ただ平穏にちょっと楽しく暮らしたい死霊魔導士の日常と非日常

うまうま

第1話 移住って転移じゃないの……?

 田中拓海、29歳。技術職。中肉中背。

 どこにでもいそうな顔立ちで彼女いない歴=年齢。

 休日は二次元の彼女といちゃいちゃしている勤労な一般人男性は、目の前に掲げられた横断幕に唖然としていた。


異世界強制移住権獲得おめでとうございます!


 移住とありながら、強制とはこれいかに。

 二次元の彼女は愛しているが、二次元の展開を愛しているわけではない拓海。

 異世界と聞いても心躍らないし、むしろ強制という単語に若干どころじゃない恐怖を感じていた。


 社会人になってから一人暮らしを始め、いつも通りの時間に起きて、いつも通り食パンを食べて、いつも通りの通勤電車に乗って、初夏に入り汗くさい匂いが鼻につき始めていたのに顔を顰めていた筈だった。


 辺りを見ればでかでかと掲げられた横断幕の他には何もない。横断幕の端もどこへ繋がっているのか黒々と墨で塗りつぶされたかのように途中で途切れており、その先は一点の光すら見えず見通す事は出来なかった。


ギフトの選択をお願いいたします!


 不意に、横断幕の文字が変わった。

 唐突な変化に、びくっとする拓海。それからまた恐々辺りを見回した。

 何かのドッキリか。それとも白昼夢か。はたまた――。その先を考えそうになって慌てて頭を振る。意識すると余計怖くなるので必死に考えないようにした。


「あの」


 思い切って声を出して見るが、黒々とした空間にすっと吸い込まれていくようで、何の反響も反応もなかった。


「あの!」


 今度はもっと大きく強く声を出して見ると、突然目の前にホワイトボードサイズのディスプレイが現れ、そこに何やら文字がびっしりと表示されていた。

 拓海が思わずそれに目を向けると、そこには『短剣術』『片手剣術』『両手剣術』『弓術』『投擲術』等々、ゲームで見るような単語がずらりと並んでいた。


「あの、待ってください、状況がわからない」


 密かに思う一番嫌な状況だったらどうしようとビビりながら、それでも拓海は声を張り上げた。

 すると先ほど現れたホワイトボードとは別に、四分の一程の大きさのディスプレイとキーボードが現れた。ディスプレイには、『質問は三つまで』と表示されている。


 恐る恐る近づき、唾を飲み込む拓海。

 何となくキーボードで文字を入力したら引き返せないような恐ろしさもあったが、四の五の言っている場合ではなかった。震える手を出しキーボードの上に置く。

 纏まらない頭で必死に考えて、そうであってくれたらいいなと思いながら打ち込んだ。


****

私は、必要があって異世界とやらに強制的に移住させられるため、ギフトなるものを三つ選択するよう言われているのですか?

****


 打ち込むと、数秒で回答が浮かび上がった。


****

否。強制移住するためにギフトがあるのではなく、強制移住するからギフトが与えられる。

****


 過活動気味の心臓を必死に落ち着かせながら考える拓海。

 文面からして異世界というところに移住させられるのは決定事項で、覆す気は向こうにはないらしい。

 本当かどうかはわからないが、ギフトをやるから移住せよという餌で釣る方式ではない事はわかったし、何らかの思惑で移住させられようとしている(?)事もわかった。

 もしギフトをやるから移住せよという事ならお断りを入れたかったのだが、その道が無いとなると建設的に次を考えなければならない。

 というか、やっぱりこれは何かしらのドッキリだとか企画だとかそういう類じゃないんだなと感じる拓海。明らかにこの空間は異質で現代技術での実現方法が皆目見当もつかなかった。あと、苦手なあれの現象ともどこか違う印象を受ける。


