第21話 第四の事件! 手の込んだ作戦

◾尚子


 その後私、ハート、山中を背負った原田は迎えの車で秋葉原の自宅まで戻った。

 ハートの怪我は私の体内由来の魔力粒子を消費すれば完治したが、私のものは包帯を巻いて止血しなければならなかった。しかし数日もすれば完治する程度だったのは幸いだ。


◾隆臣


 翌日。

 俺、エース、凛、ジョーカー、尚子、ハート、クリス、ダイヤの8人は上野の街を歩いていた。

 魔法に詳しい和也さんに直接話を聞いてもらうためである。きっと彼なら何か有益な情報を提供してくれるかもしれない。



「エース、残滓粒子の反応はあったか?」


「今調べてみるね」



 エースは浮遊しながら文字通り目の色を変えて辺りを見渡し残滓粒子の解析を始めた。

 この真剣な顔がまたかわいいんだよなぁ。笑顔に続いて好きな表情ランキング第2位だ。


 

「異質な残滓粒子は観測できないよ。大丈夫、この辺に敵ガイストはいないよ」



 エースの言葉に全員が安堵した。



「ありがとうエース」



 俺は浮遊するエースの手を引いて近くへ寄せ頭をなでなでしてあげる。



「えへへ」



 エースは嬉しそうに顔を弛緩させた。いわゆるとろけ顔ってやつだ。この表情も好きだ。エースは本当に表情豊かなだよな。

 尚子とハートからきのう2人が組織の幹部と戦闘になったことを聞いていたのでより一層警戒していたが、どうやら今は少し気を楽にしていてもよさそうだ。

 そんなとき、



 ――ぐぅぅうううう



 誰かのお腹の虫が大きく鳴いた。



「わ、私じゃないぞ! いい匂いがするからって私の腹の虫は鳴いたりしないんだからな!」



 と、尚子。



「なに変なこと言ってるんだよ」



 俺は呆れ顔で尚子を眺め、



「まあ、もう夕飯時だしな」



 腕時計を見ながら呟く。

 すると、



「尚子、最近ずっと昼ごはん食べてないんだよ〜。夏に向けてダイエッ――」



 ハートは何かを言いかけたが尚子に口を塞がれたため結局の何だったのかよくわからなかった。夏に向けて何しているんだろ?



「ちょっとそこの若者たち! そうそうあんたたちよ!」



 小さな料理店からエプロンをかけた腰の曲がったおばあさんが出てきて俺たちに声をかけてきた。



「食べてかない? おいしいのあるよ」


「8人で!」



 はらぺこ尚子は即答した。


◾隆臣


 ターンテーブルにはホイコーロー、チンジャオロース、マーボー豆腐、春巻、エビチリ、チャーハンといった中華料理がドドーン並んでいた。



「う、うまいぞ! これはうまい!」



 尚子は目を輝かせてホイコーローの感想を述べる。

 こいつのこんな楽しそうな顔初めて見たな。教室でもいつも真顔で何考えてんだかわからなかったけど、今はわかる。完全に食事を楽しんでいる。

 さて、俺も一口パクリ。



「本当だ! うまい! これはいける!」



 俺もその美味しさに舌鼓を打った。



「この麻婆豆腐もおいしいよ!」


「んまーい!」


「あふあふへふはぁ」


「とってもおいしいですぅ!」



 エース、ハート、ジョーカー、凛もにこにこ笑顔で料理を堪能している。



「お前らは食べないのか?」



 俺がクリスとダイヤに問いかけると、



「猫舌だからな。少し冷ましてるんだ」


「……ふーふー」



 と、2人は答えた。


「そうなのか。たしかにこの麻婆豆腐めちゃくちゃ熱そ……う、だ……」



 あれ……なんか急に、眠たくなってきた。瞬間、俺の意識がすうっと飛んだ。


◾クリス


 俺とダイヤが少し冷ましたマーボー豆腐を口に運ぼうとしたそのとき、突然俺たちを除く6人が崩れて倒れ始めた。



「ッ!? どうしたいきなり!」



 俺は6人の様子をうかがい、



「寝ているのか?」



 6人が眠ってしまったことに気づいた。睡眠薬を混入されたようだ。恐らく組織の仕業だ。



「ダイヤ! すぐにそれを捨てろ! 食べるんじゃないぞ!」


「……うん」


「まさかこんなところにまで組織の手が伸びていたとは。俺たちがここに立ち寄ったのはまったくの偶然だ。誘導されていたわけではないだろう。何者かにつけられてたか、遠くから監視されていたのか?」



「おい、そろそろ効いた頃じゃないか?」


「そうだな。見に行くか」


 2人の店員はクリスたちの個室に向かう。個室の暖簾のれんをくぐるとそこには8人が倒れていた。



「全員寝たみたいだな」


「よし、それじゃあ運び出そうぜ。目が覚める前によォ」


「だな! 報酬100万だろ? これで当分遊んで暮らせるな!」


「おうよ!」



 そう言って2人の男が一番手前で倒れていたクリスを運ぶために触れようとした瞬間、1人の男が鈍い音と共にぶっ倒れた。



「おい! どうした!」



 続いてもう1人も同様に床に倒れる。対照的に俺とダイヤが起き上がった。



「やれやれ。こいつらがアホで助かった。どうやら金で雇われていただけみたいだな」


 俺とダイヤは寝たふりで男たちを十分に引き付け、ダイヤがピッチャーの水を凍らせて作った氷の塊を男たちの頭にぶつけたのだ。



「……クリス、みんなを起こして、ガイストとガイスト使いを探そう。……この店の中にいる、はず」


「ああ、わかっている。だがその前に……どうやらこの店の店員は全員敵だったみたいだ。そこを見てみろ。……4人、小銃を持っていやがる。こいつらを起こしている暇はなさそうだ」



 俺たち以外の客はどうやら無関係の一般人だったようで悲鳴をあげたり子どもが泣き叫んだりする声が聞こえる。



「ダイヤ……全員いけるか?」


「……うん」



 ダイヤは別のピッチャーの水からつららを形成し4人が持つ小銃に向けて発射。つららは機関部に突き刺さり発砲不可能になる。

 それと同時に別のつららを男たちの脚部に放ち戦闘のイニシアチブを確保する。



「ナイス! よくやったダイヤ!」


「……ん!」



 すると自動ドアから小さな少女が外に飛び出して言った。



「ガイストか!?」


「……追ってみよう!」



 俺たちは少女を追って、外に出ようと個室を飛び出した。

 その瞬間――



 To be continued!⇒

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