第27話 第五の事件! 魔術師ナディアの訪日!

◼隆臣


「お前……新手のガイスト使いか!?」


「エミール・ウェーバー。エミの兄だ。そしてこいつの名前はジャック。お前の言うとおり俺はガイスト使いだ」


 紺色を基調とした服装のエミールという金髪の男は丁寧に答えた。

 その横で浮遊するジャックと呼ばれたガイストは白と金を基調とするゴージャスなドレスを着用している。容姿や服装がクイーンと似ているな。



「お兄さま!」



 エミリーは叫んだ。



「待ってろ。今すぐ助けてやる」



 エミールはそう言ってジャックを引き連れ俺たちに近づいてきた。



「エースの能力は分身を作りだしたり身体能力を強化することと聞いていた。しかしどうやらジャックの攻撃が見えるらしいな。それはエースの第九感か?」



 エミールは右手を顔の近くまで上げパチンと指を鳴らした。



「危ないっ!」



 突然エースがタックルをしてきた。俺たちは一緒に屋上から落ちていく。

 そしてたちまちさっきまでいたところが何か見えない力により破壊された。



「エース、何が見えているんだ!」


「残滓粒子が! 残滓粒子の波が押し寄せてきてたっ!」


「波?」



 エースは下に分身体を作り出し落下してきた俺をキャッチしてくれる。

 ガイストであるエースは浮遊能力があるため無論無事である。

 エミリーをお姫様抱っこしたエミールと隣に浮遊するジャックは屋上から俺たちを見下ろしてくる。

 そしてエミールは砕けた屋上の破片を蹴り落とす。



 ――ドーンッ!



 地面と衝突したにしては異常に大きな音が鳴り響いた。



「まさか! 衝撃波!」



 エースは何かに気づきかけたようだがすでに陽炎かげろうのようなモヤモヤは目の前まで迫っていた。

 これは……避けられないッ! 俺は防御体勢を取った。



 ――キーンッ!



 しかしエースと俺は見えない謎の攻撃を食らうことはなかった。

 突然目の前に飛び出してきた少女の前で奇妙な音とともに透明なモヤモヤが霧散していく。

 その場にいた誰もが現状を理解できなかった。エミールも驚愕の表情を浮かべている。



「ふぅ。なんとか間に合った」



 灰色のお下げ髪はつややかで美しく質素な黒いワンピースを着ていて、チャップリンみたいなステッキを手に持った中学生くらいの女の子が俺とエースの目の前に立っていた。かなりかわいいぞ。



「テメー……ッ! どうしてここにッ!」



 エミールは眉間にシワを寄せてお下げの少女を見下ろす。



「久しぶりね、エミール」



 少女はほほえんでエミールを見上げた。どうやらこの2人は面識があるみたいだ。

 すると、



「あ! いました! こっちです!」



 凛のかわいらしい声が遠くから聞こえてきた。



「あれは……ユークリッドッ! チッ! ここは一旦撤退だ。クイーン! いけるか?」



 エミールがそう言うと、エミリーの中から姿が薄れたクイーンが現れる。



「ええ……なんとか」



 クイーンはそう言って再び辺り一帯を停電にした。

 次にエミールたちを視認できた頃にはすでにかなり遠くまで移動していた。



「今ならまだ追いつける!」



「待ってください! 行かないでください!」



 追いかけようとした俺に凛が抱きついてきた。



「凛……」



 凛は目をうるうるさせて俺を見上げてきている。



「わかった。行かないよ」



 俺も怪我してるしここは無理しない方がいいな。何より凛に行くなと言われたしな。



「ところで……この方はいったい誰ですか?」



 凛は不機嫌そうに口をとがらせて訊ねてきた。切り替えはや!



「(まさか! わたしというものがありながら、そんなまさか浮気を……!?)」



 そしてなんかぶつぶつと呟いている。



「俺たちもよくわからないんだ。えっと、君は……?」



 凛のおぞましい視線を浴びながら俺は目の前のお下げの少女に尋ねる。



「まさかお前が品川隆臣なのか?」



 少女は逆に問いかけてきた。



「おう、そうだが?」



 どうして俺のフルネーム知ってんだ? まだ名乗ってないし誰も俺をフルネームで呼んでないのに。



「はぁ〜やれやれだわ」



 短く返事した俺に対して少女は深くため息をつき、



「私の名前はナディア・イェルヴォリーノ。法院所属の特級の魔女だ。和也から頼まれてイギリスから来た」



 と、自己紹介をしてくれた。

 法院ってのはロンドンにあるMMOの総本部だよな。それに特級ってことは鬼塚先生と同じくらい強いってことか。

 和也さんはすごい人と知り合いなんだな。



「ほぇ〜! ナディア・イェルヴォリーノってあのロザリオ・スミスの!?」


「まあ、そうとも呼ばれているな」



 エースが目を輝かせて尋ねるとナディアという少女は首肯しながら答えた。



「でも君は8時に羽田に到着するはずじゃ?」


 と、俺。


「何を言ってる。私は18時に到着するとWhatsAppで和也に伝えたぞ!」


「18時!?」


「まさか和也のやつまた間違えたのか! ったく! こっちは散々待たされたんだぞ! これで3度目だ! あいつは時計すら読めないのか!」



 ナディアは怒り心頭で愚痴をこぼした。てか和也さんって時計読めないの?

 しばらくして落ち着いたのか、



「とにかく! 私をホウエンとかいうやつの家に案内してくれ。長時間のフライトで疲れたんだ。ふあぁ〜眠い」



 そう言いながら道端に転がっていた巨大なトランクケースを取りに行った。

 かくして俺たちはイタリア人の魔術師ナディアを豊園邸まで案内することになった。



 To be continued!⇒

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