**** 

異世界とは私のいた世界と比べてどのような違いがあるのでしょう。環境、生活様式、文化、その他違うところがあれば分野別に教えてください。

****


 一体何に巻き込まれてるんだと思うも、それでも頭はどうにかこの状況で最善を尽くそうと動く。

 質問を打ち込むと、また数秒で回答が浮かび上がった。但し、今度はかなり長い回答だった。拓海が要望した通り、環境、生物、無機物、生活様式、文化、思想、職種、産業などなど、多岐にわたる項目があり全て目を通すのに三十分以上要した。

 項目自体は多岐に渡ったが、内容は全て概要レベルのもので詳細は想像するしかないところも多かったが、それでも異世界とやらが拓海の住む世界とはかけ離れている事がわかった。


 まず環境。地球ではユーラシア大陸・アフリカ大陸・北アメリカ大陸・南アメリカ大陸・オーストラリア大陸・南極大陸の6つの大陸があるのに対し、異世界はただ一つ。地球で言えばパンゲアのような巨大大陸があるだけで、他に大陸はない。気候については土地の場所によって当然変わるようだが、地球より若干平均気温が低い程度のようだった。


 次に生物。この辺で拓海は気が遠くなってきた。

 地球には知的生命体といえば人間しかいないのだが、異世界ではそれが数多く存在した。幸いな事にその知的生命体の筆頭は人型である事が書かれていたので、運がいいのか悪いのか……と複雑な思いになる拓海。訳の分からない状況に巻き込まれて運がいいわけがなかったのだが、そうでも思っていないとやってられなかった。


 人型以外には竜型とか妖精型とか小人型とか植物型とか精神型などなど多岐にわたる。この辺で拓海はあぁファンタジーの世界かと理解した。この流れでは魔法とかありそうだなと思っていたら、案の定生活様式の項目で日常的に魔法が使用されている事が判明した。


 それからさらに読み進めていくと思想のところで、二つの思想がぶつかり合っている事がわかった。一つは力こそ全てという超脳筋思想。そしてもう一つは平和と安寧の女神を祀る思想。その二つ以外にもいろいろと思想はあったのだが激しくぶつかり合っているのはその二つだけだった。

 どうせ転移しなければいけないなら、この二つ以外のところかと思う拓海。事なかれ主義者で非暴力の生活しか知らないので当然の選択だ。

 全て読み終えたところの感想は『ギフトなしに転移したら死にそう』だ。


 一旦質問のディスプレイから目を離してギフトの大きなディスプレイに目を移す拓海。

 束の間眺めていたが、何かを考えていたわけではない。単純に待ち受ける現実が精神の許容量を超えていたので現実逃避していた。歳を取ると適応力も落ちるのだ。ティーンエイジのようにはいかない。


 十数秒の空白を経て我に返ると、いつまでもこの状態でいられる保証も無いと思い至って急いで考え始めた。

 今得ている情報の中で何が必要だろうかと真剣に眺め、鑑定、無限魔力、空間魔法、身体強化、状態異常無効と有益そうなものをピックアップしていると、虚空検索アカシックレコードというものに目がとまった。

 アカシックレコードと言えば、過去から未来にかけて全ての出来事が記録されているものじゃなかっただろうかと思う拓海。

 ひとまず有益そうだなと思い最後まで目を通して、結局次の三つに決めた。


 無限魔力、虚空検索、身体強化。


 無難じゃないかなと自分で思いながら、再び質問のディスプレイに戻って気になっていた事を入力する。


****

何故私は選ばれたのでしょう?

****


 本当はギフトの有用性や、おすすめを聞いた方がいいとわかっていたが、どうしてもそれが気になった。碌な理由じゃないとしても、何でこんな事に、の答えを知りたかったのだ。

 緊張しながら待っていると答えはすぐに返ってきた。


****

タイミングが合致したから。

****


(何の?)


