悪夢の強襲編
彼らの不在
五限の終わりを告げるチャイムが鳴り、教師がそそくさと退散していく。
「
いきなり図星を刺されて、
「あ~……バレたか~。ほらあたし、学期始めの確認テストで酷い点取っちゃったから、今から中間に向けて勉強してるんだ」
えーずるーいなんて返しにノリよく合わせながら心中で苦笑する。
勉強なんてしていない。している場合じゃないのだ。
今日も帰ったら変死体を一体
ついた嘘と現実との高低差に
頭に入らない六限目をやり過ごして帰る準備を済ませた。昇降口で靴に履き替えていると、片手を上げてこっちへ走ってくる少年の姿が。
「奈緒ちゃん!」
やっと追いついたというようにほっと息をつくのは
「あっれ~?
学内で不利な立場に立ちたくはない。わざと大きな声で露骨に拒絶してみせると常彦は始めから承知してると言いたげに笑う。
「いつも通りの軽口で安心すんよ。なぁ……、そっちには真信と深月さんから連絡とかあったか?」
「特にありませんよ。お二人ともまだ戻って来てないんですね。なんでしたっけ。深月先輩が持病の療養で県外に行ってて、真信先輩は……」
「親に呼び出されて実家に帰ってるらしい」
「そうでしたね。出席日数とか大丈夫なのかな」
「二人とも休学扱いだから平気みたいだ。仲の良い奈緒ちゃんなら二人の近況も知ってるかと思ったんだけど、そんなことなかったか」
「なんであたしが知ってると?」
やはりこの男、普段の態度と裏腹に洞察力がある。どこまで見透かされているのか探るように表情を窺うと、
「……あの二人ってよ、すっげぇたまにだけど、なんかつらい経験してきてるんだろうなぁって思わせられる瞬間があって。だから余計にお互い通じ合ってるように見えるっていうか」
「はぁ。それで?」
「…………奈緒ちゃんもそういう雰囲気あるからさ」
だから彼らから秘密を打ち明けられるほどに親しいだろうと、この少年は言いたいわけだ。
つくづく人をよく見ている。大抵の人間にとってそれは美徳と映るが、本当に踏み込まれては困る領域を持つ人間にとっては、警戒対象だ。
「ご明察! と言いたいところですけど、お二人はともかくあたしに関しては思い違いですよ。あたしは
このまま適当にあしらって捨て置いてもいいのだが、せっかく声をかけてきたのならと探りを入れることにした。
「針木先輩は真信先輩のとこの猫を預かってるんでしたっけ」
「ああ、長期間帰って来れないかもしれないからって。細身の三毛猫だよ」
「へぇ。真信先輩が飼ってたなら、躾が行き届いてそうですね。芸でも仕込まれてましたか?」
「頭良いんだろうなって思うことはよくあるよ。こっちの言ってること理解してそうな動きはよくするし。けど、ここ一週間くらいは普通の猫と一緒で、食って寝てエアコンの風に当たってまた寝てって感じかな。そんだけリラックスできるほどウチに慣れたってことかも。ったく、早く帰ってこないと、猫宮さんうちの子になっちゃうぞぉ真信」
分かりやすく頬を膨らませてぼやいている。それから二三の情報交換をして、二人は別れた。もとより共通の友人がいるというだけで、彼ら自体は親密な間柄ではない。だから誤魔化しも簡単に済むし、余計な詮索をされる心配もなかった。
とはいえ先輩二人が学校を休んでいる理由も、これだけ長期間に渡れば無理が生じて来る。怪しまれ心配されるのも否めない。
とはいえ理由についてはでっちあげた嘘だらけだが、一つだけ真実が紛れていた。
「あたしも会ってみたかったな、元復讐相手候補のお兄さんたち」
真信が実家に帰ったという一点だけは、紛れもない事実だったから。
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