第25話 第五の事件! 少女の実力
◾エース
あの全身タイツ――じゃなくてコンプレッションウェア、どこかで見たことある。
えっとたしかUSアーミーが2029年に正式採用したコンプレッションウェアで背中装置の効果で空気中の魔力粒子から発電し高性能のパワードスーツとしても機能するとかいう代物。それをどうしてこの子が?
とにかく……あのパワーとスピードの秘密はわかった。そしてこの子のガイスト能力はおそらく周囲から電気を集めて放出すること――電気を操ること。
「わかったよ隆臣! この子のガイスト能力は電気を操ること! あのパワーとスピードはパワードスーツによるものだよ! 弱点は2つ。1つは貯めた電気はすぐに放出しなければならないこと。2つ目は電撃を使うと再度電気を貯めるまで電撃は使えないことだよ!」
たった3秒で情報を処理し私は的確に少女の能力を看破した。
分身を1体作り身体能力を向上させ、
「単純なパワーとスピードならこっちの方が上だよ。でも電撃は食らったら即死だよ」
と警告する。
「ああ、わかってる」
隆臣と分身は少女に息のあった連携攻撃を繰り出していく。
しかし少女は電光石火で隆臣の後ろに回り込み小さな拳を隆臣の胸に放つ。
隆臣は体を逸らしてそれを避けほぼ同時に繰り出された足払いもジャンプで回避する。
分身は隙の生まれた少女に殴りかかるが少女はそれを自らの手の平で受け止めた。
少女は隆臣から一旦距離を取る。
2人は睨み合いしばらくの沈黙が流れた。
少女は無言のまま息を整える。隆臣も同様にしながら賢明な手段を練っているのが私の分割脳の一部に伝わってくる。
隆臣は私の分割高速演算思考を自由に使うことができる。だから私は隆臣に多くの分割数を割いてあげる。
(スタミナは普通の女子小学生と変わらないみたいだが、いったい使い手はどこにいる? この近くなのか? それとも少し離れた所に? どちらにせよここは人が多すぎる。探している時間はない。まずはこのガイストからどうにかするべきだな)
隆臣がそのような思考を巡らせていると、突如として少女は後ろを振り返って走り出した。
「待て!」
少女を追いかける隆臣の肩につかまって私もついて行く。
そのときまたしても停電が発生した。
月明かりを頼りに敵ガイストを追いかける。少女の走る速度は徐々に上昇し壁を蹴るなどして建物の屋上まで登っていった。
「おいおいまじかよ! エース! 俺たちも行くぞ!」
「了解!」
私は分身を一旦消し隆臣の身体能力強化に全振りする。
隆臣は少女のまねをして壁を蹴り上がり建物の屋上まで登った。
少女はまるで忍者のように軽快に屋上を飛び移っていく。隆臣もその後を追う。
全然失速しない! さっきまではすぐスタミナ切れでバテてたのに、あれは私たちを油断させるためのブラフだったの?
少女はビルの屋上から地面に飛び降りた。隆臣も続いた。
しかし、
「なにィ!」
巨大な鉄球が横から迫ってきた!
「ッ!」
私は瞬時に霊体化したが隆臣は対応しきれずそれにぶつかってしまう。
「ガハッ!」
吹き飛んで道路の真ん中で倒れた。
立て続けに大型トラックが隆臣を轢き殺さんばかりの猛スピードで突進してくる。
「エース!」
隆臣は叫んだ。
私は一瞬で分身を作り出し分身は隆臣の腕を掴んで引き寄せ、大型トラックに轢き殺されるのを阻止した。
「あの野郎……なんてことしやがる!」
隆臣は立ち上がった。おでこからは血が流れている。
私は隆臣の身体を支えてあげる。
「大丈夫だエース、心配するな。俺はまだ……戦える!」
苦しそうに声を振り絞っている。きっと鉄球がぶつかった左半身は骨も折れてると思う。
その様子を見た少女は口角を釣り上げてほほえんだ。
それと同時に再び停電が起こる。
「どうですかお兄さん。ロリっ子に殺されるのは嬉しいですよね? 本望ですよね? ねぇねぇどうなんですかぁ? ふふふ」
暗闇の向こうから少女がささやいている。
たしかに隆臣はロリコンかもだけどこんなところで殺させはしないよ! 絶対に私が守ってみせる!
電気が復旧すると口元を隠して上品に笑う少女の姿があった。
そして少女は思い出したようにスマホで時間を確認し、
「いけない。少し遊び過ぎちゃったっ! そろそろカタをつけないと」
と言って低く構え拳に力を込める。
「エース、限界まで俺の身体能力を強化してくれ!」
「了解!」
私は隆臣の指示に従う。
「さあ、来やがれ!」
隆臣が構えると同時、少女は地面を蹴って疾風のごとく肉薄して拳を放った。
隆臣は強化された身体能力を活かしてバックステップし電撃を回避。続く連撃も次々とかわしていく。
その間に分身は地面の鉄パイプを手に取り少女に向けて的確に投擲した。
少女はハイキックでそれを蹴り落としその回転力を殺さずに隆臣に蹴りを入れる。
隆臣は腕で受け止めるがあまりの強さに1歩後退してしまっている。
「くッ!」
怯んだ隆臣に少女はすかさず拳を叩き込もうとする。
ヤバイ! あれは避けられない!
拳が胸に直撃して隆臣はぶっ飛ばされ壁に激突した。
「う……ッ! なんてパワーだッ!」
どうやら今の蹴りやパンチには電撃はなかったようで感電することはなかった。
よかった……本当に。本当によかった!
少女の攻撃はさらに続き隆臣の顔面に飛び蹴りを入れようとしている。
隆臣は体を回転させて間一髪で避け、隙の生まれた少女の顔面を殴りつける。
少女は吹っ飛び地面に倒れた。
「女の子を殴るなんて男がしていいもんじゃねぇ。本当にすまない。だがそうしなければ俺が死ぬ。許せ」
隆臣はそう言って構え直した。どんなときでも紳士の心を忘れない隆臣……すっごくかっこいいよ!
す少女は口から垂れる血を手の甲で拭ぬぐって立ち上がりなぜか不敵な笑みを浮かべ、
「ですがお兄さんはもう既にチェックメイトですよ。チェックではなくチェックメイト。お兄さんの死はこの時点で確定したのです」
私も隆臣もこの少女が何を言いたいのかよくわからなかった。しかしすぐにそれを理解させられてしまった。
「ありがとうエミリー。お陰でたくさん電気を貯められたわ」
To be continued!⇒
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