第26話 第五の事件! 彼女は殺し屋の女王

◾エース


 その声は屋上から聞こえてきた。

 私と隆臣が上を見上げるとそこには金色の長髪を風に靡かせ黒と金の絢爛なゴシックドレスを身にまとった少女が悠々と浮遊していた。

 彼女の容姿を例えるならば女児向けにつくられた洋人形だ。



「もっとゆっくりでもよかったのに、クイーン。もう少しお兄さんたちと遊びたかったし」



 エミリーと呼ばれた少女はクイーンという少女にそう言った。



「まさかこいつ……ガイストじゃなかったのか? 本物のガイストはあいつで、こいつは使い手!?」



「そんな!」



 私たちは現状が信じられなかった。

 でもクイーンは浮遊している。浮遊できるのはガイストだけ……つまり私たちが今まで戦ってきたのはただの使い手だったんだ。

 クイーンと呼ばれたガイストはエミリーという使い手の近くに降り立ち、



「それじゃ、ぱっぱと片付けよっか」



 と言って私たちの方に細くて綺麗な指を向けてきた。そして背後から稲妻が発射される。

 隆臣はとっさに足元の鉄パイプを蹴り上げ避雷針にして稲妻を誘導した。

 そして壁を蹴って私とともに建物の屋上に向かう。



「ごめん隆臣……私、能力解析に集中しすぎて魔力粒子の解析を怠ってた」


「気にすんな。結局相手の総戦力は変わらないだろ」


「うん……」



 エミリーをガイストだと思い込んでしまったばかりに残滓粒子の解析を行わなかった。もし残滓粒子を解析していればエミリーがガイストではなく使い手だと気づけたので何か変わっていたかもしれない。



「逃げても無駄。すぐに追いついてみせる」



 クイーンとエミリーも逃げる私たちを追いかけてきた。

 クイーンは手を伸ばして稲妻攻撃の照準を定めたがここが屋上であることを理解してその手を下ろした。屋上には避雷針やアンテナなど稲妻を吸収するものが多いからね。

 そして次の瞬間クイーンが目の前に現れた。



「いつの間にッ!」



 クイーンはエミリーと同様超薄型のパワードスーツを身につけているのだろう。動きが人間離れしている。



「ッ!?」



 最大限まで強化された身体能力で隆臣はクイーンの拳をなんとか受け止めてくれる。だがクイーンは間髪入れず回し蹴りを放つ。

 隆臣は頭を下げてそれを避けクイーンの腕を両手で掴んで一本背負いで地面に叩きつけた。



「あぐぁ!」



 クイーンは苦痛に顔を歪めたがすぐに隆臣を蹴り飛ばして距離を取った。



「はぁはぁはぁはぁ」


「はぁ……はぁ……」



 互いに息を切らしている。

 隆臣とクイーンは互いに顔面に殴りかかった。

 それから数秒経って、



「俺の方が腕が長かっただけだ。お前が弱かったわけじゃない」



 クイーンはその場に倒れ白い光――霊魂状態になってエミリーの中に戻っていった。

 あとはエミリーだけ……と思ったらエミリーもうつ伏せに倒れてしまった。エミリーには何もしてないのに。

 隆臣はエミリーの元に駆け寄る。そして体に触れようとした瞬間、エミリーは起き上がり隆臣に殴りかかった。

 避けられるはずなのに……隆臣は避けなかった。パワードスーツで強化されたパンチを顔面で受けた。



「隆臣!?」


「大丈夫だエース」



 隆臣はエミリーの腕を掴み、



「俺は最低だ。女の子の顔を……殴った」



 地面に膝をつけてエミリーの頭をなでなで。

 敵の女の子にそんなことするなんて! ずるい! ずるいよ隆臣! 私もなでなでして欲しいのに! 



「……な、なんで、負けたエミの……心配なんて」



「なんでってそりゃあお前が女の子だからだろ。いくら敵でも女の子を殴るなんて男がしていいわけねーだろ」


 その言葉にエミリーは弱々しく笑い、



「お兄さんは……優しいですね。ロリコンだけど」


「ロリコンじゃねーよ!」



 隆臣はもう一発殴りたそうな顔をしていた。

 隆臣は本当にやさしい。どんな女の子に対してもやさしい。隆臣のそういうところが私は大好きだよ。



「さて、1つ質問だ。お前はマフィアの人間だな?」



「だからなんだっていうんですか?」


「色々組織のことについて教えてくんねーかなーって」


「アホなんですか? そんなの教えるわけないじゃないですか! ボスに殺されちゃいます」



 隆臣が尋問するがやっぱりそう簡単には口を割ってくれないよね。



「じゃあその首からかけてるのは何だ?」



 エミリーは首からペンダント下げているようだが服の中に入っていてよくわからない。



「これは……ちがっ!」


「なに動揺してるんだ? まさか虹色の魔力石オリハルコンか?」



 エミリーは逃げようとするが腕を掴まれているのでそれは叶わない。

 私は第九感を発動して空色の瞳でエミリーを見つめた。

 もちろんガイスト使い特有の残滓粒子が観測される。そして一際目を引くのは胸元のペンダントから放たれる異様な魔力粒子。

 私は隆臣に頷く。



「やっぱりな。じゃあ失礼するぜ」



 隆臣はエミリーの胸元に手を伸ばす。



 ――バチコン!



「いったッ! 何すんだよエース!」


「私がやるよ! 隆臣は下がってて!」



 私は真顔で言った。今の隆臣は完全に変態おじさんだったよ。

 身動きが取れないエミリーに近づいて首から下げるペンダント手に取ってみる。



「これは……虹色の魔力石じゃないよ」



 それは金色のロケットペンダントだった。



「だから違うって言ったじゃん! 返しなさい!」


「ご、ごめんね」



 私はロケットを手渡し謝った。



「これは……大事な宝物なの」


 エミリーは大切そうにロケットペンダントを抱きしめている。

 すると突然、



「なにか来る!」



 私は分身体を作りだし隆臣を押し飛ばした。



 ――ドゴンッ!



 衝撃音とともに分身体が吹き飛ばされ屋上の床も一部破壊される。



「一体何が?」



 ようやく脳の処理が追いついて私たちは驚愕した。

 屋上に続く出入口のドアのところに隆臣と同い歳くらいの金髪の男が立っていて、その背後にはウェーブのかかった金髪をなびかせる少女が浮かんでいた。

 その少年を見てエミリーは目から涙をポロポロと零した。



「泣くなバカ妹。俺たちが来た」



 To be continued⇒

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