 思わず心の中でつっこむ拓海。ここにきて極端な情報不足に、なんとなく向こうの恣意を感じた。

 だが、それ以上質問をする事は出来なかった。質問用のディスプレイとキーボードは消えて、ギフトを映す大きなディスプレイだけが残る。

 こんな事なら素直にギフトの事を聞けば良かったと後悔しながら、拓海はギフトを選択した。


「ギフトは無限魔力、虚空検索、身体強化を選択します」


****

警告。虚空検索を選択する場合は鑑定が必須となります。

****


 ディスプレイの一番上に赤字が現れ、顔を顰める拓海。

 そういう事は最初から書いておいて欲しかった。

 仕方なく、身体強化を外して鑑定を選択する。過去ならず未来までも見通せるであろう虚空検索アカシックレコードは生存戦略において中核をなすと直感していたからだ。


****

ギフトの選択を確認いたしました。

それでは異世界ライフをお楽しみください。

****


 ディスプレイのスキルが消えそう表示された瞬間、拓海は見知らぬ地に立っていた。己が一番苦手な存在に大量に囲まれた状態で。


 黒々とした雲が立ち込める曇天、空気が淀んでいるようなどどめ色の沼地、枯れ果てた木々が申し訳程度に景観に色を添える中、腐敗した肉体を持った数多くの死せる者達がそこら中に蔓延っていた。

 それだけではなく、中には首なし鎧や首無し馬、ぼんやりと薄暗く人型を取っている霊体に、骨だけのヘビのようなものもいる。


 ところで拓海にはこの世で苦手なものが三つあった。

 一つ目はトマト。あのじゅるりとした種の部分の食感がどうしても受け付けられない。

 二つ目は血。自分の血も他人の血も分け隔てなく平等に駄目だった。匂いもあんまり嗅ぎたくない。気持ち悪くなって眩暈がしてしまう。

 三つ目は、心霊現象。何を隠そう、拓海は見える人だった。


 拓海の女系は、見える人が多かった。母と姉ははっきりくっきりばっちり見えて、良い悪いもしっかり認識できて避けられる。祖母は見えて感じて話せて成仏させれた。父は全く見えない感じないわからない、だが寄せ付けない。拓海は何故かぼんやり見えて、ぼんやり悪いのがなんとなくわかるような感じで微妙に浮遊しているものを寄せてしまうという残念具合だった。


 祖母が居た頃は良かった。何か不調があっても祖母がパンパンと拓海の背を払うとケロリと良くなった。だが祖母が亡くなってしまってからは大変だった。母と姉は認識出来るが払う事は出来ないので、近所の事情を知る神社やお寺に行く回数が増えた。そのうち、ある寺の住職が自分でも身を守る術を覚えた方がいいと九字を拓海に教えてからは、回数も格段に減ったが拓海の心労は全く減らなかった。

 何せ見える人で有名だった姉がいたので、学校では「お前も見えるんだろ、だったら肝試しに来いよな」と強制参加させられてさんざん悪いのを引っ付けられそうになり半狂乱になりながら九字を切る事もざらだった。


 拓海はおどろおどろしい空気すら汚染されているような沼地の景観の中で、ひしめき合う確実に悪いものの姿に精神が臨界点を突破した。


 それは無意識の防衛本能だった。

 拓海がその世界に降り立ち、得た能力の中で一番種族として適している能力であり、最も自然に自分を守るための戦力を生み出せる方法だった。


 【死霊生成】


 言葉なく意識のみで術式が完成し、拓海を中心として真っ黒な逆五芒星が浮かび上がった。そしてそこから這い出るようにしてゾンビ、スケルトン、ワイト、レイス、ファントム、スペクター、デュラハン等々次々に沸き上がる。


(遠くに不死者、近くに不死者、どこもかしこも不死者のみ。)


 字余りしまくりの俳句を読んで、近場に現れた新手に白目を剥きかける拓海。己が近場の不死者を生み出したという自覚など無かった。

 だが無意識の『助けてくれ』という意識によって生み出された無数のしもべ達は実に拓海に忠実だった。無限魔力によって強化された彼らは周囲に蔓延りこちらを伺う有象無象を実力行使によってなぎ倒していく。

 ゾンビはゾンビに齧り付き、スケルトンはスケルトンの頭を剣で粉砕し、レイスはレイスにファントムはファントムに突っ込んで、スペクターはその辺の巨大な骨をまとめて黒炎に包んで燃やし尽くし、デュラハンは拓海の様子を窺っていたデュラハンに切りかかる。


