎」

「そのような服が似合うくらい大人になったんだな。可愛いよ」


 トゥンク


「けれど、くれぐれも身体を冷やさないようにな」

「そうじゃなくて!」


 おかしい……!

 私の計画では、「待って、兄さん……! せめてベッドまで待ってください……!」と言ってしまうくらいに、廊下ですぐに致すつもりだったのに。てか、言いたいのに!

 もしかして私の黒魔術が失敗したの……⁉︎


「兄さん。少しお話があります」


 私は兄さんの手を引っ張って、ダイニングの椅子に座らせた。私はその向かいに座る。

 座面に丸出しのお尻で座っているため冷たい。


末己まこ、着替えなくていいのか?」

「いいえ、このままで大丈夫です。兄さん、よく見てください」


 私はランジェリーの一部を脱ぎ、片方の頂を見せる。

 さすがにここまですると恥ずかしい。


「兄さん、これを見てどう思いますか……?」

「そうだな。早く着なさい」

「それだけですか⁉︎」

「それと、とても綺麗さ」

「それはもちろん、兄さんのために桃色の艶の良いものに仕立て上げましたから〜。って本当にそれだけですか⁉︎」


 兄さんは不思議そうに首を傾げる。

 本当に何も感じないの……⁉︎


「こう、欲情したり、ムラムラしたりは……⁉︎」

「ないよ。僕が妹にその気持ちを抱くことはない」

「ガーン‼︎」

「それどころか、僕にそういった欲望はない。つい先程、頭に強い衝撃を受けてね。それまで自分がいかに愚かな人間だったのか理解したよ。人間は性という煩悩に囚われてはいけないんだ。だから僕は──」


 ダメだ……兄さんは完全に性欲から脱し、性人から聖人になってしまった。

 私の計画が……もう兄さんを無理矢理襲ってしまおうか……。

 いやダメ! 今の聖人モードの兄さんじゃ、嫌われてしまうかもしれない。それは死よりも辛いこと!

 けれど、兄さんの話を聞く限り、今までの自分の記憶はあるみたいだし、黒魔術も成功しているっぽい。

 けれど、完全に性欲が消えたら意味がないです! 何か方法は……。

 私は机の上に置き去りにしていた黒魔術の本を読み漁る。

 すると、見つけた。なんとかなる方法が……!


「──であるからして……」

「兄さん!」

「……ん? どうした末己」

「手伝って欲しいことがあるんです」

「あぁ、手伝おう。愛する妹のためなら兄さんは何でもしよう」


 あぁ、それなら今すぐ……って、ダメダメ。兄さんは私を家族として愛してくれているんだ。

 だからここは我慢。兄さんとのイチャラブセックスするには、その愛と少しの性欲が必要なんだから。


「私と一緒に……してしまった同人誌を探して欲しいです!」


 兄さんを戻すには、大量に擬人化した同人誌たちを見つけ出し、そしてそれらとセックスしてもらう。

 すると、擬人化同人誌たちは本に戻り、その分の性欲も兄さんに戻ると、黒魔術の本には書いてありました。

 本当は兄さんの初めては私が貰いたかったのに、残念です。けれど、私の初めてを兄さんに捧げるため、致し方ないです。

 そして、気をつけなければならないのはその人選。

 それは、数々の性癖の中で私にも当てはまるもののみ兄さんとセックスさせるということだ。

 例えば私は黒髪の長髪である。ならば、そのパーツを題材とした同人誌を見つけてセックスさせれば、私のこの髪型に欲情するというわけだ。

 つまり、私の要素を集めて私という存在が一番欲情するものであると作り上げる。

 これが、私のすべきこと……! 

 妹モノさえあれば、一発ですが、それは無いので仕方ないです。


「兄さん、お願いします……私を、私を探してください!」

「ふむ、さっきから何の話かさっぱりだが、分かった!」


 こうして、私──江口末己えぐち まこと、兄さん──江口千尓えぐち せんじは、私へ向けた性欲の欠片を取り戻すため、擬人化した同人誌を探すことになるのです。

 それが、あんなに激しい闘いの夜が訪れるなんて……それはまだ先の話です。

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