第5話 ボウガン使い
前傾姿勢からの、強い踏み込み。
直前までの崩れそうな足元をそこには感じなかった。
「うぉっ、あっぶねぇなぁ······」
首を跳ねようと抜刀と共に振り上げた剣は、奴の薄紫色の髪を掠めただけだった。
「へっ、へへっ。お前も剣士か。分かるぜぇその太刀筋。そこでくたばってんのはお前の師か?」
「······僕の、父さんだ」
「親父? だーっはっはっはっは! あぁ、あぁ、あぁ、そういうことか! どうりで同じ髪色をしてるわけだ! そいつと違って幼い顔してやがるし、瞳(め)の色が違うから勘違いしてたぜぇ!」
「······髪以外は母さん譲りなんだ」
父の瞳は黒色。母は碧眼だった。
「あぁ、そうかい。でも俺はそっちの色のほうがいいと思うぜぇ? なんせ、死んだ時に色が濁っていくのが――よく見えるからなぁ!」
奴はボウガンを放った。
脳天目掛けて飛んでくるそれを、僕は頭をずらして回避。
耳元で風を貫く音。
「へっ、やるじゃねぇか」
射出すると同時に走り出していた奴は、柱の影へ隠れていた。
カチリ、カチリと金属の音が柱の向こうから聞こえる。
「やっぱ、これぐらいやり応えないとつまんねぇよなぁ。逃げる奴を殺すのも嫌いじゃないが飽きちまう」
そして、柱向こうの金属音が消える。
「じゃあ、次行くぜぇ」
飛ぶように姿を表す敵。
その手には変わらずのボウガン。
だが、装填されている矢の数が違った。
「食らいやがれっ!」
同時に、射出される黒の凶器。
その数は先程の小さな回避を不可とするほど。
······いや、
(五······いや、六本か······)
瞬きもせず見たそれに剣を構える。
そして、稽古と鍛練で重ねてきた通りに剣を振る。
金属のぶつかり合う音が刹那に響き、矢は地面へ落ちる。
(奴は······)
ほんの一瞬。
気を矢に集中せざるを得ない時間に奴は消えていた。
足音はなかった。
柱に隠れるにはまだ時間としては足りない。
その時、カチリ、と音がした。
(上か······!)
見上げると、奴は背後のシャンデリアにワイヤーを垂らしていた。複数の矢を放つと同時、シャンデリアにもワイヤーを放ったのだろう。そして、ワイヤーで移動し手を放しては空中で矢を装填。ボウガンに新たな矢が装填されている辺り、さっきの音はその音に違いなかった。
「ヒャーッハッハッ、死にやがれ!」
距離は一秒もあれば到達する距離。
奴は、その超近距離で矢を放った。
斬り落とすには近過ぎる距離。
矢は、瞬く間に剣の横を通過していた。
刃の横を通過したそれは、鼻梁の左へと迫る。
「くっ······!」
なんとかかわしたが、頬を掠めた。
痺れる痛みを感じた。
だが、それでも矢のほうへ一瞬向けた視線をすぐさま奴に戻す。奴はボウガンを変形させ、ボウガンの先端に刃を見せていた。
「へっへっへっ、これで終わりだああああぁっ!」
奴は、これまで以上に下衆な笑みを見せた。
その直後、刃が肉体を裂く感触が伝う。
「············ごはぁっ」
血を吐いたのは、背後にいる奴のほうだった。
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