 唐突に始まった同族バトルにあっけにとられた拓海だったが、復活するのも早かった。そろりと足を動かすが、どいつもこいつもバトルに忙しくて意識が向けられていない。それに気づいて一目散に駆けだした。

 必死に戦場を縫って走り抜け、包囲網を突破。

 かと思ったらいきなり横合いから何かがぶつかってきて派手に転がった。


 一瞬視界が真っ黒になった気がしたが、すぐに視界良好痛みもなく立ち上がり辺りを見渡す拓海。


「さすがリッチ。変なところで発生しているがこの程度の攻撃では痛くも痒くもないか」


 初めて聞こえたまともな声に、拓海は上を見上げた。

 そこには、真っ黒な蝙蝠のような羽を生やした酷く美しい男が浮かんでいた。

 長く艶光りする黒く長い髪。切れ長の双眸から覗く瞳は血のような深紅。白い肌とは対照的に男性なのに蠱惑的な赤い唇が笑みの形に歪んでいる。

 着ているものはどこの貴族だと突っ込みたくなるような白いシャツに赤いベスト、シルクのような黒いトラウザーズにマントという仮装姿で、でも足も長く背もすらっと高いので様になっているのが悔しいぐらいに似合っている相手だった。


「あ、あのー」

「これならどうだ?」


 声をかける拓海に対して顔のいい男は既に殺る気満々だった。

 拓海は知る由もないが、そこは魔族領と呼ばれる力が全ての超脳筋思想の支配領域だった。

 そこで突如とんでもない魔力を持って生まれた拓海という存在に、周囲の魔族達が反応して来てみれば居たのは重たい黒いローブを纏った骸骨。生まれて間もないリッチだった。


 そう、死霊魔導士リッチ


 移住と言う単語から拓海は転移だと思っていたのだが、実際は地球世界から魂をひっこ抜かれてこちらの世界に投げ込まれていた。状況としてはほぼほぼ転生に近いものがあったが、魂としての話を実行者はしていたので転移という単語になっていたのだ。

 詳細を知るのは虚空検索アカシックレコードに接続したときだが、現時点では自分がリッチになっている事に気づきもしない拓海。

 

 突如目の前でバチバチと赤黒い雷を纏わせる光球を生み出され、『あかんこいつやべえ』と咄嗟に九字を切る。伊達にこれまでさんざん纏わりつかれそうになったのを撃退してきたわけではない。やべえ奴=九字の独自法則が染みついており、リッチの性能に引き上げられた身体能力によって、その速度はとんでもなく早かった。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」


 切った瞬間、相手は燃えた。そして拓海も燃えた。


「うあっち! あつっ! なんで!?」


 向こうで「ぬおおおおお!」とか言って転がりまくっている顔のいい男がいるが、拓海も自分の事で精一杯だ。

 ばたばた自分の服を振ってどうにかこうにか火を消そうとすると、段々と火が弱まりやがて消えた。


 普通火だるまになったら地面を転がる方が消火出来るのだが、生憎その火は普通の火ではなく魔力からイメージを元にして生まれた聖なる火。転がるよりも魔力をぶつけて消火した方が早く消える。

 ちなみに字面的に魔から聖と真逆な印象もあるが、魔力自体には個人ごとに特性はあるもののはっきりした属性はなく、発露する段階で属性が決まるので気をつけないとこういう事になる。即ち自爆。


 無意識に自分の魔力を放出して消火した拓海は、離れたところでごろごろ転がっていささかヨレっとした相手に目を移した。あちらさんは非常にお怒りだった。

 具体的に言うと、目をかっぴらき犬歯むき出しでとてもいい笑顔を浮かべていらっしゃった。

 ひえっと情けない声が拓海の顎骨から漏れる。


「やってくれましたねヒヨッコのくせに!」


 ドスの効いた底冷えのする声にガタガタではなく、カタカタと震える拓海。骨なので。


「あの、その、今のナシ! ナシで!」


 大振りで手を振って止めようとする拓海だったが、当然相手は止まる筈もなかった。ちょっと小手先調べのつもりが生まれたばかりのヒヨッコに地を舐めさせられたとあっては沽券に関わる。それこそここ魔族領では死活問題でもあった。


