Bonus.2 - tr.3『接種しちゃうぞ!?』
「次の方ーどうぞー」
再度呼ばれた。
響一郎は思ったより長く固まっていたらしい。
彼は覚悟を決めて、ゆらりと立ち上がると、パーティションの向こうに一歩、一歩と踏み出していった――。
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「いいからさっさとなさいっ!!」
「ンな事言われてもさー(`ヘ´)」
「朝からの事をひとつひとつ思い出してみろ」
「ンな事いちいち覚えてる訳ないだろJK」
「落ち着いて考えれば良いのよ~~」
「うぅヒビキちゃんマジ女神……それにひきかえ」
「何か!?」
自分をちろっと見たヴィーにすかさず反応するソニア。
この辺りの呼吸はベテランのお笑いコンビのそれに匹敵するレベルw
「ヴィーちゃん、まぁ思い出してみなよー☆」
ダメ元で、という顔で言う三沙織。
そんなこんなで騒いでいたためか。
スタッフが一人、外からこちらへ近づいてきた。
一斉に黙り込む電音部の面々(without 響一郎)。
やがてそのスタッフは彼女たちの前まで来ると――
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――パーティションの仕切りを抜けると診察室であった。
――頭の中が白くなった。
などという取り留めも無いことをぼーっと考えてその診察室前の椅子で順番を待つ響一郎。
エントランスでの大騒ぎなど知る由も無く、兎に角接種のことは考えないように、先程から脳内で各社のカセットの品番とスペックを延々と読み出していたが、それも厭きてくると途端にやることが無くなってしまう。
さて、どうするか――と更なる現実逃避を図る彼の耳に、最後の審判とも言うべき言葉が飛び込んできた。
「次の方、どうぞー」
ふと周りを見ると、彼が列の先頭になっていた。
いよいよか――正に決戦は金曜日。
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「雨音響一郎さん、で間違いありませんか?」
と、正面の椅子に掛けた初老の女性が問う。この人が医師だろうか。
はい、宜しくお願いします、と辛うじてそれだけ返し、響一郎は彼女の向かいの椅子に座った。
響一郎から渡された問診票を受け取り、接種券のラベルを1枚剥がしてそれに貼る。
同室のもう一人の女性が注射の準備を始めるのを見て一瞬血の気が引いたが、どうにか堪えた。
アレルギーはありませんか、今まで注射で問題がありましたか、アルコールで拭いてもかぶれませんか――
等々、注射の際の定番の質問に幾分上の空で返事はしつつも、彼の目は注射針の先端から離れることは無かった。
「――はい、終わりました。絆創膏貼っておきますね」
「はい?」
と思わず返した響一郎は傍目から見てもかなり間の抜けた表情だったに違いない。
微苦笑した医師は改めて言う。
「これで終わりです。絆創膏は寝る前には剥がしても結構ですよ」
他にも、入浴は大丈夫ですが注射跡は擦らないようにとか、痛みは出ますが2~3日もすれば収まりますとか、それでも痛む場合は病院を受診するようにとか、熱発の場合は市販の解熱剤でも構いませんとか。
諸々の説明を上の空で聞いていた程には彼にとってもあっけなかったのであろう。少なくとも、
「はい、解りました。――それで、注射は?」
という間抜けな質問をしてしまう程には。
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響一郎が出口で次回の予約をし、その先のスペースで15分ほど座って経過観察を終えて出てくると、電音部の面々が騒いでいる。
「ん?」
「あれ、雨音くん、大丈夫だった?」
彼からやや遅れて接種を終えて出てきた真貴が駆け寄ってくる。
「あぁ、まぁな。――で、これは一体、何事なんだ?」
「あー……まだ続きやってたんだ……(´・ω・`)」
「続き?」
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彼らが接種を受けている丁度その頃。
ヴィーが忘れて来たという接種券のことでてんやわんやになっていた電音部一同の前に、スタッフが近づいてきた。
すわこれは怒られる奴――とばかりに一瞬で静かになった彼女たちの前に来たその人は一言。
「あのー、もしやこの接種券、皆さんのどなたかのではありませんか?」
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「だ・か・らっ!! あれほどっ!! きちんと確認なさいとっ!!」
「あったんだからいーじゃねーかYO」
「ソニア、落ち着け。あとヴィーはせめて少しは反省しろ」
「まぁ結果良ければ全て良しって言うしねー☆」
「ちょ、ミサ、お前、火に油を注ぐようなことを――」
「ヴィー、ミサ、ちょっと二人ともそこに直りなさいっ!!」
「ちょいちょーい、部長、何でアタシまでっ!?」
「お前も少しは考えて物を言わんか(´・ω・`)」
「まぁまぁ~~見つかったんだし~~ソニアちゃんも落ち着いて、ね?」
「
「あー……まぁ大体察したwww」
「ね、ねぇ、そろそろ止めた方が良くない……?」
「やなこったwww 俺はしがない庶民なんで悪役令嬢様に逆らうなんてとてもとてもwww」
「だ・れ・が……」
その刹那、ソニアが悪鬼の如き表情で響一郎を睨み付ける。
「悪・役・令・嬢・ですってぇー!!」
はい、地雷踏んだー!! ある意味、
その後、攻撃目標が響一郎に移ったのを幸い、ヴィーと三沙織はすたこらさっさとばかりに接種会場内に逃亡し、やがてそれに気付いたソニアが漸くクールダウンして呆れ顔の真紅と困り顔の日々希と共に接種に向かった。
「――はぁ……なんかすーっごく疲れたよ……(´・ω・`)」
「なんつーか、ウチの先輩方は元気が有り余ってるわなw 先に献血に行ってきた方が良くね?」
「疲れたのの半分くらい、雨音くんが原因なんだけど(-_-#」
「Why?」と首を捻って欧米人の様に肩を竦める響一郎をジト眼で睨みつつ盛大に溜息を吐く真貴だった。
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翌日――
「いやー寝る前はちょっと筋肉痛っぽく痛かったけど、一晩寝たらもーすっきり、何とも無い!! 接種なんざ楽勝楽勝www」
「ぐ……くく……」
「な、何であんなに……」
至極ゴキゲンな響一郎の横で、午後から副反応の熱発と疼痛で部室で休んでいるソニアと真紅。
こちらは至って平常運転の日々希と体力はある真貴が甲斐甲斐しくその2人を介抱している。
「しかしヘタレ野郎が副反応ほぼゼロとか解せぬ(-_-#」
「ホントにねー☆(^^;」
2年生コンビもそこそこ軽症の模様。
「いやーははは!! もーいつでもバッチコーイ!!ってなもんよ!!」
その日、電音部室には響一郎のナチュラルハイな高笑いが響いていた。
[L] ||||||||||||||||||||||||||
-dB 40 30 20 10 5 0 2 4 6 8 +dB
[R] |||||||||||||||||||||||
結局、問題の副反応とやらは筋肉痛程度で、翌々日には収まりました。
ただ、既に2回目が済んだ方々によれば、2回目の方が重いらしいので、次の日は休んどいた方が良いかも…とのこと。
その辺はいずれまた。
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