第20話 第三の事件! 伊藤の仇殺し
◾尚子
竜巻により私とハートは巻き上げられ内部で高速回転する鉄球に体を酷く打たれる。
「ハート………ッ! あれをッ!」
「う……ん!」
瞬間、爆発により床に大穴が空いた。竜巻は消滅し、私とハートは下の階に落ちる。
円を描きながら竜巻から逃げたのは竜巻の追尾性能を調べる他に、いざとなったときの逃げ道を確保するためだったのだ。
しかしハートは浮遊能力があるので大丈夫だったが私は着地の際に足痛めてしまう。
竜巻から逃れられたとはいえ体は傷だらけで出血もしている。ハートもかなり疲弊しているな。
対照的に男は平然と私たちに拍手をしながらホワイトの風を操る能力でゆっくりとここまで降りてきた。
「素晴らしい。その発想力は素直に賞賛しよう」
「ッ! この野郎……ッ!」
――パンッ!
私は懐に隠し持っていた伊藤のリボルバーを取り出し、男の頭に向けて引き金を引いた。
しかし弾丸はホワイトが用心して張り巡らせていた風の結界によりあらぬ方向に飛んでいってしまう。
するとハートは能力を応用して竜巻内でぶつかり合う鉄球の火花を拡大。火が男の髪の毛に燃え移る。
「うおあクソッ! おのれ……ッ! よくも俺の髪の毛を……ッ! この自慢の髪の毛をォォオオオッ!」
ホワイトは男の髪の毛に燃え移った火を風で吹き飛ばす。
そして目の前に先ほどとは比較にならない大きさの竜巻を形成。男はいくつもの鉄球を投入する。
竜巻の暴風により窓ガラスが割れ床や天井が破壊されていく。
「よくもッ! よくもこの俺の髪型をッ! 許さん! 許さんぞォオッ!」
男はゆっくりと、竜巻と共に迫ってくる。
「殺すッ! 貴様は絶対に殺してやるッ!」
男の顔には先ほどまでの余裕は一切ない。今は怒りに満ちている。
「おいおい。殺すって言うやつは心が弱いとかなんとかほざいていなかったか?」
「この俺をなめるなアマがッ!」
こいつ狂ってやがる。
私は歯噛みしてこの絶望的な状況を脱出する方法を考える。
そして、
「よし、ハート! 飛び降りるぞ!」
「飛び降りる!? こっから!? ここ15階だよ!?」
私はハートの腕を掴み割れた窓に向かって走りそこから飛び降りた。
宝石箱のような夜景を映し出す新宿の夜空を私とハートは降下していく。気持ちのいい空気だ。
「これどうやって着地するの!? まさか無計画とか言わないよね?」
ハートは慌てて私に尋ねてきた。
「おいおいハート。何か忘れてないか?」
「え?」
落下の最中にも関わらず私は冷静だ。
「私が誰の銃を持ってるか忘れたのか? あの伊藤のリボルバーだ。クソッタレだが用意周到な伊藤だぞ。あいつのリボルバーの6発目に何が入ってるか忘れちまったのか?」
「まさか」
「そう。これだ!」
私は上空に向けてリボルバーの6発目――最後の1発を放った。
乾いた音は変わらないが放たれた銃弾は一瞬で展開しそこからパラシュートが現れる。
「パラシュート! いつも何のためにあるのかって思ってたけど、まさかビルから落下したときに使うとは思わなかった!」
私にかかえられながら、ハートはかつての伊藤のことを思い出しながら言う。
「伊藤のリボルバーを借りていなかったら、私たちは今頃……落下死してたな」
すると周りの通行人が上空から私たちが降りてきたことに驚き騒ぎ立て始めた。うるせーな。
「女が降ってきたぞ! 小さい女の子もいる!」「手に銃を握ってるわ!」「見ろ! また違うのが降って来る!」
そんな人々に対して着地した私は、
「黙れ! うっせーぞッ! とっととここから消えろ! 死ぬぞお前ら!」
と、叫んだ。
しかし人々は面白がってより一層騒ぎだす。酒の入った大人たちは陽気に私とハートを笑った。どうなっても知らんぞマジで。
私は呆れながら上を見ると男とホワイトがゆっくりと降り下りてきていた。
ホワイトの風を操る能力によって男は地面と衝突することなく着地する。
それを見て私は、
「お前に自由を与えよう。好きな死因を選ぶ自由をな。選択肢は全部で2つ。1つ目は焼死。2つ目は爆死。さあどっちだ?」
勝ち誇ったように言った。実際もう勝ったようなものだ。
「何を言ってるんだ? 死の恐怖でついに頭が参っちまったか? いや、頭がおかしいのは元々か。追い込まれているのはお前らの方だぞッ!」
「私たちが追い込まれてる? それはどうかな? 怒りで頭がおかしくなったか? よく自分の足元を見てみろ」
私の言葉に男はようやく気づいた。
「こ、これは爆薬ッ!?」
男は地面に敷かれた爆薬に目を疑った。
「ホワイト! ふきとばせ!」
「もう遅い! 爆破しろッ!」
「ん!」
――ドゴォオオンッ!
ホワイトが風で爆薬を吹き飛ばすよりも早くハートは爆薬の温度を上昇させ爆発させた。
男とホワイトは爆破に巻き込まれそのまま地面に倒れた。
「爆発が起こったぞ!」「なんだなんだ!」「あっぶねー! 危うく巻き込まれるところだった……」
悲鳴や騒ぎ声が響く。運良く爆発に巻き込まれた野次馬は誰ひとりとしていないようだ。
ちょうどそのとき、原田が山中を背負ってビルの入口から出てきた。
「お嬢! ハートちゃん! 無事でしたか!」
「ああ、なんとかな。それより原田、銃を貸せ」
「了解です」
私は原田から拳銃を受け取り、
「これでチェック・メイトだな」
男に銃口を向けて、
――パスンッ!
1発銃弾を撃ち込んだ。
「グアッ!」
「急所は外しておいた。私はお前を殺さない。殺してお前と同じ地面に立つのはごめんだからな」
私は再び夜空を見上げる。
「伊藤! お前の仇は取ったぜ!」
To be continued!⇒
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