あいつ生まれたてのリッチにやられたんだって。

へーじゃあ殺りに行くか。

 

 魔族領とはそんなところなのだ。

 弱みを見せれば殺られる。一触即発。信用出来るのは己の力のみ。

 一体どうしてそれで種族が絶えないのか人間達には理解されないが、魔族には魔族なりのルールがある。

 代表的なものは、己より極端に力の弱い魔族に攻撃を仕掛けないというもの。これは弱い奴を相手取らないといけないほど己が弱いと宣伝するようなもので誰もやらない。この一点において生きながらえている種族も数多く存在する。

 拓海がここへ来て早々に狙われたのは無限魔力なんてものを持っているせいで、とんでもない魔力があたりに駄々洩れになっているのが原因なのだが、本人は知る由もなく『なんでこんな事に』と半泣き状態だ。


 再び先ほどのバチバチとした光球を、倍程の大きさで出され『あぁ終わった』と思う拓海。しかしその拓海の後ろから突如スイーっと何かが飛び出した。

 それはボロボロの黒い布切れを纏った何かだったのだが、白い指先で光球に触れるとあっという間にそれを無散させてしまった。

 突然現れたそれに、色男は咄嗟に大きく距離を取った。


「た、助かりました」


 誰かはわからないが助かったと礼を言う拓海に、振り返る黒いボロ布を纏った何かは――スペクターだった。

 白い指先に見えたのは、ただの骨。要はほとんど拓海と同じような見た目であり、ばっちり心霊現象の枠組みに入る見た目であった。


 がっつりそれを見てしまった拓海は硬直した。

 それとは反対に拓海が生み出していたスペクターは頭蓋骨部分を下げると顔のいい男の方に向き直った。

 ふわりとスペクターの周りに浮かぶ黒色の光の球。


「スペクターを生み出せるならそこそこの格でしょうが。この私、ヴァンパイアロードのトリステン伯爵に敵うとでも?」


 言うなりあちらもバチバチ玉を生み出す。そして衝突する黒玉とバチバチ玉。

 もう嫌だと拓海は再び脱兎のごとく逃げ出した。


(本当嫌! もう嫌! なんなのこれ!)


 いっぱいいっぱいのまま走り続ける事小一時間。

 一切息切れせずに走る拓海は、途中で何か踏んづけたり飛んできたのを叩き落としたりしていたが意識を向ける余裕などなかった。


 走り続けてようやく周りが静かになって、足を止める拓海。

 あたりはおどろおどろしい沼地から、おどろおどろしい森の中へと変わっていた。

 植物全てが若干黒ずんでいるようで、垂れ下がる蔦すら生きているかのような嫌な気配がする森だ。


 ぞくりと身体を震わせ自分の腕を摩ったところで拓海はようやく気付いた。

 腕を触った筈なのにやわらかい感触が無かった。ゴツゴツというか、コツコツとした乾いた感じの感覚があって、おそるおそる自分の手を見下ろす拓海。


 目に飛び込んで来たのは白い骨。

 ふぃーっと意識が遠のきかけるが、踏ん張って拓海は耐えた。

 こんな恐ろしい場所で意識を失ったら今度こそ殺されると思って必死だった。


 はぁはぁ、と出る筈もない息を吐いて自分を落ち着かせもう一度覚悟を決めて視線を落とす。そこにはちょっと震えている白い骨。自分の手を握ったり開いたりすると、その骨も握ったり開いたりする。


(どうなってんだ筋肉ないのに……)


 人間一周回ると冷静になるようだった。

 拓海は呆然と眺めた後、そこから袖を捲って腕を、ローブを捲って足、腰、腹を見て最後に顔を触る。

 コツコツとした感覚は顔も同様で、なるほど全身骸骨なのかと理解した。


「いやなんで?」


(移住権だったんじゃないの?)

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