エピローグ

迎え


 時刻は深夜の零時を回っていた。


『もしもし? 源蔵さん? 何かありましたか?』


 机の上の電話口からそんな声が響くが、源蔵は答えることができない。京葉高校の理事長室。なぎさからパーティーの顛末てんまつについて報告を受けていた源蔵の前に、三人組の男達が現れた。


 軍服に似た制服から宮内くない庁の裏側の人間だと分かる。無言で入って来た男のうち一人が、源蔵へ手を差し出した。


平賀ひらが源蔵げんぞう樺冴かご深月みつき、両名には皇嗣こうし様より投降指令が出ている」


 淡々とした宣告に、源蔵は軽く笑った。


「まあ、こうなるのだろうな」


 皇嗣の考えを聞いて、彼が自分たちの身柄確保に動くことは分かっていた。そして従わなければ相応の罰を与えられるだろうことも。


 源蔵は立ち上がり、両手を上げた。


「応じよう。ただ深月のほうは行方不明でね。狗神を利用したい人間に連れ去られたらしい。ここは私だけで満足してはくれまいか」


 抵抗の意がないことを示すと三人は満足したのか、部屋から出て行く。源蔵もシルクハットをかぶってその後に続こうとし、ふと後ろを振り返った。


 机の上て通話中のまま放置された携帯に向かって、内緒話みたいな声音を向けた。


なぎさ君、真信君に一つ伝言を頼む。──神器は狗神の中だ」


 それを最後に扉が閉まる。

 なぎさがどれだけ呼びかけても、もう答える声はなかった。




         ──カミツキ姫の氏素性うじすじょう 了


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