第8話 失った重みの価値
鉛のような身体は、翌日になっても変わらなかった。
夜を明かしたのは、父と、姉と姉の婚約者が眠る墓の間だった。寒くもなく、暑くもなく、昨日の午前に感じたのと変わらない、鳥のさえずりが聞こえる、穏やかな日差しを感じる朝。
だが、これが昨日の次の日であるのは、町へ向かう時に通らなくてはならぬ――城の広場へ戻った時に嫌でも感じた。流石に弔いきれない死体の数。どこから嗅ぎ付けたのか、その特に、損傷のひどい者の上や周りにはカラスが何羽も集まっていた。
こんな匂いなら、どこからでも分かるのかもしれない――。
外であるのに鼻を塞ぎたくなる匂いの中、冷めた横目にそう思いながら町のほうへ向かった。
砂利の小さなブロックが整然と敷き詰められた町もやはり、城と大して変わらぬ光景だった。昨日、火の手を上げていた石造りを除く家々や店は全て黒い炭となり、薄い煙を上らせていた。地面や壁に横たわる死体の数は変わらないものの、その燻(くすぶ)る匂いが、鼻につく匂いを和らげる。
女の侍従二人の元へ、最初は向かった。
母と妹、その妹を庇ってくれたであろう侍従の彼がいる屋敷は、二人の女侍従が横たわる通りの先にあった。その道中には一般者向けの墓地。だから、屋敷へ向かうなら彼女等も一緒に運んだほうがいいと思い、先にそちらへ。
女侍従の二人に、カラスは乗っていなかった。
だが、その側にある――紙袋からこぼれたであろうリンゴや食べ物を、一羽のカラスが啄(ついば)んでいた。しかし、そのカラスは僕が近付くと、中にあった骨のようなリンゴの芯を咥えてどこかへ飛び立った。群れからはぐれたように見える、小柄なカラスだった。
女侍従の二人は、それぞれ近くにいた。
日頃、買い出しの時は男の侍従に屋敷を任せ、共に買い物をするのが彼女等のルーティンだった。他国の新しい物が出店に並ぶこと、男侍従への小言やたわいないことを話しながら、屋敷とこの市場を往復するのが息抜きだと直接聞いたことがあった。
ただしかし――今、その二人の周囲は、彼女等の血だけで二人が収まるほどブロックは赤黒に染まっている。
足裏に伝わる血の粘り。冷たい頬。
温かいというのは、人が生きている証拠なんだと思った。
「······」
二人を抱えて、墓地へ向かった。
屈託ない笑顔をよく見せていた彼女も軽く感じたが、僕が密かに好意を寄せていた――表情が薄く背の高い彼女のほうがより軽く感じた。女性として見るその好意によって重さを忘れたのかとも一瞬思ったが、しかし、もう二度と、
『いいか、これはロアさまの為の鍛練だ』
『本当ですか?』
『いいじゃん、楽しそーだしっ!』
男同士の邪な密談から始まった、鍛練と称しての侍従三人でした徒競走の時は、彼女等はこんなにも軽くはなかった。
『遅れてますよ、ロアさま。ミアがもうあんな遠くに』
『やーい、重々(おもおも)エリー! ムダ肉ー!』
『······ロアさま。追い付けないなら尻ひっぱたきますからね』
決して、こんなにも――。
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